和牛のおいしさは、A5やA4といった格付けだけで決まるのでしょうか。霜降りの豊かな牛肉を好む人がいる一方で、赤身の旨みや脂の軽さを大切にする人もいます。
こうした食の好みの違いに着目し、島根県が「しまね和牛」の新たなブランド戦略を進めています。その名称は「旨し縁(うましえにし)」です。
2026年9月29日に東京都内で戦略の概要がプレ発表され、10月5日からは飲食店で新しい考え方に基づくメニューの試験提供も始まりました。従来の格付けを否定するのではなく、和牛のおいしさを伝える新たな基準を加えようとする取り組みです。
島根県が発表した「しまね和牛」の新ブランド戦略とは
島根県は2026年9月24日、しまね和牛の新たなブランド戦略について発表しました。県内の生産・販売事業者や飲食・小売関係者、全国で飲食店を経営する企業などと連携し、消費者の好みに応える和牛肉づくりを進めるという内容です。
その背景として県が挙げているのが、和牛の肉質改良の進展と消費者ニーズの多様化です。霜降りの多いA5ランクの和牛肉が増えた一方で、食べる人が求める味わいは必ずしも一つではありません。
島根県の発表では、A5ランクの割合が7割を超える状況に言及しています。高い格付けを持つ牛肉が多くなったことで、等級だけでは産地や商品の違いを伝えにくくなっているという課題があります。
そこで打ち出されたのが、新ブランド戦略「旨し縁」です。脂の量だけではなく、脂の質や肉質のきめ細かさ、赤身とのバランスにも注目し、しまね和牛の魅力をより具体的に伝えようとしています。
2026年9月29日に東京都内でプレ発表
新戦略の概要は、2026年9月29日に東京都港区で開催された「和牛のふるさと山陰フェア」の前夜祭で紹介されました。この催しは、しまね和牛枝肉共励会実行委員会と鳥取県牛肉販売協議会が主催したものです。
会場では島根県と鳥取県の和牛を使った料理が提供され、首都圏の食肉関係者などが参加しました。島根県の担当者は、しまね和牛の新しい価値を伝えるブランド戦略について説明しています。
TSKさんいん中央テレビの2026年10月6日付報道によると、島根県は新戦略を遅くとも年内に正式発表し、県内外に広く周知していく方針です。
A5・A4の格付けだけでは分からない和牛のおいしさ
和牛の格付けでよく目にする「A5」や「A4」。これらは牛肉の品質を知るうえで重要な指標ですが、味の好みをそのまま表した数字ではありません。
A5の「A」と「5」は何を意味するのか
牛肉の格付けでは、アルファベットと数字がそれぞれ異なる項目を表しています。A・B・Cは歩留等級、1~5の数字は肉質等級です。
歩留等級は、枝肉から商品として利用できる部分がどれほど得られるかを評価するものです。一方、肉質等級では脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まりときめ、脂肪の色沢と質などが評価されます。
つまり、A5は歩留等級がAで、肉質等級が5という意味です。高い格付けは一定の品質基準を満たしていることを示しますが、食べる人全員にとって最も好みの味であることを保証するものではありません。
霜降りの多さと味の好みは別の視点
霜降りとは、赤身の筋肉の中に脂肪が細かく入り込んだ状態を指します。和牛の特徴として広く知られ、肉質評価でも重要な項目となっています。
ただし、脂の豊かな味わいを好む人もいれば、赤身の風味をしっかり感じたい人もいます。同じ牛肉でも、部位や調理方法によって受ける印象は変わります。
今回の新戦略は、こうした好みの違いに対応するため、従来の格付けとは別の視点から肉のおいしさを伝えようとするものです。
新ブランド「旨し縁」が設ける3つの味わいの方向性
新ブランド戦略の特徴は、しまね和牛の味わいを3つのブランドラインで表現することです。株式会社バルニバービの2026年10月5日付発表では、それぞれの名称と方向性が紹介されています。
| ブランドライン | 味わいの方向性 |
|---|---|
| Classic RICH(リッチ) | 脂のコクや濃厚さを楽しむ |
| Native HARMONY(ハーモニー) | 脂と赤身の調和を楽しむ |
| Authentic RED(レッド) | 赤身本来の旨みを楽しむ |
