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もし今日、ホタテを米国へ輸出しようとしたら?2026年施行のFSMA第204条・食品トレーサビリティ規制を手順で解説

「アメリカにホタテを送りたいんだけど、2026年から何か新しいルールができたって取引先に言われて……何を準備すればいいの?」

中国の禁輸をきっかけに米国市場を模索し始めた水産業者の方から、このような相談が増えています。「FSMA(エフエスエムエー)」という英語の略語が出てきた途端に頭が痛くなる——でも実は、準備の流れはシンプルな5ステップに整理できます。

この記事では、2026年1月に正式施行された「FSMA第204条(食品トレーサビリティ規則)」が日本のホタテ輸出にどう影響するのかを、北海道の小規模加工業者をモデルにシナリオ形式でわかりやすく解説します。


まず状況を整理する:FSMA第204条、何がいつ変わったのか?

FSMA(Food Safety Modernization Act=食品安全強化法)は、2011年に米国で成立した大規模な食品安全法です。その第204条に「特定食品のトレーサビリティ追加記録要件」が設けられ、段階的に施行されてきました。

  • 2011年1月:FSMAが米国で成立
  • 2023年1月20日:第204条のトレーサビリティ規則が正式公布。3年間の猶予期間がスタート
  • 2025年8月1日:WalmartやKrogerなど米国の主要小売チェーンが独自の前倒し施行をサプライヤーに要求
  • 2026年1月20日:FDA(米国食品医薬品局)による公式施行。以降、対象食品の記録保持が義務化

この規制で最も重要な点は2つです。

「食品トレーサビリティリスト(FTL)に載った食品は、どこで・誰が・何をしたかの記録が義務になる」
「FDAから求められた場合、24時間以内に記録を提出しなければならない」

ホタテに直接関係するFTL(食品トレーサビリティリスト)の対象水産物は以下の通りです。

  • 有鱗魚(うろこのある魚):生・冷凍
  • 燻製魚:冷蔵・冷凍
  • 甲殻類(エビ・カニ・ロブスターなど):生・冷凍
  • 軟体動物・二枚貝(ホタテ・カキ・アサリなど):生・冷凍・殻むき品

ホタテ(帆立貝)は「二枚貝」としてFTLに明示されており、米国へ輸出する場合は対応が必要です。

※最新の対象品目・施行状況は、農林水産省・水産庁の公式ページおよびFDA公式サイトでご確認ください。

今日の主役:北海道・ホタテ加工業者のAさん

Aさんは北海道・オホーツク海エリアでホタテの一次加工(殻むき・急速冷凍・真空パック)を手がける事業者です(従業員8名)。2023年の中国禁輸をきっかけに、米国市場へのアクセスを検討し始めました。

ある日、米国の輸入業者から「FSMA 204への対応はできていますか?」という確認メールが届きます。「FSMA 204……何のことか正直よくわからない」と感じたAさんは、何から手をつければいいでしょうか?

5ステップで進める:AさんのFSMA 204対応ロードマップ

Step 1:自社製品がFTLの対象かを確認する(開始〜3日目)

最初にやることは「自社製品が規制の対象かどうかを確認すること」です。なぜこれが必要かというと、FSMA 204はすべての食品に適用されるわけではなく、FTL(食品トレーサビリティリスト)に載った特定の食品のみが対象だからです。

ホタテ(帆立貝・殻むき冷凍)は、FDAの規定で「Mollusks and bivalves, fresh or frozen, including fresh or frozen oysters, clams, mussels, and scallops」として明示されており、間違いなく対象品目です。

確認に使えるリソース:

  • FDA公式:Food Traceability List(FDA.gov)
  • 農林水産省・水産庁「米国向け水産物輸出におけるFSMA対応について」
  • JETRO「米国食品安全強化法(FSMA)概要」

Step 2:自社プロセス内の「重要追跡イベント(CTE)」を把握する(4〜7日目)

FTL対象品目は、食品が流通する各段階を「重要追跡イベント(CTE:Critical Tracking Events)」として記録しなければなりません。CTEとは、食品の状態や保管場所が変わる「大事な場面」のことです。

水産物の主なCTE:

  • 漁獲・養殖:いつ、どこで、誰が獲ったか
  • 最初の陸上受取(First Land-Based Receiver):水揚げ場所・日時・量
  • 加工(Transformation):加工施設・加工日・加工後の製品情報
  • 出荷(Shipping):送り先・出荷日・製品ロット番号
  • 受取(Receiving):受取場所・日時(輸入業者側)

