鹿児島産の養殖ブリが、ドバイの高級日本食レストランで提供されています。
数年前まで「中東への水産輸出」といえば、ハラール認証の壁や手続きの複雑さを理由に敬遠する事業者が多くいました。ところが実情は少し違います。魚類はイスラム法上、原則としてハラール(合法な食品)とみなされており、牛肉や鶏肉のような特別な処理証明は基本的に不要です。この事実が広まりはじめ、ブリをはじめとする養殖魚の中東輸出が静かに増えています。農林水産省も2024年8月、UAE(アラブ首長国連邦)への輸出支援プラットフォームを設置しました。本記事では、なぜ今UAEでブリが求められているのか、そして輸出を始めるには何が必要かを整理します。
UAEでブリが売れている3つの理由
①UAE国内でブリはほぼ漁獲されない
農林水産省の調査(令和5年度)によると、UAE国内でのブリの漁獲量はほぼゼロと推定されています。地場産品と競合しないということは、日本産養殖ブリが輸入品としてそのまま市場に入れるということです。香港や台湾のように激しい価格競争にさらされることなく、品質で勝負できる市場です。
②魚類は原則ハラール認証不要
イスラム法(シャリーア)のもとでは、魚類は「水の生き物」として原則ハラールとみなされます。牛肉・鶏肉・豚肉のような宗教的なと畜処理(ハラールスローター)の証明は基本的に求められません。これは中東向け水産輸出の大きなアドバンテージです。ただし、加工品や調味料を含む製品はこの限りではないため、扱う品目によって個別に確認が必要です。
③ドバイの高級日本食需要が拡大している
ドバイには世界中の富裕層が集まり、高級日本食レストランの数が年々増えています。刺身・寿司・しゃぶしゃぶといった料理に使われる高品質な魚の需要は旺盛で、特に脂がのった養殖ブリは「脂の甘さと大きさ」が現地シェフに評価されています。
※本内容は農林水産省・ジェトロが公開している情報をもとにしています。最新の輸入要件はジェトロ「UAE向け輸出ガイド」でご確認ください(2025年8月更新版を参照)。

シナリオ:鹿児島の養殖業者Aさんのケース
Aさんは鹿児島県でブリの養殖を手がける事業者です(従業員12名)。これまで国内市場向けに出荷してきましたが、ドバイの食品輸入会社から「毎月安定的にブリを仕入れたい」という問い合わせが届きました。Aさんは輸出の経験がありません。何から手をつければよいでしょうか。
UAE向けブリ輸出、準備の手順
Step 1:輸入要件の確認(今すぐ)
UAE側の輸入規制をまず把握します。現在のところ、魚類のUAE向け輸出に必要な基本書類は以下の3点です。
- 衛生証明書(ヘルスサーティフィケート):日本産水産物が衛生基準を満たしていることを証明する書類。都道府県の水産担当機関が発行します。
- 原産地証明書:日本産であることを示す書類。商工会議所で取得できます。
- インボイス(商業送り状):品目・数量・金額を記載した基本の貿易書類。輸出者が作成します。
最新の品目別要件はジェトロのUAE向け輸出ガイドで確認できます。初めての場合は、事前にジェトロの窓口や輸出代行業者へ相談することをおすすめします。
Step 2:商品形態と加工設備の確認(1〜2週間目)
バイヤーが求める形態によって、準備する設備が変わります。
- 冷凍フィレ(切り身):加工施設でフィレにカットし、急速冷凍してから出荷。船便での輸送も可能でコストを抑えられます。UAE市場で最も流通しやすい形態です。
- チルド(冷蔵)丸魚・フィレ:航空輸送が前提で費用は高めになりますが、高級レストラン向けには鮮度の高いチルド品が求められます。
Aさんのバイヤーは冷凍フィレを希望しているため、まず自社の急速冷凍設備の対応状況を確認します。設備がなければ近隣の水産加工業者への委託加工も選択肢です。
Step 3:衛生証明書の申請(2〜4週間目)
