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この記事は、2026年1月現在の最新貿易概況に基づき、小規模な和牛生産者や卸業者が「東南アジア市場」で勝つための具体策をまとめたものです。
2025年11月のJ-LEC(日本畜産物輸出促進協会)実績が示す「赤身需要の急増」を、単なる数字としてではなく、現地のリアルな食文化の変化として分析します。
「ロースしか売れない」という固定観念を捨て、在庫になりがちなウデ・モモ肉をいかに高単価な主力商品へと昇華させるか、そのロードマップを公開します。
専門的な貿易用語も、初めて取り組む方が不安を感じないよう噛み砕いて説明していますので、まずはここだけ押さえれば十分です。
1. 2025年11月輸出統計が証明した「和牛輸出」の構造変化
2025年11月の牛肉輸出実績は、これまでの和牛輸出の常識を覆すデータを示しました。 J-LECの統計によると、全体の輸出重量が堅調に推移する中で、対東南アジア向けの「部分肉(サブプリマル)」の出荷比率が顕著に増加しています。
かつての輸出は、一頭丸ごと(枝肉)や、サーロイン・リブロースといった高級部位のセット販売が主流でした。 しかし現在、ベトナムやタイのバイヤーが指名するのは、特定の調理目的に特化した「ウデ」や「モモ」といった赤身部位です。
「ステーキ」から「スライス文化」への劇的なシフト
この変化の最大の要因は、東南アジアにおける日本食文化の浸透度合いにあります。 2023年頃までの和牛は、現地の最高級ホテルで「ステーキ」として提供されるのが一般的でした。
しかし2026年現在、バンコクやホーチミンといった大都市では、中産階級をターゲットとした「本格焼肉」や「しゃぶしゃぶ」の店舗数が急増しています。 これらの料理に共通するのは、肉を薄くスライスして食べるという点です。
スライスして食べる調理法では、脂の融点が低い和牛の特性上、サーロインでは脂が強すぎて一度に多く食べられません。
そこで注目されたのが、赤身の旨みが強く、適度な歯応えがありながらスライスしても型崩れしないウデやモモの部位です。
現地バイヤーは「和牛の風味を楽しみつつ、何枚でも食べられる肉」として、これらの部位を戦略的に仕入れています。
2. 東南アジア主要国別の「赤身需要」深掘り分析
東南アジアを一括りで考えるのは危険です。 それぞれの国が持つ歴史的背景や宗教、所得レベルによって、好まれる部位やスペックは明確に異なります。

ベトナム:世界最強の「ウデ肉」市場へ
ベトナムの食文化は、古くから煮込み料理やフォーなどの肉料理が親しまれてきました。 そのため、噛むほどに味が出る「ウデ(肩肉)」への理解が非常に深いのが特徴です。
特にウデの一部である「ミスジ(Top Blade)」は、中心に一本筋が通っており、焼いた際の食感の良さがベトナム人の好みに合致しています。 」2025年11月の統計では、ベトナム向けの部分肉輸出は前年比で驚異的な伸びを記録しました。 現地のレストランバイヤーは、見た目の霜降りよりも「赤身の色の濃さ」と「肉質のキメ」を重視しています。
タイ:美容と健康を意識した「モモ肉」の隆盛
タイ、特にバンコクの消費者は、アジアでも有数の健康意識と美容への関心を持っています。 和牛に対しても「高品質なタンパク質」という認識が広まりつつあります。
ここで選ばれているのが、脂肪の少ない「モモ肉」です。 しゃぶしゃぶやタイ式鍋料理であるムーガタのアップグレード版として、和牛モモのスライスが飛ぶように売れています。
特に「シンタマ」や「カメノコ」といった部位は、薄切りにした際の色の鮮やかさが美しく、SNS映えを重視するタイの若年層から絶大な支持を得ています。
シンガポール:ハイエンドな「赤身エイジング」需要
シンガポールは、和牛の最高峰が集まる「アジアのショーケース」です。 ここでは単なる部位の指定だけでなく、「熟成(エイジング)」という付加価値が加わります。
富裕層の間では、脂っこいA5ランクのロースから、赤身をじっくり熟成させて旨みを凝縮させたモモ肉への嗜好の変化が見られます。
キロ単価1万円を超えるような超高価格帯でも、こだわり抜いた赤身部位であれば、シンガポールの名門レストランは喜んで買い付けます。
マレーシア:ハラール認証赤身肉の独占権
マレーシアは、イスラム教徒(ムスリム)が人口の多数を占める国です。
この市場を攻略する鍵は「ハラール認証」に他なりません。 マレーシアの消費者は、伝統的に脂を控えた調理を好むため、和牛であっても赤身部位の価値が極めて高く評価されます。
ハラール屠畜場で処理されたウデやモモのブロック肉は、マレーシアのみならず、近隣のインドネシアや中東市場への再輸出も視野に入る「プラチナ商材」となります。
3. 赤身輸出がもたらす経営上の「3大メリット」
輸出を「単なる海外への販売」と捉えるのはもったいないことです。 赤身輸出を戦略的に取り入れることは、国内事業の経営基盤そのものを強化します。
メリット1:国内の「在庫バランス」を解消できる
和牛を一頭買い(フルセット仕入れ)している事業者にとって、最大の悩みは部位ごとの需要の偏りです。
日本では冬にロースが売れ、夏にはカルビ(バラ)が動くといった季節性がありますが、赤身部位は安定して余りやすい傾向にあります。
これらの赤身を、焼肉需要が旺盛な東南アジアへ恒常的に輸出するルートを確保できれば、国内での安売りを避け、一頭あたりの収益(フルセット・バリュー)を最大化することが可能です。
メリット2:内外価格差による「利益率」の向上
現在、国内の赤身肉相場と、東南アジアでの「ブランド和牛」としての販売価格には大きな開きがあります。
日本国内では「端材」や「コマ切れ」として処理される部位でも、現地の高級焼肉店では「和牛の希少部位」として高いキロ単価で取引されます。
輸送コストや手数料を差し引いても、国内卸に回すより高い利益率を確保できるのが、2026年現在の赤身輸出の醍醐味です。
メリット3:為替リスクへの「自然なヘッジ」
円安が続く中、輸入飼料の高騰などで生産コストは上がり続けています。
この状況下で、円建てではなく「外貨に近い価値」を持つ輸出商品をポートフォリオに組み込むことは、経営の安定に寄与します。 特に需要が右肩上がりの東南アジア市場は、一度パイプを作れば景気変動に強い安定した販路となります。
4. 和牛赤身部位の「適材適所」活用マップ
どの部位をどの国に売るべきか、2025年11月の実績に基づいた最新の推奨ルートをまとめました。
| 部位カテゴリ | 詳細部位名 | 最適国 | 現地の主用途 | 需要指数 |
|---|---|---|---|---|
| ウデ系 | ミスジ、トウガラシ | ベトナム、台湾 | 本格焼肉(厚切り) | ★★★★★ |
| モモ系 | シンタマ、カメノコ | タイ、フィリピン | しゃぶしゃぶ、火鍋 | ★★★★☆ |
| ロイン系 | サーロイン、ヒレ | シンガポール、北米 | ステーキ、贈答用 | ★★★☆☆ |
| バラ系 | ショートリブ(カルビ) | マレーシア、中東 | バーベキュー、煮込み | ★★★★☆ |
5. 初心者が失敗しない「赤身肉の品質維持」テクニック
赤身肉は繊細です。 ロース肉と同じ感覚で扱うと、現地に届く頃には品質が低下し、クレームの原因になります。 小規模事業者が守るべき、鉄則の管理法を解説します。

