農林水産物・食品の輸出額のニュースは、市場が伸びているかを知る入口になります。
ただし、統計の順位や増減だけで、自社の商品が売れると判断することはできません。対象期間、金額、増加率の意味を分けて読み、自社の条件と照らし合わせる必要があります。
この記事では、農林水産省が公表した2026年7月までの輸出実績を例に、統計を商談に活かすための3つの見方を整理します。8月分は2026年10月2日(金)13時の公表予定と案内されています。公表されている場合は、同じ手順で読み替えてください。
最初に対象期間と比較の前提を見る
累計と単月を分けて読む
輸出実績は、1月からの累計と、その月だけの単月で、別の数字として公表されます。農林水産省の資料では、次のように示されています。
| 区分 | 輸出額 | 前年の同じ期間との比較 |
|---|---|---|
| 2026年1〜7月(累計) | 10,423億円 | +1,035億円(+11.0%) |
| 2026年7月(単月) | 1,446億円 | +155億円(+12.0%) |
1〜6月の累計は、8,977億円(前年同期比+10.9%)でした。累計は期間が長いぶん、一時的な動きがならされます。単月は、直近の変化を早く映す一方、その月だけの事情に左右されます。
年間の数字と途中までの数字を並べない
資料の推移の図では、2025年の年間の輸出額が17,005億円、2025年の1〜7月が9,388億円と示されています。2026年の1〜7月(10,423億円)と比べる相手は、年間の17,005億円ではなく、同じ期間の9,388億円です。
この比較で、前年同期比の+11.0%が出ます。期間をそろえずに並べると、増えたのか減ったのかを誤って読みます。
合計に含まれる範囲を確認する
1〜7月の累計10,423億円には、1〜6月累計の少額貨物(526億円)が含まれると、資料に注記されています。品目別の表の農林水産物・食品の合計(約9,897億円)とは、この少額貨物の分だけ金額が異なります。
少額貨物は、輸出申告の際に1品目20万円以下の貨物で、貿易統計には計上されず、別に調査されています。年2回(1〜6月、7〜12月)に集計されるため、1〜7月の累計に含まれるのは、1〜6月分です。
数字を引用する時は、どの表の数字かを確認します。注記を読まずに別の表の数字を並べると、合計が合わなくなります。
月ごとの動きは一定ではない
同じ年でも、月ごとの前年同月比には幅があります。資料の月別の表から、2026年の1月から7月を抜き出します。
| 月 | 農林水産物・食品の輸出額 | 前年同月比 | うち水産物 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 1,221億円 | +28.0% | 305億円 |
| 2月 | 1,330億円 | +3.3% | 399億円 |
| 3月 | 1,540億円 | +8.4% | 432億円 |
| 4月 | 1,536億円 | +14.2% | 453億円 |
| 5月 | 1,355億円 | +11.6% | 379億円 |
| 6月 | 1,471億円 | +6.8% | 415億円 |
| 7月 | 1,446億円 | +12.0% | 343億円 |
前年同月比は、1月の+28.0%から2月の+3.3%まで、月によって大きく動いています。水産物は、7月が343億円で、6月の415億円から減りました。
1か月の数字だけで、市場の方向を判断しません。前の月や、前年の同じ月と並べ、累計の動きと合わせて見ます。

国・地域別の数字は商談の仮説に使う
主な輸出先の累計と単月を比べる
輸出額の大きい国・地域について、1〜7月の累計と、7月単月の前年同月比を、並べて見ます。
| 国・地域 | 1〜7月の累計 | 前年同期比 | 7月単月の前年同月比 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 1,907億円 | +18.1% | +37.3% |
| 香港 | 1,261億円 | +3.5% | +6.8% |
| 中国 | 1,098億円 | +5.3% | +12.0% |
| 台湾 | 1,033億円 | +9.6% | +10.2% |
米国は、累計の増加額が+292億円で、増加額が最も大きい国・地域です。7月単月も+37.3%と、累計の伸びを上回っています。
水産物の輸出先を、国・地域別の内訳で見る
資料の国・地域別の表には、輸出額の内訳として、水産物の金額も示されています。水産物を扱う場合は、全体の順位ではなく、水産物の内訳で輸出先を見ます。
| 国・地域 | 1〜7月の輸出額(全体) | うち水産物 | 全体の前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 1,907億円 | 650億円 | +18.1% |
| 香港 | 1,261億円 | 479億円 | +3.5% |