衛生証明書はロットごとに申請が必要です。申請先は都道府県の水産担当部署または農林水産省の関連機関です。書類に不備があると申請が差し戻されるため、初回は余裕を持って2週間前に動き出すことが目安です。
衛生証明書には、魚の学名・産地・重量・加工日・保存温度などの記載が求められます。日本語と英語の両方で作成が必要な場合もあるため、書式をあらかじめ都道府県窓口で確認しておきましょう。証明書の様式はUAEが指定するフォーマットに合致している必要があり、指定外の様式で提出するとUAE側の通関で受理されないことがあります。
UAE側の通関でこれらの書類に不備があると、入港拒否または廃棄処分となります。特に初回輸出では、通関士(貿易の通関手続きを専門に行う国家資格保有者)や輸出代行業者に書類一式を確認してもらってから提出することを強くおすすめします。
Step 4:フォワーダーの手配(4〜6週間目)
フォワーダー(国際貨物輸送を手配する専門業者)に相談して、輸送方法を決めます。
- 航空便:ドバイまで約10時間。チルド品や急ぎの冷凍品に適しています。
- 船便:約20〜25日。大量の冷凍品を低コストで運べます。
UAE向けの食品輸送実績があるフォワーダーを選ぶと、現地通関の事情に詳しく、トラブル時の対応もスムーズです。
Step 5:契約条件の確認(輸出前)
初めての海外取引では、以下の点を書面で合意しておくことが重要です。
- 価格条件(FOBかCIF):FOBは日本の港までの費用を輸出者が負担し、CIFは目的地の港まで費用と保険も輸出者が負担します。初回はFOBが一般的です。
- 支払い条件:初取引は前払い(T/T前払い)が安心です。
- 品質クレームの処理:到着時に品質問題があった場合の対応を事前に取り決めておきます。
注意したいリスクと落とし穴
UAE向け水産物輸出でよく起きるトラブルを整理します。
最も多いのが書類の記載ミスによる現地通関での差し止めです。衛生証明書の品目名・重量・ロット番号が一字でも違えば、UAEの税関で止められる可能性があります。差し止めが長引くと、冷凍品であっても品質リスクが生じるうえ、保管費用がかさみます。書類は必ず専門家にチェックしてもらいましょう。
次に多いのが温度管理のミスです。ブリは脂肪分が多く、温度が一度でも上がると品質が急速に落ちます。輸送中に温度記録(温度ロガー:輸送中の温度変化を自動で記録する小型機器)を取り付け、バイヤーが到着時に確認できるようにしておくとクレームリスクを下げられます。
また、初取引での支払いトラブルも注意が必要です。UAEでは信用状(L/C:輸入者の銀行が代金支払いを保証する仕組み)を使った決済が一般的ですが、手続きに慣れていないと書類の不一致で代金回収が遅れることがあります。初回取引は前払い(T/T前払い:電信送金による事前入金)か、実績のある代金回収サービスを活用するのが安心です。
さらに、輸出前にバイヤーの信頼性を確認することも重要です。ドバイには世界中のバイヤーが集まりますが、なかには実態のない仲介業者が混じっていることもあります。ジェトロの海外ビジネスサポートデスクや現地の日本商工会議所を通じて、バイヤーの信用調査を行うことをおすすめします。
明日から動ける3つのアクション
- ジェトロのUAE向け輸出ガイドで最新の輸入要件を確認する
- 自社の急速冷凍設備の対応状況を確認する(なければ委託加工先を探す)
- UAE向け実績のあるフォワーダーか輸出代行業者に問い合わせる
まとめ
中東市場はハラール認証の壁が高いイメージがありますが、魚類に関してはその壁がほぼありません。日本が世界最大の生産量を誇る養殖ブリにとって、UAEは競合が少なく品質で勝負できる数少ない市場のひとつです。衛生証明書・原産地証明書・インボイスの3点を揃え、フォワーダーを確保すれば、思っていたよりスムーズに輸出を始められます。
「まず何から動けばいいかわからない」という方は、弊社の輸出業務代行サービスをお気軽にご相談ください。