宮崎県延岡市から、日本の養殖ブリを欧州市場へ届けるための新たな動きが進んでいます。
延岡市北浦町に水産加工施設を持つ株式会社新海屋は2026年9月29日、同施設が農林水産省から「英国、欧州連合、スイス及びノルウェー向け輸出水産食品取扱施設」の認定を取得したと発表しました。
認定された品目は「冷凍ブリフィレ」と「冷凍ブリロイン」です。
ブリは刺身や寿司、照り焼きなど、日本では非常になじみ深い魚です。一方で近年は、日本国内で食べられるだけでなく、海外へ輸出される水産物としても存在感を高めています。
今回のニュースを入口に、延岡の施設が取得した認定とはどのようなものなのか、ブリの輸出は現在どの程度まで広がっているのか、そして宮崎県とブリの関係について見ていきます。
延岡市の水産加工施設が欧州向けの認定を取得
農林水産省が公表している認定施設一覧によると、今回認定されたのは宮崎県延岡市北浦町にある株式会社新海屋の施設です。
認定番号は「2025102」。輸出品目として「冷凍ブリフィレ」と「冷凍ブリロイン」が記載されています。
正式な認定日は2026年3月17日
正式な認定日は2026年3月17日です。
一方、同社の発表によると、2026年9月25日に東京・霞が関の農林水産省本館で認定証交付式が行われ、9月29日に認定取得が公表されました。
つまり、認定日は3月17日で、認定証の交付式が9月25日に行われたという関係です。
対象となる国・地域は、英国、EU、スイス、ノルウェーです。
同社によると、延岡市北浦町の加工拠点「北浦BASE」は2018年4月に竣工し、養殖ブリを中心にフィレやロインなどの水産加工品を製造しています。
認定内容を表で整理する
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設 | 株式会社新海屋(宮崎県延岡市北浦町) |
| 認定番号 | 2025102 |
| 認定品目 | 冷凍ブリフィレ、冷凍ブリロイン |
| 対象の国・地域 | 英国、EU、スイス、ノルウェー |
| 正式な認定日 | 2026年3月17日 |
| 認定証交付式 | 2026年9月25日(農林水産省本館) |
| 認定取得の公表 | 2026年9月29日 |
「フィレ」と「ロイン」は何が違う?
今回の認定品目として登場する「フィレ」「ロイン」という言葉は、普段魚を丸ごと購入することが少ない人には、少し分かりにくいかもしれません。
フィレは魚を三枚おろしにした片身
フィレは、魚を三枚おろしにしたときに得られる片身を指すのが一般的です。
ロインはさらに加工しやすい形に整えたもの
一方のロインは、フィレからさらに骨や不要な部分などを取り除き、加工や調理に使いやすい形に整えた部位を指します。
海外へ魚を流通させる場合、丸ごとの魚だけではなく、こうした加工済みの形態も重要になります。
飲食店や流通事業者などにとっては、用途に応じて扱いやすい状態になっていることが、商品を選ぶ際の一つのポイントになるからです。
今回の認定対象が「冷凍ブリフィレ」と「冷凍ブリロイン」であることからも、魚を生産するだけではなく、加工して海外市場へ届ける工程が重要になっていることが分かります。
なぜ欧州向け輸出では「施設認定」が必要なのか
日本から外国へ水産食品を輸出する際は、輸出先によって求められる衛生条件が異なります。
九州厚生局は、日本からEUや米国などへ輸出される水産食品について、輸出先との取り決めなどに基づき、輸出証明書の発行や適合施設の認定手続きを行っていると説明しています。
また、認定後も施設への立ち入りを行い、認定要件の遵守状況を確認しています。
HACCPを用いた衛生管理も重要
EU向け水産食品については、施設や食品そのものだけでなく、HACCPを用いた衛生管理、運搬、包装、保管、表示などについても基準への適合が求められます。
HACCPとは、食品を製造する工程の中で、食中毒や異物混入などにつながる危害要因を分析し、特に重要な工程を継続的に管理する衛生管理の手法です。
施設認定は「この魚がおいしい」という評価とは性質が異なります。
輸出先が求める衛生条件に対応した環境や管理体制を整えることが、欧州市場へ水産食品を送り出すための前提の一つになっています。
日本のブリ輸出は2025年に528億円
今回のニュースを理解するうえで注目したいのが、日本産ブリの輸出拡大です。
水産庁の資料によると、2025年の「ぶり」の輸出額は528億円でした。
2020年は173億円だったため、5年間で輸出額は約3倍の規模になった計算です。
2025年だけを見ても、前年から113億円増加しました。
米国向け需要などが輸出額増加の背景に
農林水産省は、増加要因として米国向けを挙げ、2024年夏の環境変化による成長の遅れに伴って輸出時期が後ろ倒しになったことに加え、脂の乗った大型サイズへの需要の高まりなどで単価が上昇したと説明しています。