これらは単純に肉の優劣を示す区分ではありません。異なる味わいの特徴を分かりやすく表現し、食べる人が好みに合う牛肉を選びやすくするための分類です。
リッチは脂のコクを楽しむ方向性
「リッチ」は、脂のコクや濃厚な味わいを楽しむことに重点を置いたラインです。和牛らしい脂の豊かさを好む人に向けた特徴を表現しています。
ただし、脂が多いことだけを評価するわけではありません。新戦略では、脂の質や肉質のきめ細かさも重視しています。
ハーモニーは脂と赤身のバランス
「ハーモニー」は、脂と赤身の調和を重視するラインです。脂の風味だけでなく、赤身の味わいとの組み合わせを楽しむ方向性を示しています。
牛肉を選ぶとき、霜降りか赤身かという二者択一ではなく、その中間にある味わいにも目を向けられる点が特徴です。
レッドは赤身の旨みに注目
「レッド」は、赤身本来の旨みを楽しむことを重視したラインです。霜降りの多さだけでは表現しきれない牛肉の魅力を伝える役割があります。
TSKさんいん中央テレビの報道でも、赤身の味わいを求める消費者の声が紹介されました。新戦略では、こうした好みも和牛選びの重要な要素として位置付けています。
新たな評価軸となる脂の質と肉質のきめ細かさ
「旨し縁」では、従来の肉質等級に加え、脂の質という別の物差しを取り入れています。バルニバービの発表によると、脂肪の口溶けに関係する一価不飽和脂肪酸(MUFA)と、サシの細かさに基準を設ける考え方です。
一価不飽和脂肪酸とは
一価不飽和脂肪酸は、脂肪酸の一種です。代表的なものにオレイン酸があり、牛肉の脂肪の性質を考える際にも注目される成分です。
今回の新戦略では、脂肪の口溶けに関わる指標としてMUFAを取り入れています。単純な脂肪の量だけでなく、その性質にも目を向けるという点が特徴です。
ただし、MUFAの数値だけで牛肉のおいしさがすべて決まるわけではありません。実際の味わいには、肉の部位や調理方法なども関わるため、複数の視点から特徴を捉えることが大切です。
サシの細かさにも注目
サシは、赤身の中に入った脂肪の模様です。新戦略では脂肪の量だけでなく、サシの細かさも評価に取り入れようとしています。
従来の等級を土台としながら、脂の質と肉質のきめ細かさという視点を加えることで、同じ等級の牛肉でも異なる個性を説明できるようにする狙いがあります。
なお、各ブランドラインの詳細な数値基準や、どの程度の生産量を目指すのかについては、今回確認した公表情報だけでは全体像を判断できません。正式発表でどのような基準が示されるかが注目されます。
消費者の食べ比べから始まった新しい基準づくり
今回のブランド戦略は、突然生まれたものではありません。島根県は2026年2月にも、消費者の好みを新たな評価基準に反映する取り組みを実施しています。
島根県が2026年2月4日に発表した資料によると、2月6日から28日まで、島根・東京・関西の飲食店10店舗で、しまね和牛の食べ比べメニューを提供しました。
この企画では、異なる特徴を持つしまね和牛を食べ比べてもらい、アンケートを実施しています。消費者がどのような肉をおいしいと感じるのかを把握し、新しい基準づくりに反映することが目的でした。
バルニバービの発表では、この取り組みを「しまね和牛イノベーティブ・テイスティング ザ・チョイス」と紹介しています。食べる人の声を起点に、牛肉の価値を捉え直そうとする試みです。
生産者側の評価から食べる人の評価へ
牛肉の品質を一定の基準で評価することは、生産や流通において重要です。一方で、消費者が実際に食べたときの好みは、格付けだけでは十分に表現できない場合があります。
今回の取り組みは、品質を評価する既存の仕組みを維持しながら、食べる人が感じるおいしさを商品選びに結び付けようとするものです。
生産者、料理人、消費者がそれぞれ異なる立場から牛肉に関わり、その意見をブランドづくりに反映する点にも特徴があります。
2026年10月から東京都内の飲食店で試験提供が開始
新戦略は発表だけでなく、実際の飲食店での提供にも進んでいます。バルニバービは2026年10月5日から31日まで、東京都内3店舗で「旨し縁」の考え方に基づくメニューを試験提供すると発表しました。
