「バイヤーから『Certificate of Originを準備してほしい』と言われたんですが、これって何ですか?」
静岡県でキンメダイの干物を手がける食品会社の担当者から、こんな相談が届きました。オーストラリアの輸入食品会社に初めての納品が決まり、安心していたところで見慣れない書類名が飛び込んできたのです。
原産地証明書(げんさんちしょうめいしょ)とは、「この商品は日本でつくられたものです」と公的に証明する書類です。内容はシンプルですが、この書類がないと輸入通関で止まる国もありますし、FTA・EPA(自由貿易協定・経済連携協定)を使って関税を減らすためには欠かせない存在です。
この記事では、原産地証明書の種類と取り方を、具体的なシナリオを使いながらわかりやすく解説します。
原産地証明書とは何か。まず2種類の違いを理解する
原産地証明書には大きく2種類あります。どちらを取るかで、手続きの流れも発行窓口も変わります。
非特恵原産地証明書
FTA・EPA協定とは関係なく「日本原産である」と証明するだけの書類です。各地の商工会議所が発行します。輸入国の規制対応や、バイヤーから「原産国を証明してほしい」と言われた場合に求められることがあります。
特恵原産地証明書(EPA用)
日本がFTA・EPA(自由貿易協定・経済連携協定)を締結している国への輸出時に使う書類です。この証明書があると、輸入国で関税が大幅に下がることがあります。発行は各地の商工会議所が行います(協定によっては輸出者の自己申告が可能なケースもあります)。
日本はオーストラリア・EU・カナダ・ASEAN各国・イギリスなど多くの国・地域とEPAを締結しています(2026年5月時点)。RCEPも含めると、アジア15カ国との間で協定が有効です。
どちらが必要かを判断するポイント
EPA締結国へ輸出するのに特恵原産地証明書を取らないと、バイヤーが関税削減の恩恵を受けられません。書類を省略して通常関税のまま輸入させてしまうと、バイヤーのコスト負担が増え、取引継続に支障が出ることもあります。バイヤーから書類の種類を指定された場合はその指定に従い、迷った場合は地元の商工会議所に確認するのが確実です。
※最新のEPA締結状況・品目別関税率は外務省・ジェトロの公式サイトでご確認ください。

今回のシナリオ:Bさんの場合
Bさんは静岡県の稲取港を拠点に、キンメダイの高級干物を製造する会社(従業員5名)の代表です。地元で水揚げされたキンメダイを使った干物が主力商品で、昨年から食品展示会に出展し、オーストラリアの輸入食品会社から初めての正式注文が入りました。
バイヤーから「日本原産であることを証明する書類が必要です。できれば特恵原産地証明書をお願いします」とメールが届いています。Bさんはこうした書類を取ったことが一度もありません。何から手をつければいいでしょうか。
原産地証明書の取り方:5つのステップ
Step 1:特恵か非特恵かを判断する(輸出の2〜3週間前)
まず、輸出先の国が日本とEPAを結んでいるかを確認します。オーストラリアとは2015年1月に日豪EPA(日本・オーストラリア経済連携協定、通称JAEPA)が発効しており、多くの食品・水産物に特恵税率が段階的に適用されています。
確認方法は、ジェトロの「関税・規制・法律情報」ページで輸出先国を検索することです。品目のHSコード(関税分類番号)ごとの税率が確認できます。バイヤーが「特恵原産地証明書を希望する」と言っている場合は、EPA用の特恵証明書を申請します。
どちらが必要か迷った場合は、地元の商工会議所に電話で確認するのが最も早い方法です。「オーストラリアへ水産加工品を輸出したい、どちらの証明書が必要ですか?」と聞けばすぐ教えてもらえます。
Step 2:商工会議所へ貿易登録する(初回のみ)
原産地証明書を初めて申請する際は、商工会議所への「貿易登録」が必要です。これは最初の一度だけで、登録後は申請のたびに行う必要はありません。
登録に必要なもの(商工会議所によって異なる場合があります):
- 会社の登記事項証明書(法人の場合)または身分証明書
- 貿易登録申請書(商工会議所の窓口でもらえます)
- 会社の代表印・担当者の署名など(窓口で確認が必要)
登録後、商工会議所から署名者情報や社判の登録を求められることがあります。担当者の指示に従って進めてください。初回の手続きには数日かかる場合もあるため、余裕を持って動き始めることが重要です。
Step 3:申請書類を準備する
原産地証明書の申請に必要な書類の基本セットは以下のとおりです。
- 証明依頼書:商工会議所の様式に従って記入します
