「この春から中国への輸出を再開したいんです。でも、GACC登録って何から始めたらいいんですか」
3月に届いたメールに、そんな一文があった。送り主は広島県で牡蠣の養殖・加工を手がける事業者だった。ALPS処理水(東京電力福島第一原発の廃炉に伴う処理済みの水)の海洋放出以来、中国向けの輸出がストップして1年半以上。ようやく再開への道筋が見えてきた中で、手続きをどこから始めるべきかわからず困っているという。
同じ悩みを抱えている事業者は少なくない。「施設の再登録が必要だと聞いたが何をどうすればいいかわからない」「2026年6月に規制が変わると聞いたが内容を把握できていない」という声がよく届く。
この記事では、広島産牡蠣を例に、GACC登録の仕組みと現在の手続きの流れ、さらに2026年6月1日に施行される新規制への対応をシナリオ形式で解説する。
2025年から動き出した中国向け水産物輸出。まず現在地を把握する
まず、今この瞬間の状況を整理しておく。
2023年8月、中国は日本のALPS処理水の海洋放出を受けて、日本産水産物の輸入を全面停止した。それまで順調だった輸出は一夜にして完全にストップした。その後の主な経緯は以下のとおりだ。
- 2024年9月:日中首脳会議でALPS処理水に関する認識を共有
- 2025年5月28日:日中両国が技術的要件について合意(農林水産省発表)
- 2025年6月29日:中国が条件付きで輸入を再開。福島県・群馬県・栃木県・茨城県・宮城県・新潟県・長野県・埼玉県・東京都・千葉県の10都県を除く日本の水産物が対象
- 2026年6月1日:新しい「輸入食品海外製造企業登録管理規定」(税関総署令第280号)が施行予定
これが現在地だ。輸出が再開されたと聞いて動き出したいところだが、そう簡単ではない。輸出停止の期間中に施設の登録が無効になっているケースや、2026年6月の新規制への対応が必要なケースがある。
「輸出再開=すぐ出せる」ではない。施設の再登録が済んでいない限り、輸出はできない。
※最新の登録状況や規制詳細は、農林水産省の公式ページおよびジェトロの品目別輸出ガイド(水産物・中国)を必ずご確認ください。

Aさんのシナリオ:広島産牡蠣を中国に再び届けたい
Aさんは広島県の漁港近くで牡蠣の養殖・加工・販売を手がける水産会社を経営している。従業員は8名、国内出荷量は年間約100トン。輸出停止前は中国の飲食店向けに冷凍牡蠣を出荷していた。
輸出停止から約2年が経ち、Aさんはようやく再開の準備を始めようとしている。しかし「何から手をつければいいのか」「どの書類が必要なのか」がまったくわからない状態だ。Aさんは何から動けばいいのだろうか。
GACC登録の手順:5つのStepで整理する
Step 1:自社施設の登録状況を確認する(今すぐ実行)
中国向けに水産物を輸出するには、加工施設・保管施設・養殖施設などが農林水産省に「認定施設」として登録されている必要がある。まず最初にやるべきことは、自社施設が現在も有効な認定施設として農林水産省のリストに掲載されているかを確認することだ。
Aさんの場合、確認が必要な施設は以下の3種類になる。
- 冷凍加工施設(牡蠣を剥き、冷凍加工する場所)
- 冷凍保管施設(冷凍倉庫)
- 養殖施設(牡蠣を育てている海面養殖場)
これらはそれぞれ別々の申請が必要になる場合がある。一つの施設の登録が完了していても他が未登録では出荷できない。農林水産省の認定施設リストのページで全施設の状況を把握することがStep 1のゴールだ。
Step 2:農林水産省への認定申請(着手から2〜4週間のめど)
施設が認定リストに掲載されていない、または登録が無効になっている場合は、農林水産省輸出・国際局輸出支援課への申請が必要になる。
申請にあたって満たすべき主な要件は以下のとおりだ。
- 日本国内の法令を遵守して養殖・包装・保管していること
- 日本で承認された薬品以外を使用していないこと
- 中国が規定する有毒有害物質の基準値を超えていないこと
- 中国政府が輸入を認めている品目であること
申請書類は農林水産省のウェブサイトで公開されている様式を使用し、メールで提出する。審査期間は案件によって異なるため、早めに着手することを推奨する。
Step 3:GACC(中国税関総署)への再登録(農林水産省経由で進める)
GACC(General Administration of Customs of China)とは「中国税関総署」の略で、中国に食品を輸出する製造・加工企業を登録・管理する機関だ。