対象となるのは「NEW LIGHT」「RIDE」「BESIDE SEASIDE」の3店舗です。それぞれのブランドラインの個性を表現した料理が提供されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験提供期間 | 2026年10月5日~31日 |
| 実施地域 | 東京都内 |
| 実施店舗数 | 3店舗 |
| 対象ブランド | しまね和牛「旨し縁」 |
| 味わいの分類 | リッチ・ハーモニー・レッド |
飲食店での提供は、消費者が味わいの違いを体験できる機会になります。料理人がそれぞれの肉の特徴をどのように料理として表現するかも、今回の取り組みの重要な要素です。
バルニバービは、2026年12月から東西10店舗へ展開する計画も発表しています。ただし、これは発表時点の計画であり、実際の展開状況や成果については今後の確認が必要です。
和牛のブランドづくりに求められる新しい視点
今回のニュースで注目したいのは、しまね和牛が格付けを重視しなくなるという話ではないことです。従来の品質評価に加え、味わいの個性を伝える仕組みをつくろうとしている点に意味があります。
これまでA5やA4という表示は、牛肉の品質を知る分かりやすい目安として使われてきました。新戦略では、そこに「どのような味わいを楽しめるのか」という情報を加えようとしています。
食べる人が好みに合わせて選べる可能性
牛肉を選ぶとき、脂のコクを重視するのか、赤身の旨みを楽しみたいのかによって、適した商品は異なります。3つのブランドラインは、こうした違いを伝えるための手掛かりになります。
例えば、肉質等級だけでは味わいの方向性を想像しにくい場合でも、リッチ・ハーモニー・レッドという分類があれば、選択の参考になる可能性があります。
ただし、消費者にとって本当に分かりやすい分類になるかどうかは、実際の提供方法や説明、食べた人の評価を見ていく必要があります。
生産と流通にも関わるブランド戦略
新たな味わいの分類が定着すれば、生産者がどのような特徴の牛肉を目指すかを考える際にも参考になります。また、販売店や飲食店が牛肉の特徴を説明する際にも、新しい表現方法となり得ます。
一方で、味わいの違いを安定して伝えるには、分類基準の明確さや品質の継続性も重要です。ブランドの名称だけでなく、実際の商品と説明が一致していることが求められます。
今回の公表資料からは、新基準に基づく生産量や販売数量、消費者評価の具体的な成果までは確認できません。今後、どのような情報が公開されるかが重要になります。
今後注目したい正式発表とブランド展開
TSKさんいん中央テレビの報道によると、島根県は新ブランド戦略を遅くとも2026年内に正式発表する方針です。今回のプレ発表と飲食店での試験提供は、その準備段階に位置付けられます。
今後の注目点は、3つのブランドラインの評価基準がどこまで明確になるか、そして生産・販売の現場でどのように活用されるかという点です。
さらに、試験提供を通じて得られた消費者の反応が、今後の取り組みにどのように反映されるかも気になるところです。現時点で、販売拡大や価格上昇などの具体的な成果を断定できる情報は確認できていません。
新戦略の進展を判断するには、島根県による正式発表や事業者の追加情報を継続して確認する必要があります。
まとめ:和牛の価値を「格付け」から「好みに合うおいしさ」へ広げる取り組み
島根県が進める「しまね和牛」の新ブランド戦略「旨し縁」は、和牛の価値を伝える方法に新しい視点を加える取り組みです。
従来のA5・A4などの格付けに加え、脂の質やサシの細かさ、赤身とのバランスに着目し、リッチ・ハーモニー・レッドという3つの味わいの方向性を示しています。
2026年2月の食べ比べ企画、9月のプレ発表、10月の飲食店での試験提供と、消費者の声を取り入れながら取り組みが進められてきました。
和牛のおいしさには、さまざまな楽しみ方があります。霜降りの豊かな味わいも、赤身の旨みも、それぞれが牛肉の魅力です。
今回の新戦略が目指すのは、その違いを分かりやすく伝え、食べる人が自分の好みに合う和牛を選べるようにすることです。しまね和牛の新しいブランドづくりが、今後どのように具体化していくのか注目されます。