| ベトナム | 628億円 | 309億円 | +32.1% |
| タイ | 474億円 | 241億円 | +11.6% |
| 韓国 | 711億円 | 227億円 | +20.7% |
| 台湾 | 1,033億円 | 192億円 | +9.6% |
| 中国 | 1,098億円 | 39億円 | +5.3% |
全体で3位の中国は、水産物が39億円にとどまります。ベトナムは、全体が628億円で6位ですが、水産物は309億円と、全体の約半分を占めています。全体の順位と、水産物の順位は、同じではありません。
増加額が大きい国・地域と、その主な品目
資料には、1〜7月の増加額が大きい国・地域と、その主な増加品目も示されています。
- 米国(+292億円):ぶり、緑茶、ソース混合調味料
- ベトナム(+153億円):さば、インスタントコーヒー、ホタテ貝
- 韓国(+122億円):ぶり、ビール、たら
国別の数字は、市場が動いている手がかりです。自社の商品がその国で売れる根拠ではありません。商談では、「この国で動いている品目と規格を、取引先に確認する」という仮説に使います。
品目別の増減を商品の条件へ置き換える
水産物と牛肉の1〜7月の累計
品目別の表から、水産物と牛肉の主な品目を抜き出します。金額は、資料の百万円単位を億円に換算し、四捨五入した概数です。
| 品目 | 1〜7月の輸出額(概数) | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 水産物(調製品を除く) | 2,320億円 | +19.7% |
| ぶり | 490億円 | +68.9% |
| ホタテ貝 | 440億円 | +6.5% |
| さば | 236億円 | +122.0% |
| 牛肉 | 444億円 | +15.0% |
| いわし | 93億円 | ▲26.7% |
増加率と増加額を分けて読む
さばは前年同期比+122.0%と、増加率が最も目立ちます。ただし、金額は236億円で、ホタテ貝(440億円)の約半分です。増加額は+130億円で、ぶり(+200億円)より小さい数字です。
増加率は、前年の水準が低いと大きく出ます。商談の優先順位を決める時は、増加率だけでなく、金額と増加額も並べて見ます。
累計と単月が違う動きをする品目
同じ品目でも、1〜7月の累計と、7月単月で、増減の方向が違うことがあります。資料の2つの表を並べます。
| 品目 | 1〜7月累計の前年同期比 | 7月単月の前年同月比 |
|---|---|---|
| さば | +122.0% | +83.5% |
| ぶり | +68.9% | +67.7% |
| 牛肉 | +15.0% | +23.9% |
| ホタテ貝 | +6.5% | ▲8.3% |
| かつお・まぐろ類 | ▲0.6% | ▲45.5% |
ホタテ貝は、累計では+6.5%ですが、7月単月では▲8.3%でした。かつお・まぐろ類は、累計がほぼ横ばいの▲0.6%でしたが、7月は▲45.5%と大きく減っています。
累計の数字だけを見ると、直近の落ち込みを見逃します。単月の数字だけを見ると、一時的な動きを大きく受け取ります。両方を並べて、変化が続いているかを確認します。
減少した品目は理由を取引先に確認する
いわしは前年同期比▲26.7%(減少額は約▲34億円)、さけ・ますは▲48.1%でした。7月単月では、かつお・まぐろ類が約▲13億円、真珠が約▲6億円の減少です。
資料には、増減の理由は書かれていません。理由を推測で断定せず、「需要が変わったのか、供給や価格の事情か」を、取引先に確認する質問に変えます。
自社の商談情報と照合して次の確認を決める
照合の順番
統計を商談に使う時は、次の順番で、自社の情報と照合します。
- 自社の商品と同じ区分を、統計の品目名から探す
- 対象期間(累計か単月か)と、前年との比較の基準を確認する
- 国・地域別の動きと、増加額・減少額を確認する
- 自社の規格、価格、数量、必要な証明書と比べる
- 取引先に確認する質問に変える
数字を質問と次の確認につなげる
統計で見えたことは、そのまま結論にせず、取引先への質問と、次に調べる資料に変えます。
| 統計で見えたこと | 取引先に確認する質問 | 次に確認する資料 |
|---|---|---|
| 米国向けの増加額が大きい | 現地で動いている品目と規格は何か | 米国向けの規制・証明書の条件 |
| さばの増加率が高い | 需要が続く見込みか、必要な規格は何か | 国・地域別の内訳、前年の水準 |
| いわしが減少している | 需要の変化か、供給や価格の事情か | 品目別の月次の推移 |
資料の注記を読む
輸出実績は、財務省の貿易統計をもとに、農林水産省が作成しています。品目の範囲(水産物は、調製品を除く区分と、調製品を含む合計に分かれています)や、少額貨物の扱いは、資料の区分と注記で確認します。
数字を商談資料や社内の報告に使う時は、資料の名称、対象期間、確認した日を、数字と一緒に記録します。