ドリップを極限まで抑える「急速凍結」
赤身肉は水分(ドリップ)が出やすく、解凍時に旨みが逃げやすいのが最大の難点です。 一般的な緩慢凍結(家庭用の冷凍庫のような冷気による冷凍)では、肉の細胞が壊れてしまいます。
2026年現在の輸出シーンでは、液体急速凍結や磁場凍結といった技術を利用するのが常識です。 これにより、細胞壁を壊さずに凍結させることができ、現地のレストランで解凍した際も「生肉(チルド)」と遜色ない品質で提供することが可能になります。
酸素をシャットアウトする「高バリア真空」
赤身肉の変色は、鉄分(ミオグロビン)が酸素と反応することで起こります。 通常のポリ袋では微量の酸素が透過してしまうため、輸出には必ず「高バリア性」を持つ特殊な真空フィルムを使用してください。
また、パッキング時に肉の角で袋に穴が開く(ピンホール現象)を防ぐため、ボーンガード(骨当て)や二重袋といった対策も、小規模事業者がプロとして信頼されるための重要なポイントです。
6. 貿易実務を「軽やか」にする小口輸出のススメ
「輸出はコンテナ単位でなければならない」という思い込みは捨ててください。 今の東南アジア市場は、新鮮な肉をこまめに届けてくれるパートナーを求めています。
航空便(Air Freight)を活用したクイック配送
船便に比べて航空便は輸送単価が高いですが、赤身肉の輸出においては圧倒的なメリットがあります。 まず、リードタイム(輸送時間)が極めて短いため、現地の賞味期限を長く確保できます。
また、1ケース(20kg程度)から送ることができるため、テストマーケティングとして「今月はベトナムへウデを1ケース、来月はタイへモモを2ケース」といった柔軟な対応が可能です。 この機動力こそが、大資本の商社にはできない小規模事業者の強みとなります。
煩雑な「書類作成」のハードルを下げる方法
衛生証明書の取得には、屠畜場や加工場との密接な連携が必要です。 輸出先によって、残留農薬検査の結果や、牛の月齢制限(30ヶ月未満など)が厳密に定められています。
これらを自社だけで管理するのは非常に困難です。 あさひ通商のような、実務経験豊富なパートナーを活用し、「必要なデータと指示を渡すだけ」という体制を構築することが、本業を疎かにしない秘訣です。

7. 2026年、和牛赤身輸出で成功を掴むための最終結論
2025年11月のJ-LECデータが示したのは、単なるトレンドではなく「和牛の民主化」です。 和牛が世界中の人々にとって「知っているが食べたことがない贅沢品」から、「食べ方を知っている美味しい肉」へと変わった瞬間でした。
この変化の中で、一番の恩恵を受けるのは、赤身部位の価値を誰よりも知っている日本の生産者・卸業者の皆様です。
ロースの華やかさだけではなく、ウデやモモの深い味わいを正しく伝え、現地のニーズに合わせたスペックで届ける。 これだけで、貴社のビジネスは一気に世界へと広がります。
「輸出はまだ早い」「書類が難しそうだ」という不安は、行動しないための理由にはなりません。
市場が求めている今、まずは1ケースから送ってみる勇気が、10年後の貴社の事業を支える柱となります。 日本の和牛を、世界中の食卓へ。 その情熱を形にするために、私たちは常に最前線の情報と技術を提供し続けます。
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