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もし今日、日本産水産物を中国へ輸出しようとしたら?2026年現在の規制と手続きをシナリオ形式で解説

「規制が緩和されたって聞いたけど、うちのホタテ、本当に中国に出せるの?」——そんな問いを、北海道でホタテの加工・販売を手がける知人からもらったのが今年の春のことです。ニュースでは「一部解除」という言葉を見かけるものの、実際に自分が何をすれば輸出を再開・開始できるのかが、まったくわからない。このモヤモヤは、対中輸出を検討している多くの初心者の方が感じているはずです。

この記事では「もし今日、日本産水産物を中国へ輸出しようとしたら?」というシナリオを通じて、2026年4月現在の規制の実態と、実際に必要な手続きの流れを一つずつ解説します。専門用語には括弧で説明を加えながら、「明日から何をすればいいか」がわかる内容を目指します。

2026年4月現在の日中水産物貿易——まず「現在地」を確認しよう

具体的な手順を説明する前に、今の状況を整理しておきましょう。「規制が緩和された」という言葉だけを見ると「じゃあ輸出できる!」と思いがちですが、現実はもう少し複雑です。

時系列で振り返ると、次のような経緯があります。

  • 2023年8月:東京電力福島第一原発のALPS処理水(放射性物質を取り除いた処理済みの水)の海洋放出を受け、中国が日本産水産物の輸入を全面停止。
  • 2024年9月:岸田首相と中国側の首脳会談で規制「調整着手」を合意。ただし中国外交部は「即時の全面再開ではない」と明言。
  • 2025年6月30日:中国税関総署(GACC:General Administration of Customs of China、中国の輸出入を管理する機関)が一部解除を正式発表。10都県(福島・群馬・栃木・茨城・宮城・新潟・長野・埼玉・東京・千葉)からの水産物は引き続き輸入禁止とし、それ以外の地域からは条件付きで輸入を認める。
  • 2025年11月国産ホタテの対中輸出が一時再開されたものの、約2週間後に国内政治発言を契機に中国側が事実上の再停止状態に
  • 2026年4月現在規制の解除と強化が繰り返される不安定な状況が続いている。手続き上は一部の産地・品目での輸出が可能だが、施設登録・書類整備が完了していなければ実際には輸出できない。

ここで最も重要なポイントを押さえておきましょう。「規制が緩和された」=「すぐに輸出できる」ではありません。産地の条件を満たしていても、施設登録や各種証明書の準備が完了していなければ、船積みは一切できないのです。この「手続きの壁」こそ、初心者が最初につまずく部分です。

また、この3年間で日本の水産物輸出業者が学んだのは「一国依存のリスク」でした。農林水産省の統計によると、2025年の日本産水産物輸出額は前年比30.4%増の約905億9,000万円を記録しましたが、その多くは中国以外の香港・東南アジア・北米への市場分散によるものです。こうした背景を踏まえた上で、実際のシナリオを見ていきましょう。

※規制内容は変更される可能性があります。最新情報は農林水産省・JETROの公式サイトをご確認ください。

シナリオで追う「北海道ホタテ業者が対中輸出を再開しようとしたら」

Aさんは北海道・オホーツク海沿岸でホタテの加工・冷凍販売を手がける小規模事業者(従業員20名)です。2023年以前は中国の輸入業者との取引実績があり、パイプも残っています。2025年の規制一部緩和を受けて「もう一度、対中輸出を試みたい」と考えました。Aさんは何から手をつければいいでしょうか。

Step 1:産地確認(0日目)

最初の確認事項は「自分の産地が輸出可能な地域かどうか」です。中国税関総署が定めた規制対象外10都県(福島・群馬・栃木・茨城・宮城・新潟・長野・埼玉・東京・千葉)に北海道は含まれていないため、産地の条件はクリアです。ただしこのリストは今後変更される可能性があるため、農林水産省またはJETROの公式サイトで定期的に確認することが必須です。