ただし、輸出額が伸びているからといって、ブリを取り巻く環境のすべてが順調というわけではありません。
高水温や赤潮による供給面の課題も
水産庁は、高水温や赤潮の発生によって大型サイズのブリの生産を増やせなかったことを課題として挙げています。
需要が増えても、求められるサイズの魚を安定して供給できなければ輸出拡大にはつながりません。
海外市場を考えるときは「売れるかどうか」だけではなく、「安定して生産できるか」「加工できるか」「輸出先の衛生条件を満たせるか」「安定して届けられるか」という一連の流れを見る必要があります。
2026年も水産物輸出は前年同期を上回る
農林水産省によると、2026年1~6月の農林水産物・食品の輸出額は8,977億円で、前年同期比10.9%増となりました。
そのうち水産物は2,384億円で、前年同期比19.5%増です。
2025年の年間実績では、水産物輸出額は4,231億円で前年比17.2%増でした。
こうした数字から、日本の水産物輸出全体が近年拡大していることが確認できます。
ブリもその中で重要な魚種の一つです。
2026年4月にはオランダもブリ輸出の増加先に
2026年4月単月の農林水産省資料では、輸出額の増加が大きかった品目としてブリが挙げられ、主な増加先には米国、韓国とともにオランダも記載されています。
今回の延岡の施設認定は、こうしたブリ輸出の動きの中で、欧州向けに対応できる加工拠点が加わったニュースとして見ることができます。
宮崎県はブリ生産でも存在感のある地域
宮崎県が2026年に公表した長期ビジョンに掲載されている農林水産省データでは、2023年の宮崎県のブリ生産量は1万1,334トンです。
全国の9万4,646トンに対して約12%を占め、全国4位でした。
宮崎県はブリをはじめとする養殖魚の生産でも存在感のある地域です。
生産だけでなく加工・保管・輸送までが必要
魚を海外へ届けるには、生産だけで完結するわけではありません。
養殖された魚を処理し、用途に合わせて加工し、衛生状態を管理し、冷凍・保管し、輸送するという複数の工程が必要になります。
産地に輸出条件へ対応した加工施設が存在することは、地域の水産業と海外市場をつなぐ一つの基盤になります。
欧州市場への「入口」ができたことと販売拡大は分けて考える
今回の施設認定について、注意したい点もあります。
認定を取得したことは、欧州市場での販売量や輸出額が直ちに大幅に増えることを意味するものではありません。
施設認定は、対象となる水産食品を輸出するために必要な条件を整える重要なステップです。
その先には、現地での販路開拓、価格、物流、競合商品、消費者や飲食店の需要など、さまざまな要素があります。
今後の輸出量は現時点では判断できない
今回確認できた公開情報だけから、延岡産・宮崎県産ブリの欧州向け輸出量が今後どの程度増えるかを判断することはできません。
一方で、新海屋は今回の認定を活用し、欧州をはじめとする海外市場への販路開拓を進める方針を公表しています。
今後は、実際にどの国へどのような形で冷凍ブリが流通していくのかが注目点です。
日本の養殖ブリが海外へ届くまでを見るニュースに
今回のニュースは、一つの水産加工施設が認定されたという話にとどまりません。
普段スーパーや飲食店で目にするブリが海外へ渡るまでには、養殖、生産、加工、冷凍、衛生管理、施設認定、物流、販売といった多くの工程があります。
そして海外向けでは、輸出先ごとに異なる衛生条件への対応も欠かせません。
2025年のブリ輸出額は528億円まで増加しましたが、水産庁が示すように、高水温や赤潮など生産面の課題もあります。
輸出額の伸びだけではなく、「魚を安定して育てる」「輸出仕様に加工する」「衛生条件を満たす」「海外へ安定して届ける」という一連の仕組みがどのように整っていくかが、これからの日本産ブリを見る重要なポイントです。
宮崎県延岡市の加工施設が欧州向け輸出に必要な認定を取得した今回の動きは、日本の養殖ブリと欧州市場をつなぐ新たな一歩として注目されます。
参考情報
- 農林水産省「英国、欧州連合、スイス及びノルウェー向け輸出水産食品取扱認定施設」
- 九州厚生局「輸出水産食品取扱施設の施設認定及び衛生証明書発行等」
- 厚生労働省「輸出食品」
- 水産庁「水産物の輸出をめぐる状況について」
- 農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」2026年2月3日
- 農林水産省「2026年1-6月(上半期)の農林水産物・食品の輸出実績」2026年8月4日
- 株式会社新海屋「宮崎・延岡の新海屋、EU向け水産食品取扱施設に認定 農林水産省で認定証交付式」2026年9月29日