「サーモンはノルウェー産」ウズベキスタンの日本食店で起きていること
現地の日本食レストランでは何が仕入れられている?
ウズベキスタンという国名を聞いて、水産物の輸出先として思い浮かべる人はまだ少ないかもしれません。中央アジアに位置し、周辺国も海に面していない、いわゆる「二重内陸国」。取引先の候補としてすぐに名前が挙がる国ではないでしょう。
しかし現地の日本食レストランの声を追っていくと、意外な事実が見えてきます。2022年に首都タシケントで開店した日本食店「ふる里」でシェフを務める内山淳人氏は、「サーモンだったらノルウェーから空輸でフレッシュなものが届く」と話しています。
日本産サーモンではなく、ノルウェー産です。現地で日本食を提供する店はまだ約20店舗ほどにとどまり、その仕入れルートには日本産水産物が組み込まれていません。
なぜ商流の薄い市場ほど動きにくいのか?
結論から言えば、まだ商流そのものが確立していないためです。日本政府は2030年に農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標を掲げており、中央アジアも輸出拡大の対象地域に含まれていますが、現時点での実需はノルウェー産・トルコ産・ドバイ経由の水産物が担っています。
小規模で水産物輸出に取り組む事業者にとって、この手の「空白地帯」は気になっても動きにくいのが実情です。中国・香港・台湾のようなメジャー市場は情報も取引ルートもある程度整っている一方、中央アジアは商流の情報が少なく、どこから手をつければいいのか分かりにくいものです。裏を返せば、大手が本格参入する前の今は、商流の薄い市場に早く足がかりを作れるタイミングとも言えます。
追い風となる世界のサーモン需給とウズベキスタンの購買力
世界的にサーモン需要はどう動いている?
2026年の世界のサーモン生産量は前年比1割増となり、過去最高の見通しです。国内でも宮城県をはじめ全国およそ150カ所で養殖が行われており、大手回転寿司チェーンが調達量を5割増やす動きも報じられています。
一方でチリ・ノルウェーの生産量は頭打ちの状態が続いています。世界的な需要の強さに供給が追いつききらない構図が、国産養殖にとっての追い風になっています(出典:日本経済新聞、2026年5月27日付)。
ウズベキスタンの購買力はどう変化しているか?
中央アジアでは一人当たりGDPの拡大とともに健康志向が強まっていると報じられています。近隣国のカザフスタンでは抹茶ブームが起きているとの報道もあり、日本の食文化そのものへの関心が地域全体で広がりつつあるとみられます。
ウズベキスタンの一人当たりGDPについては2,820ドル前後という参考値も見られますが、この数値は原典を直接確認できていないため、あくまで目安として捉えておきたいところです。断定できる数値ではない点にご留意ください。
国内で広がる新規参入・転換養殖の動き
サーモン養殖への新規参入はどれくらい増えている?
全国のご当地サーモンブランドは2026年春時点で112にのぼります。フグやブリなど、これまで別の魚種を養殖してきた西日本の生産者が、新たにサーモン養殖に加わる動きが目立っています(出典:みなと新聞「拡大続く日本のサーモン養殖 全国産地マップ2026」)。
陸上養殖に限れば、水産庁への届出件数は808件(前年740件)で、このうち新規届出は110件です。サケ・マス類の届出は90件で、令和6年度の陸上養殖全体の出荷量は6,907トンとなりました。ただしこれは陸上養殖という制度上の統計であり、海面での養殖転換とは別のカテゴリーである点には注意が必要です。
なぜ既存の生産者がサーモン養殖に切り替えているのか?
結論としては、既存の収益源が細る中でサーモンという新しい選択肢に活路を求める生産者が増えているためです。天然サケの漁獲量が大きく落ち込んでいる岩手県や北海道の漁業者が、その代替としてサーモン養殖に参入する例が報じられています。
フグ・ブリなど従来の養殖魚種の需給が変化する中で、世界的に需要が旺盛なサーモンへ切り替える動きは、今後も広がっていく可能性があります。小規模輸出事業者にとっては、既存の販路に組み込まれていない新しい生産者と出会えるタイミングでもあります。
岩手県の事例から見える転換養殖のリアル
大手企業も動く転換養殖、その意味は?
