「インドネシアへの輸出、ハラール認証さえ取れば進められますよね?」
そう聞いてくる事業者が増えています。ハラール認証を先に動かそうとした結果、後から別の書類が必要だと判明して数ヶ月止まる。インドネシア向け水産輸出では、このパターンが繰り返されています。
ハラール認証より先に通るべき関門があります。それを知ってから動くかどうかで、スタートラインに立つまでの時間が大きく変わります。
- インドネシア水産輸出に必要な手続きの正しい順番
- BPOM登録とKKP推薦が最初の関門になる理由
- 2026年10月のハラール義務化で何が変わるか
「ハラールから始める」という落とし穴
ハラール認証を先に動かした結果、現地で手続きが止まる
愛媛の真鯛を扱う輸出事業者がインドネシアのバイヤーと商談を進めた。バイヤーから「ハラール認証がないと取引できない」と言われ、日本のハラール認証機関へ問い合わせた。費用と取得期間を確認し、申請書類を集め始めた。
ところが現地輸入者から「認証の前にBPOM登録が必要です。ML番号がない商品はインドネシアで流通できません」と連絡が来た。BPOM登録とは何か。ML番号とは何か。そこから調べ直すことになった。
このケースは珍しくありません。ハラール認証は「インドネシアで食品を販売するための条件」です。一方、「インドネシアへ食品を輸入するための手続き」は別に存在します。この2つは連動していますが、順序があります。ハラール認証は順序の終盤に来るものです。
インドネシアの輸入規制には「順番」がある
インドネシアへ水産物を輸入するには、大きく2段階の手続きがあります。農林水産省・ジェトロの資料によると、①海洋水産省(KKP)の推薦取得と商業省の輸入承認(PI)、②医薬品食品監督庁(BPOM)への製品登録、この2つです。
いずれもインドネシア側の輸入者が申請主体ですが、日本側の輸出者が用意する書類が必要になるため、輸出者も早い段階で内容を把握しておく必要があります。ハラール認証はこれらの手続きが整ったあとの話です。
インドネシアが水産物の輸入に求める2つの関門
KKP推薦と商業省の輸入承認(PI)
水産物の輸入には、海洋水産省(KKP: Kementerian Kelautan dan Perikanan)の推薦を取得したうえで、商業省に輸入承認(PI: Persetujuan Impor)を申請するのが基本の流れです。PIは輸入ごとに手続きが発生します。
現地の輸入者が申請主体ですが、品目リスト・衛生証明書など日本側が用意する書類が求められます。PIの取得経験がある輸入者(インポーター)と早期に連携しておくことが、手続きをスムーズに進める最初の条件になります。
生鮮品と加工品で必要な書類が変わる
インドネシア向け水産物では、商品の形態によって必要な手続きが異なります。
- 生鮮・冷蔵・冷凍品(未加工):KKP推薦・PI・衛生証明書(Health Certificate)が主な要件。BPOM登録は原則不要
- 加工水産品(干物・フィレ・ペースト・練り製品など):上記に加えてBPOM登録(ML番号)が必要。GMP/HACCPの証明書類も求められる
「加工品かどうか」の判断が最初の分岐点です。塩漬け・燻製・乾燥など一定の加工が入った時点でBPOM登録の対象になるため、品目の定義を確認しないまま進めると後で差し戻しになります。
加工品で必須のBPOM登録・衛生証明書・SKI
ML番号がなければインドネシアで流通できない
BPOM(Badan Pengawas Obat dan Makanan)はインドネシアの医薬品・食品を監督する機関です。日本の食品安全委員会・厚生労働省の食品衛生部門に近い役割を担っています。加工食品をインドネシアで販売するには、BPOM登録が必要で、取得する番号が「ML番号(Makanan Luar=外国食品)」です。
ML番号はラベルへの表示が義務づけられており、番号なしの商品はインドネシア国内で合法的に流通できません。輸入通関はできても、現地での販売が止まります。
ジェトロの資料によると、BPOM登録には製品の試験成績書(理化学・微生物)、製造施設のGMPまたはHACCP認証書類、ラベルデザイン案などが必要です。審査期間は製品種別と書類の完成度によって異なりますが、数ヶ月単位を見込んでスケジュールを組む必要があります。
衛生証明書(Health Certificate)は日本側が用意する
BPOM登録の審査書類にも、通関書類にも使われるのが衛生証明書(Health Certificate)です。日本では農林水産省または都道府県が発行します。
- 水産加工品(缶詰・レトルト等):農林水産省消費・安全局
- 生鮮・冷凍水産物:都道府県(水産振興課など)
