牛肉輸出世界一のブラジルを含む南米メルコスールと、日本がEPA交渉入りを表明した。農水相が懸念を示す中、輸出事業者が見るべきリスクと機会を解説する。
- EPA交渉入りの背景と農水相の発言
- 和牛輸出者にとってのリスクと機会
- 今すぐ確認すべき対応ポイント3つ
何が起きたか
日本がメルコスールとEPA交渉入りを表明
2026年6月、日本政府はブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイなどが加盟する南米の経済ブロック「メルコスール」とのEPA(経済連携協定)交渉入りを表明した。(出典:Yahoo!ニュース・朝日新聞 2026年6月)
メルコスールはブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイなどが加盟する南米の広域経済圏で、EUとのFTA署名がすでに2026年1月に完了している。日本との交渉はかねてから検討されてきたものの、農業分野での格差から具体的な交渉開始には至っていなかった。今回の表明はその状況が大きく動いたことを意味する。
メルコスールの中核を担うブラジルは、牛肉輸出量において世界第1位の国だ。安価なブラジル産牛肉が関税引き下げで大量流入すれば、国内の畜産業に打撃を与えるという懸念から農家・農業団体が強く反発している。
農水相と各党が食料安全保障を強調
鈴木憲和農林水産大臣は5月の記者会見で「牛肉などはEPAにおいてもセンシティブな品目であり、慎重な扱いが必要」と述べた。(出典:日本経済新聞 2026年5月29日)
6月22日には立憲民主党・公明党・中道改革連合の3党農林水産部会が連名で鈴木農相に要請書を提出。「農林水産業を工業製品の市場拡大の代償にしてはならない」と申し入れ、食料安全保障に配慮した交渉を外務省・農水省に求める方針でも一致した。(出典:立憲民主党公式ニュース・中道改革連合公式note 2026年6月22日)
輸出ビジネスへの影響
この交渉は「輸入競合の脅威」として報じられることが多い。だが輸出事業者の目線では、別の景色も見えてくる。
ブラジル産牛肉と和牛は用途が異なる
ブラジル産牛肉の多くはハンバーガー用・加工肉向けとされており、霜降り和牛のステーキ需要とは市場セグメントが異なる。安価なブラジル産が輸入されても、プレミアム市場を狙う和牛輸出の競合相手にはなりにくいと考えられる。(推測:市場セグメントが明確に分かれている場合に限る)
ただし、外食チェーンでの低価格化競争が進む局面では消費者の購買行動が変化する可能性もある。輸出先市場での和牛の価格帯・訴求方法については定期的な見直しが賢明だ。
トランプ関税でブラジルの米国向け輸出が不利に
トランプ政権による関税措置の影響で、ブラジルから米国向けの牛肉には高率の追加関税が課されている。一方、日米間には低関税の優遇措置がある。この構図は米国市場における日本産和牛の相対的な競争力を高めているという見方もある。(出典:日本農業新聞)
日本の農林水産物・食品の輸出総額は2024年に過去最高を更新した一方、2025年4月の米国向け牛肉輸出額は前年比2割以上減少したとも報告されている。(出典:日本経済新聞 2025年6月)ブラジル産との関税格差が続く限り、プレミアム層向けの競争力は維持できると見られる。
EPA締結で2億人超のブラジル市場が開く可能性
EPA交渉が進展すれば、日本からブラジルへの農林水産品の関税が引き下げられる局面も想定される。ジェトロによると2025年のブラジル向け日本産食品輸出はすでに大幅増を記録している。(出典:ジェトロ 2026年2月)交渉の行方次第でブラジルが新たな輸出先になり得る。
ブラジルでは日本食レストランが近年急増しており、現地での寿司・和牛への需要は着実に高まっている。EPA締結による関税引き下げは、この成長市場への参入を後押しする追い風になり得る。中長期的な輸出先の多角化を検討している事業者にとっては、今が情報収集を始める好機だ。
国内畜産縮小による供給リスクには要注意
安価な輸入牛肉の流入が進むことで国内の和牛生産農家が経営困難になれば、輸出向けの仕入れ量確保にも支障が出る可能性がある。交渉の行方とその国内農業への影響は継続的に注視が必要だ。
輸出事業者が今すぐ確認すべきこと
EPA交渉の進捗を公式ソースで定期チェックする
交渉が進むと品目分類・関税率・証明書要件などが変わる可能性がある。農林水産省・外務省のEPA情報ページをブックマークして定期確認する習慣をつけておきたい。
→ 農林水産省 EPA/FTA等に関する情報
仕入れ先農家の経営状況を早めに把握する
輸入牛肉の流入が本格化した場合、国内の中小畜産農家への影響が先に現れやすい。安定的な仕入れ確保のため、今から複数の供給ルートを確認しておくことが重要だ。
ジェトロのブラジル市場情報で新規市場を探る
EPA交渉の進展と合わせて、ブラジルを次の輸出先として検討する価値がある。ジェトロが公開しているブラジル向け農林水産品の輸出情報は今から目を通しておきたい。
→ ジェトロ ブラジル情報
まとめ
日本・メルコスールのEPA交渉入りは、国内畜産農家には脅威として映る一方、和牛輸出者にとっては「ブラジル市場の開放」「米国市場での競合優位」という2つの側面から機会として読み取ることもできる。
実際の関税変更まで数年単位の時間がかかるとしても、交渉の進み方次第では事業計画の見直しが必要な局面が来る。今のうちから情報収集の習慣をつけておきたい。
農水相が示した慎重姿勢は国内農業保護のためのものだが、輸出側の視点では交渉の進捗は「新市場の扉が開くプロセス」でもある。リスクと機会を同時に把握しながら動くことが、輸出事業者として今できる最善の準備だ。
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