Aさんの場合:「最初の陸上受取(漁協からの仕入れ)」「加工(殻むき・冷凍)」「出荷(米国へ発送)」の3つのCTEが自社プロセス内で発生します。

Step 3:各CTEで記録すべき「重要データ要素(KDE)」を整理する(8〜14日目)

各CTEでは「重要データ要素(KDE:Key Data Elements)」を記録・保持する必要があります。KDEとは、「その出来事に関する必須の情報セット」のことです。

「出荷(Shipping)」での主なKDE例:

  • TLC(トレーサビリティロットコード=製品を特定ロットと紐付ける識別番号)
  • 製品の数量・単位
  • 出荷日時
  • 出荷元の施設名・住所
  • 送り先の施設名・住所

「加工(Transformation)」での主なKDE例:

  • 使用した原材料のTLC(仕入れ先から受け取る)
  • 加工後の製品に新たに発行するTLC
  • 加工日・加工施設情報

ポイント:TLC(トレーサビリティロットコード)は製品を特定のロットと紐付ける識別コードです。加工のたびに新しいTLCを発行し、前工程のTLCと連携させて「製品がどこから来たか」を追跡できるようにします。引越しのたびに新しい住所を登録し、旧住所の記録を残しておくイメージです。

Step 4:記録システムを構築・整備する(15〜30日目)

FDAは記録の形式を具体的に定めていませんが、「FDAから要求された場合、24時間以内に電子的に提出できる状態」にしておく必要があります。

小規模事業者がまず取り組めること:

  • ExcelやGoogleスプレッドシートで各CTEのKDEを記録する台帳を作る
  • ロット番号(TLC)の発番ルールを決める(例:施設コード+生産日+連番)
  • 仕入れ先(漁業者・漁協)からもCTE・KDE情報を取り寄せる体制を整える

注意:原材料の生ホタテを漁業者・漁協から仕入れる場合、その段階のKDE(漁獲日・漁場情報など)も連携が必要です。漁協との情報共有の仕組みを早めに整えておきましょう。

Step 5:米国バイヤーとの連携・書類を整える(30日目〜)

米国の輸入業者(バイヤー)は、サプライヤーに対してFSMA 204対応の証明や記録提出を求めるケースがあります。

Aさんのチェックリスト:

  • バイヤーから「FSMA 204対応確認書」の提出を求められているか確認する
  • 自社のCTE・KDE記録をまとめた「トレーサビリティサマリー」を用意する
  • Walmart・Kroger等の大手小売向けの場合は、バイヤー独自の要件も確認する(2025年8月から前倒し施行済み)

やってはいけない:3つの落とし穴

①「うちは小さいから対象外」と思い込む

FSMAは米国の流通に乗るすべてのサプライヤーに適用されます。日本の小規模加工業者であっても、米国バイヤーへ納品すれば対象です。未対応のまま輸出すると、米国税関での差し止めや輸入拒否のリスクがあります。

②「主要小売でなければ関係ない」と考える

Walmart・Krogerはすでに2025年8月から独自の前倒し施行を要求しています。これらの小売チェーンを経由する輸入業者と取引している場合、要件が自社にも波及します。「うちはWalmartに直接関係ない」では済まない可能性があります。

③自社内の記録だけで完結すると思う

FSMA 204は「前工程との連携」が必須です。漁獲・水揚げ段階のKDEが欠けると、FDAからの24時間リクエストに応えられません。漁協・仕入れ先との情報共有体制を整えていないと、最悪の場合、輸出停止に追い込まれます。

明日から動ける3つのアクション

  1. 水産庁の公式ページにアクセスし、自社製品がFTLに含まれるかを確認する
  2. 米国バイヤーに「FSMA 204への対応状況と必要書類」を確認するメールを送る
  3. 漁協・仕入れ先に「漁獲・水揚げ情報の記録共有」を依頼する連絡を取る

まとめ:ホタテの米国輸出に必要な3つのポイント

① FSMA第204条は2026年1月20日に正式施行。ホタテ(二枚貝)はFTL(食品トレーサビリティリスト)の対象品目であり、米国へ輸出する場合は記録保持が義務です。

② 対応の核心は「CTEごとにKDEを記録し、FDAから求められれば24時間以内に提出できる状態にしておくこと」。小規模事業者でもExcelから始められます。

③ 自社だけでなく、仕入れ先(漁協)との情報連携が不可欠。漁協との合意形成を早めに進めることが、スムーズな米国輸出への近道です。

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※本記事の情報は2026年5月時点のものです。規制の詳細・最新情報は農林水産省、水産庁、FDA公式サイトでご確認ください。

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