- 原産地証明書(様式):英語で記入するケースが多く、商工会議所で様式をもらえます
- コマーシャルインボイス(商業送り状)のコピー
- 必要に応じて:製造工程の証明資料、原料の産地証明など
記入で重要なのは、インボイスに記載されたインボイス番号と原産地証明書の記載内容が一致していることです。この番号が異なると、税関で書類の関連性を別途証明する資料が必要になります。
水産物の場合は「完全生産品(Wholly Obtained Goods)」として認定されやすい品目です。日本の海で獲れた魚・貝は、原産地証明上「日本産」として扱われます。一方で、加工工程が入る場合は、加工の程度によって原産地認定の基準が変わるため、商工会議所に事前確認をおすすめします。
Step 4:商工会議所の窓口で申請する
書類が揃ったら、最寄りの商工会議所の「証明センター」窓口に持参します。郵送・オンライン申請に対応している商工会議所も増えていますが、初回は窓口での手続きが確実です。
発給の目安(商工会議所によって異なります):
- 午前中に申請した場合 → 当日午後に発給
- 午後に申請した場合 → 翌営業日の午前中に発給
手数料の目安(各商工会議所によって異なります):
- 商工会議所会員:1,080円程度(1件あたり)
- 非会員:3,240円程度(1件あたり)
※手数料・発給時間は各商工会議所で異なります。申請前に必ず確認してください。(参考:広島商工会議所「原産地証明書」ページより)
Step 5:発給を受けてバイヤーに送る
発給された原産地証明書の原本を、他の輸出書類(インボイス・パッキングリスト・B/L等)と合わせてバイヤーに送付します。国際宅配便(DHL・FedExなど)や書留郵便を利用するのが一般的です。
バイヤーが原産地証明書を受け取ったら、輸入申告時に税関へ提出します。これによってEPAの特恵税率が適用され、輸入関税が下がります。バイヤーのコスト削減につながるこの書類は、長期的な信頼関係を築くうえでも重要な役割を果たします。
現場でよく起きる5つの失敗
書類記載のミス
失敗1:インボイス番号と証明書の番号が一致していない
申請書類を急いで作ると、インボイスの番号と原産地証明書の番号が異なる状態で申請してしまうことがあります。税関でこの不一致が見つかると、別途関係書類の提出が求められます。提出前に必ず照合してください。
失敗2:タイプミスを自分で訂正してしまう
原産地証明書に記入ミスがあった場合、自分で二重線を引いて訂正するだけではNGです。商工会議所の印または公的な印による訂正が必要です。自己訂正したまま送ると、輸入地の税関で無効と判断されることがあります。記入は慎重に行ってください。
種類・内容の確認不足
失敗3:非特恵を取ってしまってEPAが使えない
バイヤーが特恵原産地証明書(EPA用)を求めているのに、非特恵の証明書を取ってしまうケースがあります。書類の種類を間違えると、バイヤーは特恵関税を受けられず、再申請が必要になります。申請前にバイヤーに「特恵・非特恵のどちらが必要か」を必ず確認してください。
失敗4:加工品の原産地基準を確認していない
水産加工品(練り物・塩漬け・缶詰など)は、「日本の魚を使っている」だけでは原産地の認定基準を満たさないケースがあります。加工の程度・原料の産地割合によっては、原産品と認められないこともあります。加工品を輸出する場合は、商工会議所に事前相談してください。
申請タイミングのミス
失敗5:船積みのギリギリに申請する
原産地証明書の取得には最低でも1〜2営業日かかります。「船積みの前日に気づいた」では間に合わないことがあります。初回は貿易登録も必要なため、さらに時間がかかります。輸出スケジュールが決まったら、書類の準備を最初に始めることが大切です。
まとめと明日から動けるアクション
押さえておきたい3つのポイント
- 特恵か非特恵かを最初に判断する。EPA締結国への輸出なら特恵原産地証明書が必要
- 申請は各地の商工会議所で受け付けている。初回は貿易登録が必要で、その後は1〜2営業日で取得できる
- インボイスとの番号一致・ミスの訂正方法・申請タイミングが現場でよく失敗するポイント
明日から動ける3つのアクション
- 輸出先国と日本のEPA締結状況をジェトロの公式サイトで確認する
- 地元の商工会議所に電話して、初回申請の流れと必要書類を確認する
- インボイスの番号・品目・数量を申請書類と照合する習慣をつける
初めての申請は不安なことが多いですが、手順を一度覚えてしまえばルーティン化できます。書類の準備段階からサポートが必要な場合は、あさひ通商の輸出書類代行サービスまでお気軽にご相談ください。