岩手県陸前高田市では、日本水産グループが2023年から試験養殖を進め、2025年11月から事業を本格展開しています。広田湾漁業協同組合と協力し、同漁協が持つ孵化施設を改修してサーモンの種苗生産施設を新設したうえで、グループ会社の弓ヶ浜水産が運営する体制です(出典:ニッスイ ニュースリリース、2025年10月31日)。
これは同グループが掲げる国内サーモン養殖1万トン体制(2030年目標)の一環でもあります。大手水産グループがここまで踏み込むこと自体が、天然サケの減少を受けた転換養殖という流れが一時的なブームではなく、実需に基づいた本物の動きであることを示しています。
ただし、この体制はすでに大手資本と地元漁協が連携して作り上げたものです。小規模輸出事業者が、この体制に新規に食い込める段階ではない点は押さえておく必要があります。
小規模輸出事業者が実際に組める相手はどこにいる?
目を向けるべきは、大手の資本がまだ入っていない地域の漁協や個人生産者、試験養殖の段階にある生産者です。全国でご当地サーモンブランドが112まで増えている背景には、こうした比較的小規模な生産者の新規参入が数多く含まれています。
情報収集の入り口としては、各都道府県の水産関係部局や地元漁協への問い合わせが現実的です。まだ販路が固まっていない生産者ほど、新しい輸出ルートの相談に前向きなケースが少なくありません。
試験養殖段階の生産者にアプローチする際は、いきなり大きな取引量を求めるのではなく、小ロットからの取引に対応できるかどうかを確認する姿勢が、関係構築の第一歩になります。

小規模輸出事業者が今から準備できること
生産者との関係づくりで何を確認すべきか?
結論から言えば、出荷実績・衛生管理体制・安定供給力の3点を早い段階で確認しておくことが欠かせません。試験養殖段階の生産者であるほど、これらの体制がまだ整っていない場合もあるため、焦らず時間をかけて関係を築く姿勢が求められます。
陸上養殖全体で見ると、届出件数が多い都道府県は沖縄195件・大分53件・鹿児島36件です(出典:水産庁「陸上養殖業の届出件数について」)。これはサーモンに限った数字ではありませんが、陸上養殖という手法そのものへの関心が全国的に高まっていることがうかがえます。
輸出書類の基本はどこから押さえればいい?
結論は、自社が扱う品目のHSコード(関税分類番号。国際的に統一された商品分類の番号)と、相手国が求める証明書の種類を把握することから始まります。水産物の場合、衛生証明書や原産地証明書が求められることが一般的ですが、国ごとに要件が異なるため、個別確認は欠かせません。
いきなり全ての手続きを完璧にそろえる必要はありません。まずは自社が輸出したい品目とその数量規模を明確にした上で、ジェトロの窓口や公的機関の情報を一つずつ当たっていくのが現実的な進め方です。
ウズベキスタン輸出で確認しておきたい実務と、今動くべき理由
通関・検疫の手続きはどこで確認できる?
結論として、水産物固有の検疫・衛生証明書の要件は、現時点で公開情報からは確認できていません。原産地証明書や貨物税関申告書、対象品目のウズベク文字によるラベル表示義務など一般的な輸入規制の情報は見られるものの、水産物に特有の条件は個別に確認する必要があります。
なお、ウズベキスタン向け水産物輸出の検疫・衛生証明書要件は、本記事の時点では確認できていません。輸出を検討する際は、必ずジェトロ等の公式情報で個別に確認してください。
何から始めればいい?
結論は、現地の商流の情報収集からです。タシケントに約20店舗ある日本食レストランや現地の輸入業者の動向を追いながら、日本政府が掲げる2030年の輸出目標という追い風も踏まえて、少しずつ接点を探っていくのが現実的な進め方です。
今すぐ確認しておきたいポイントは?
結論は次の3点に整理できます。まず、現地の日本食店や輸入業者の動向から需要の芽を探ること。次に、大手の資本がまだ入っていない地域の漁協・個人生産者・試験養殖段階の生産者に接点を持つこと。そして、検疫・衛生証明書などウズベキスタン側の要件を個別に確認することです。
あさひ通商がこれまで水産物の輸出書類・検疫手続きに関わってきた案件でも、初めて輸出に取り組む事業者からは「仕向国の規制情報がどこにあるのか分からない」「現地のバイヤーとどう接点を持てばいいのか」という相談が多く寄せられています。特に中央アジアのような商流の薄い市場では、公的機関の統計や現地レポートを一つずつ拾い集めながら、取引の輪郭をつかんでいく作業が欠かせません。
特に、大手商社がまだ着手していない新興国市場に関心がある小規模輸出事業者や、国内で新しく立ち上がったサーモン生産者との接点を探している事業者にとって、ウズベキスタン市場は検討材料になり得ます。
日本産サーモンが届いていない市場と、まだ大手に取引を固められていない生産者。この組み合わせをどう活かすか、一度整理してみる価値がありそうです。