水産・和牛 仕入れ代行

9月3日からEU向け和牛輸出に新規制。今知らないと輸出が止まる

EU向けの和牛輸出で、9月3日から「知らなかった」では通らない規制が始まります。

  • EUでの和牛需要:市場規模・単価・販売チャネルの現状
  • 2026年9月3日施行の新規制(EU規則第2023/905号)の内容
  • 輸出事業者が今すぐ確認すべき対応手順

EUでの和牛需要:今なぜ欧州が注目されるか

単価8,000円/kgを超える最高値市場

日本の牛肉輸出は2024年に648億円・10,826トンを記録し、2年連続で過去最高を更新しました(出典:日本畜産物輸出促進協会)。仕向地別に見ると、アジア向けが金額の約6割、欧米向けが約3割を占めています。

EU向けの輸出単価は国別で最高水準にあります。日本政府の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」では、EU向け牛肉の2025年目標を104億円と設定しており、高付加価値市場として重点的に位置づけられています(出典:農林水産省)。

  • EU向け平均輸出単価:8,000円/kg超(全輸出先の中で最高水準)
  • EU市場での日本産A5和牛の小売価格:€200〜€500+/kg
  • 世界の和牛市場規模:2025年に約269億ドル→2034年に490億ドルへ(年率約7%・出典:Fortune Business Insights)

一方で米国市場では、低関税輸入枠が2025年に年明けから2週間で消化されるなど逆風が続いており、日本の輸出事業者の間でEUへの多角化に動く動きが加速しています。EU市場は単価が高く競合が少ない。その魅力は本物です。

EU市場の流通チャネル:ミシュランから高級スーパーまで

欧州での和牛流通は主に3つのチャネルで動いています。

  • ミシュランの星付きレストラン・高級ステーキハウス:フランス・英国・ドイツ・スペインを中心に、日本産A5和牛を最高級食材として採用するシェフが増えています。少量・高単価・産地の明確な証明が求められます
  • 専門食肉ディストリビューター:欧州各国向けに卸す専門業者を経由するルート。ロット購入が前提で、継続的な取引になりやすく、産地証明・格付け書のセット提出が商談条件になります
  • 高級スーパー・食料品店:欧州各国の富裕層向けスーパーでの取り扱いが増加中。産地・品種・等級の正確な表示が購買決定に直結します

日EU EPA(日EU経済連携協定、2019年2月発効)により、EU向けの牛肉関税は段階的に引き下げられています。発効時38.5%から2033年にかけて9%まで削減されるスケジュールです。この関税メリットが、EU市場への参入コストを少しずつ下げています(出典:農林水産省)。

出典:農林水産省・ジェトロの公開情報をもとに作成

2026年9月3日から何が変わるか

EU規則第2023/905号:輸入畜産物への抗菌剤制限

2026年9月3日から、EUは新しい動物用医薬品規則(EU規則第2023/905号)をEU域外から輸入される畜産物にも適用します。これは薬剤耐性菌(AMR)対策として制定された規制で、特定の抗菌剤を「生産段階で使用した動物由来の食品」のEU輸入を制限するものです(出典:農林水産省「EU向け畜産食品における動物用医薬品に関する規則への対応」)。

適用の基準は「9月3日以降にEUを通関する製品」です。輸出手配を進めていても、通関日が9月3日以降であれば規制対象となります。出荷日ではなくEUでの通関日が基準になる点は、スケジュール設計で見落としやすいポイントです。

日本で問題になる薬剤はホスホマイシン

EU規則が制限する抗菌剤リストのうち、日本国内の畜産業で承認・使用されているものはホスホマイシン(ホスホン酸誘導体)の1種類です(出典:農林水産省)。

ホスホマイシンは牛の細菌性疾患(腸炎・呼吸器疾患など)の治療に使われる薬剤で、国内では獣医師の処方によって使用が認められています。EUはこれを「制限薬剤」に指定したため、EU向けに輸出する牛肉は、その牛が出生からと畜に至るまでの間、ホスホマイシンを一切使用していないことを証明する必要があります。