なぜ産地確認がそれほど重要なのか?それは、同じ種類の食品でも産地によって「輸出できる」「輸出できない」が変わる規制の仕組みになっているからです。魚や貝の産地は漁獲証明書(どこで獲られたかを示す書類)で証明しますが、この書類がないと産地を証明できません。

Step 2:施設登録の状態確認(1〜2週目)

以前に中国向け輸出実績があっても、禁輸期間中に登録が失効している可能性があります。中国への食品輸出にはGACC(中国税関総署)への施設登録が必要で、中国の「国際貿易シングルウインドウ(CIFER)」システムから自社施設の登録状況を確認します。登録が失効していれば再申請が必要です。

Step 3:衛生証明書・放射線検査証明の手続き開始(2〜6週目)

証明書の申請・取得には時間がかかります。Aさんの場合、この段階で最低でも4〜6週間のリードタイムが必要です。詳細は後述しますが、「輸出したい日」から逆算して早めに動き出すことが鉄則です。

このシナリオのポイントは、産地条件をクリアしていても「輸出できる状態」になるまでに最低1〜2ヶ月かかるということです。「やろうと決めたらすぐ輸出できる」という感覚は、貿易の世界では通用しません。

施設登録(GACC登録)とは?「中国公認の工場」になる手続き

中国向けの食品輸出において最も重要な事前準備が、施設登録(GACC登録)です。日本でいえば、「この製造・加工施設は衛生管理が適切に行われています」と中国政府に公式認定してもらう手続きで、パスポートを取得するプロセスに似ています——持っていなければ「輸出できる国」に入れないのです。

この登録制度は、2022年1月1日に中国が施行した「輸入食品海外製造企業登録管理規定(CIFER規定)」に基づきます。登録が必要な品目は幅広く、肉・肉製品、水産物・水産加工品、乳製品、卵製品、調味料などが対象です。

ここで注意が必要なのは、「商品の加工方法」によって登録区分が変わることです。例えば、生ホタテと、ホタテを使ったレトルト食品では、登録カテゴリーと必要書類が異なります。自社商品がどの区分に該当するかは、農林水産省のFAMIC(食品分析開発センター・輸出証明発給サービス)や水産庁に事前確認することを強くおすすめします。

登録申請の大まかな流れ

  • ①申請書類の準備:施設の概要、衛生管理計画、検査記録、工場の見取り図など。
  • ②農林水産省・水産庁への国内申請:日本では「政府経由」で中国側に申請する仕組みになっており、事業者が直接中国に申請することはできません。
  • ③中国税関総署(GACC)による審査審査期間は案件によって異なりますが、数週間〜数ヶ月かかるケースがあります。
  • ④登録番号の付与と通知:登録番号が付与されると、ようやく「輸出できる施設」として認められます。

なお、規制の状況によっては申請受付が一時停止されることもあります。「今、受付が動いているか」を確認してから申請を進めることが重要です。農林水産省の公式ページ(https://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/china_shoumei.htmlに最新の手続き案内が掲載されています。

※登録手続きの詳細・最新要件は農林水産省・水産庁の公式情報をご確認ください。

衛生証明書と放射線検査証明——実際に必要な書類と取得の流れ

施設登録が完了したら、次は船積みのたびに必要になる「書類の準備」です。中国向け水産物輸出では主に次の3種類の書類が求められます。

① 衛生証明書(Health Certificate)

日本の動物検疫所または水産庁が発行する公的証明書で、「この商品は日本の衛生基準を満たしています」と証明するものです。英語と中国語の両方で記載されるのが一般的で、船積みごとに発行が必要(都度申請)です。申請から発行まで通常数日〜1週間程度かかります。

② 放射線検査証明書

中国が独自に求める放射線検査のための証明書です。都道府県の試験研究機関や登録検査機関でサンプル検査を行い、ヨウ素131・セシウム134・セシウム137などの放射性物質が基準値以下であることを証明します。北海道であれば北海道立総合研究機構などが対応機関の一例です。検査から証明書発行まで通常2〜3週間、費用は品目と検体数によりますが数万円〜十数万円が目安です。