水産物の場合、農林水産省が日本側の窓口となり、中国のGACCへの推薦手続きを代行する。事業者が自分でGACCの登録サイトに直接申請するのではなく、農林水産省への申請が起点になる点が重要だ。
GACC登録の有効期間は5年間。輸出停止の期間中に登録が無効になっていた場合は、あらためて登録手続きをゼロからやり直す必要がある。
Step 4:出荷前に必要な証明書・検査を揃える(並行して手配)
GACC登録が完了し、実際に出荷する際には毎回以下の書類が必要になる。
- 放射性セシウム・ヨウ素の検査証明書:厚生労働省または都道府県衛生部門が発行
- 産地証明書:広島県産であることを証明する書類
- 衛生証明書:農林水産省または水産庁が発行
さらに、初回輸出前には施設ごとに放射性ストロンチウム・トリチウムの検査を1回実施することが義務づけられている。この検査は通常の検査より処理に時間がかかるため、出荷を予定している3〜4ヶ月前から検査機関に問い合わせを始めることを強く推奨する。
Step 5:2026年6月1日施行の新規制への対応を確認する(今月中に)
2026年6月1日、中国の「輸入食品海外製造企業登録管理規定」(税関総署令第280号)が施行される。現行の第248号が廃止され、登録制度が刷新される。
主な変更点を整理すると以下のとおりだ。
- 「公式推薦登録が必要な輸入食品リスト」が新設される。このリストに含まれる品目は、引き続き所在国の政府機関(日本の場合は農林水産省)を通じた推薦が必要
- リスト外の食品は、企業が自ら、または代理人を通じてGACC登録申請できるようになる
- 登録の自動延長制度が導入される(ただし、条件を満たさない品目・企業は対象外)
- 中国向け食品のパッケージへの登録番号記載が義務化される見込み
水産物が「公式推薦登録リスト」に含まれる可能性が高いと考えられるが、記事執筆時点(2026年5月)では中国当局がリストを公表していない。農林水産省やジェトロから最新情報が発表され次第、すぐ確認できる体制を整えておくことが重要だ。
GACC登録で事業者が陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1:「以前登録していたから大丈夫」と思い込む
輸出停止中に施設の中国側登録が無効になったケースが相次いでいる。「以前登録していたから問題ない」と思い込んで確認をせずに準備を進めると、出荷直前に登録が通っていないことが判明するという最悪の事態になりかねない。現時点の農林水産省の認定施設リストで必ず確認することが第一歩だ。
落とし穴2:証明書・検査の取得に思ったより時間がかかる
放射性ストロンチウム・トリチウムの初回検査は、検査機関の混雑状況によっては2〜3ヶ月待ちになることもある。「来月出荷したい」と動き始めても間に合わないことがある。出荷目標日から逆算して早めに着手することが絶対条件だ。
落とし穴3:2026年6月の規制変更を後回しにする
2026年6月1日施行の新規制について「まだ詳細リストが公表されていないから関係ない」と後回しにすると、6月以降に新しい手続きが必要になった際に対応が遅れる。今のうちに農林水産省・ジェトロのメール配信に登録し、情報が出次第すぐ動ける体制を整えておくことが大切だ。
明日から動ける4つのアクション
- 農林水産省の輸出再開手続きページで自社施設の登録状況を確認する
- ジェトロの水産物輸出ガイド(中国)をブックマークし、2026年6月の新規制リスト公表後すぐ確認できるようにする
- 放射性ストロンチウム・トリチウムの初回検査を依頼できる検査機関をリストアップし、問い合わせを始める
- 農林水産省輸出・国際局輸出支援課に連絡し、再登録申請のスケジュールと必要書類を確認する
まとめ:「再開した」だけで満足せず、手続きを一歩ずつ進める
中国向け水産物の輸出は、2025年6月に条件付きで再開した。しかし「再開された=すぐ出せる」ではない。施設の再登録、証明書の取得、そして2026年6月の新GACC規制への対応と、やるべきことは段階的にある。
特に初回検査や施設の再登録審査には時間がかかるため、出荷を目指すなら半年前からの準備が理想だ。今動き始めた事業者が、年内の中国市場で優位に立てる。
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