英語表記での証明書発行が必要なため、申請から入手まで日数がかかります。積み込み直前に動くと間に合わないケースもあるため、余裕をもった申請が必要です。
各輸送に必要なSKI(輸入許可証)とは
輸入承認(PI)とは別に、輸送ごとに「SKI(Surat Keterangan Impor=輸入許可証)」の取得が必要です。SKIはBPOMが発行するもので、BPOM登録済みの加工食品を輸入する際の通関書類のひとつです。
SKIがなければ通関でストップします。初めてインドネシアへ輸出する場合は、現地輸入者がSKI取得の実績を持っているかどうかを事前に確認しておくことが重要です。実績のない輸入者と組んだために、第1便の通関に予想以上の時間がかかったケースは実務上よく起きています。
ハラール認証は7番目のステップ
生鮮水産物はハラール義務の対象外
生鮮の水産物(未加工品)については、現時点ではハラール認証の取得義務の対象外とされています(出典:ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(インドネシア)」)。冷凍の未加工品も原則同様です。
つまり、生鮮・冷凍の切り身や丸ごとの魚を輸出する場合は、KKP推薦・PI・衛生証明書の体制を整えることが優先課題です。ハラール認証から動く必要はありません。
2026年10月17日、加工食品のハラール義務化
インドネシア政府は2024年10月、食品・飲料に対するハラール認証取得の義務化期限を2026年10月17日まで延期する政令(政令2024年第42号)を発出しました(出典:ジェトロビジネス短信、2024年10月)。
この日以降、加工水産品を含む食品類は原則としてハラール認証の取得またはハラール認証不要を示す表示が求められます。注意すべき点は、インドネシアでは外資企業は規模にかかわらず「大企業」として扱われるため、中小企業向けの猶予措置は日本の輸出事業者には適用されません(出典:ジェトロ「インドネシアでのハラール認証表示義務化の現状」2025年)。
日本のハラール認証機関と現状
インドネシアのハラール認証はBPJPH(ハラール製品保証実施機関)が管理しています。日本国内では日本ハラール協会(JHA)・JMAマネジメントセンター・MPJAなどがBPJPHとの相互承認のもとで認証業務を行っています(出典:ジェトロ「インドネシアでのハラール認証表示義務化の現状」2025年)。
認証の取得・維持には費用と期間が必要です。まず優先すべきはBPOM登録と輸入承認体制の整備です。ハラール認証はその後のステップと位置づけて動く方が、結果的に早く市場に入れます。
インドネシア向け水産輸出の手続きを順番に整理する
ステップ①〜④:出発前に整える書類と体制
インドネシア向け水産物輸出の手続きを順番に整理します。まず輸出前に整えるべき4つのステップです。
- ①品目確認:生鮮品か加工品かを定義する。加工品なら①〜⑦すべてが必要
- ②輸入者の選定:KKP推薦・PI取得の実績がある現地輸入者と連携する
- ③衛生証明書の準備:農林水産省または都道府県へ余裕をもって申請する
- ④GMP/HACCP書類の整備:製造施設の認証書類を揃える(加工品のみ)
ステップ⑤〜⑦:BPOM登録・SKI・ハラール認証
書類と体制が整ったら、次のステップに進みます。
- ⑤BPOM登録とML番号取得:加工品のみ。現地輸入者経由で申請。数ヶ月単位の期間を要する
- ⑥各輸送のSKI取得:加工品の通関に必要。輸送ごとに発生する
- ⑦ハラール認証:加工品は2026年10月17日以降に義務化。外資企業への猶予なし
ハラール認証は7番目のステップです。先に動くべき手続きが6つあります。「ハラールから始める」という発想で動き出すと、①〜⑥の準備が後回しになり、現地で止まります。

インドネシア市場への参入と実務サポート
2億7,000万人市場の現実と可能性
インドネシアはイスラム教徒が人口の約87%を占める2億7,000万人超の大市場です(出典:外務省基礎データ)。日本食への関心も高く、水産物・加工品の引き合いは確実に存在します。
ただ、手続きの複雑さゆえに参入を諦めた輸出者も少なくありません。実際には、順番を知って現地の実績ある輸入者と組めば、決して越えられない壁ではありません。まず「うちの商品は生鮮品か加工品か」を確認することが、すべての出発点です。
書類準備から現地輸入者との連携まで
あさひ通商では、インドネシア向け食品輸出の手続きについて、書類確認から現地輸入者との窓口調整まで実務ベースで対応してきました。「BPOM登録が必要と言われたがどこから動けばいいかわからない」「現地バイヤーから話があったが何を準備すればいいか」というご相談も受け付けています。
まずどの手続きから着手するべきか、お気軽にお問い合わせください。