なぜこの検査が必要かというと、中国側が「独自のモニタリングを継続する」との方針を崩していないためです。日本国内の検査で問題がなくても、中国独自の証明書を求められる構造になっています。

③ 原産地証明書

商品がどの都県で生産・加工されたかを証明する書類で、日本商工会議所や都道府県が発行します。中国側が「規制対象外10都県の産品ではないこと」を確認するために求める場合があります。発行には通常数日かかります。

書類準備の鉄則——「輸出日から逆算する」

これらの書類にはそれぞれ有効期限があります。証明書が有効期限内に輸出先に届くよう、「輸出日の少なくとも4〜6週間前には申請を開始する」のが安全ラインです。書類が揃っていなければ、どれほど商談が進んでいても船積みはできません。初心者が最もミスしやすいのが、この「書類の期限管理」です。

※書類の種類・有効期限・申請窓口は変更される場合があります。最新情報は農林水産省・動物検疫所・水産庁の公式サイトをご確認ください。

2026年の教訓——対中輸出は「複数市場同時戦略」とセットで考える

ここまで見てきたとおり、対中水産物輸出は「手続き上は可能」でも「安定した継続取引を維持するのが難しい」状況が2026年現在も続いています。外交的な要因で規制が突然強化されるリスクが現実にある以上、「中国一本」の輸出戦略は現時点では高リスクと言わざるを得ません。

実際に2025年の水産輸出額が前年比30.4%増(約905億9,000万円)を達成できた背景には、中国市場への依存を減らしながら香港・タイ・ベトナム・台湾・アメリカなどへ販路を広げた業者の取り組みがありました。特に香港は中国本土とは別の規制体系を持ち、中国のCIFER規制は香港・マカオ・台湾には適用されません。日本産水産物への規制も中国本土より緩やかで、対中輸出の代替・補完市場として有力です。

明日から動ける「3つの同時進行アクション」

  • ①自社産地と品目の確認農林水産省またはJETROの公式サイトで、自社産地が輸出可能地域かどうかを確認する。
  • ②施設登録の状況把握輸出実績がある場合はGACC登録が有効か確認し、初めての場合は農林水産省のFAMICシステムで申請手順を確認する。
  • ③代替市場のリサーチを並行する:JETROの「農林水産物・食品輸出サポート」や貿易相談窓口を活用し、香港・東南アジア向けの販路開拓も同時に進める。

対中輸出の準備を進めながら、並行して複数市場への展開を検討することが、2026年現在の最も現実的なアプローチです。

まとめ——「できる」と「できている」の間を埋める準備を

今回の記事では、「もし今日、日本産水産物を中国へ輸出しようとしたら」というシナリオを通じて、2026年4月現在の規制状況と手続きの流れを解説しました。要点を3つにまとめます。

  • ①まず産地確認:自社の産地が規制対象外10都県(福島・群馬・栃木・茨城・宮城・新潟・長野・埼玉・東京・千葉)に含まれないか確認する。
  • ②書類準備は「輸出日の6週間前」から:施設登録(GACC登録)の状態確認・衛生証明書・放射線検査証明書の取得には時間がかかる。余裕を持って動き出すことが最重要。
  • ③複数市場戦略を同時に進める対中輸出のリスクを分散するため、香港・アジア市場への展開も並行して検討する。

「何から手をつければいいかわからない」という方は、輸出経験豊富な専門家に相談するのが最短ルートです。有限会社あさひ通商では、中国・香港をはじめとするアジア向けの食品輸出手続きをワンストップでサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。

※本記事に記載の規制内容・手続きは2026年4月時点の情報をもとにしています。最新情報は必ず農林水産省・JETRO・水産庁の公式サイトでご確認ください。

出典

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