「生涯不使用」という条件が重要です。今後から管理するだけでは対応できないケースがあります。過去に一度でも使用した牛由来の肉は、9月3日以降はEUへ輸出できません。仕入れ先農場の過去の使用記録を確認することが先決です。

輸出事業者が今すぐ確認すべき3つのこと

ステップ1:仕入れ先農場の対応状況を確認する

EU向け和牛を輸出している、あるいは今後輸出を検討している事業者がまず確認すべきは、仕入れ先の繁殖農家・肥育農家がホスホマイシン不使用の証明体制を整備済みかどうかです。

農林水産省の対応スキームによれば、証明体制の具体的な流れは次のとおりです。

  • 繁殖農家:都道府県に「ホスホマイシン不使用申告書」を提出する
  • 肥育農家:担当獣医師と「ホスホマイシン不使用に関する合意書」を締結する
  • 輸出事業者:仕入れ先農場がこの体制を整えているかを確認し、証明書類を受け取れる仕組みを作る

対応状況は農場によって異なります。仕入れ先に「9月3日以降のEU向け出荷に対応できるか」を今すぐ確認することが最初の一歩です。

ステップ2:EU向け輸出認定施設を確認する

ホスホマイシン対応とは別に、EUへの牛肉輸出には農林水産省が定める「EU向け輸出認定施設」からの出荷が必要です。認定を受けていない屠畜場・処理施設から出荷した肉は、EUの入国時に通関拒否となります。

確認先は農林水産省「日本から輸出される食肉等の受入れ状況一覧」で、EU向けに絞り込んで検索できます。仕入れ先の処理施設が認定を受けているかを、ホスホマイシン対応と同時に確認してください。

ステップ3:必要書類の準備体制を整える

EU向け牛肉輸出に必要な主な書類は次のとおりです。

  • 食肉衛生証明書(厚生労働省発行・英文):屠畜・処理施設の衛生管理を証明する。輸出ごとに発行が必要
  • 輸出検疫証明書(農林水産省・動物検疫所発行・英文):動物由来製品の検疫証明
  • 原産地証明書:日EU EPAの関税優遇を受けるために必要。日本商工会議所またはFTA特定原産地証明書の形式で取得
  • 商業インボイス・梱包明細書・船積書類(海上:船荷証券B/L、航空:エアウェイビルAWB)

9月3日以降は、ホスホマイシン不使用に関連する証明書類がこれらに加わります。書類一覧を今から整理しておくことが、スムーズな出荷体制につながります。

EU向け輸出で押さえておきたい3つの注意点

英国はEUと別の手続きが必要

2020年のブレグジット(英国のEU離脱)以降、英国はEUとは独立した輸入規制体制を持っています。EU向けに使用する食肉衛生証明書の様式と、英国向けの様式は異なります。EU・英国それぞれに輸出する場合は、それぞれの要件を個別に確認してください。

通関日が9月3日以降なら規制対象

出荷日ではなく、EUでの通関日が基準です。船積みが8月中であっても、欧州港への着港・通関が9月3日以降になれば規制対象となります。輸送リードタイム(海上輸送の場合は欧州向けで4〜5週間が目安)を考慮して、出荷スケジュールを逆算してください。

「今から管理すれば間に合う」は条件付き

ホスホマイシンは「生涯不使用」が証明の条件です。今後の肥育・繁殖サイクルに入る牛については今から管理できますが、すでに一度でも使用した牛から生産した肉は、9月3日以降はEUへ輸出できません。仕入れ先農場の過去の使用記録を確認してから輸出計画を立ててください。

まとめ

2026年9月3日施行のEU規則第2023/905号で、EU向け和牛輸出の条件が変わります。今すぐ動くべき3点です。

  • 仕入れ先農場のホスホマイシン不使用証明体制が整っているかを確認する(繁殖農家の不使用申告書・肥育農家と獣医師の合意書)
  • 農水省の認定施設リストでEU向け出荷施設を確認する
  • 通関日を基準に出荷スケジュールを逆算する(海上輸送は4〜5週間のリードタイムを考慮)

9月3日は「知っていれば通過できる関門」です。EU向け和牛輸出の規制対応・書類準備について、まずはお気軽にご相談ください。

出典・参考資料

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