水揚げから時計が動き始めるカツオ輸出。東南アジアへ届けるには、温度管理と鮮度の「数字」を出荷前に押さえることが最初の関門です。
- カツオの鮮度を正確に判断するK値・ヒスタミンの見方
- 冷蔵(チルド)と冷凍、用途ごとの使い分け判断基準
- タイ・ベトナム・インドネシア向けの需要動向と必要書類の確認方法
2026年初夏、カツオ輸出の現在地
毎年4〜6月は「初ガツオ」の旬。脂が少なく身の締まったこの時期のカツオは、たたきや刺身で高評価を得やすく、国内でも価格が動きやすい季節です。
農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、2023年(令和5年)の国内カツオ漁獲量は192,219トンでした。主要産地は以下の通りです。
- 静岡県焼津港:漁獲量約56,969トン(2023年)、国内シェア約3割で全国1位
- 高知県久礼・土佐清水:一本釣りによる高鮮度カツオが知られ、産地ブランドとして定着
- 宮崎・鹿児島:遠洋・沿岸カツオ漁が盛んで水揚げが安定、輸出原料の供給地としても機能
輸出面ではタイが主要仕向国のひとつです。ジェトロの資料(2026年版)によると、2025年の日本からタイへの農林水産物・食品輸出額は735億円(世界第7位)で、かつお・まぐろ類が上位輸出品目に挙がります。
※数値はいずれも公表時点のものです。最新情報はジェトロ・農林水産省の公式サイトでご確認ください。
Aさんのケース:焼津の輸出商社が東南アジアを目指す
静岡県焼津市に本社を置く食品輸出商社Aさん(従業員14名)は、地元漁港から仕入れたカツオをこれまで国内卸市場に出荷してきました。今年から東南アジア向けに輸出を拡大したいと考えています。
「K値もヒスタミンも言葉は知っている。でも具体的な数字の判断基準がわからない。冷蔵で送るのか冷凍で送るのかも整理できていない」というのが、輸出前夜の悩みです。
Aさんが最初に確認すべきことから順に整理します。
Step 1:カツオの鮮度を「数字」で把握する
K値:鮮度ランクを数値化する指標
K値は魚のATP(アデノシン三リン酸・エネルギー物質)分解産物の割合を示す科学的な鮮度指標です。数値が低いほど鮮度が高く、用途の選択肢が広がります。
- K値20%以下:刺身・生食向け(輸出高付加価値品の基準)
- K値20〜50%:加熱調理・缶詰加工向け
- K値60%以上:腐敗レベル、食用不可・輸出対象外
水揚げ直後のカツオのK値は通常5〜10%程度とされます。時間の経過とともに上昇するため、「水揚げから何時間以内に冷却処理するか」が品質管理の最初の判断ポイントです。

ヒスタミン:最も多いトラブル原因
カツオはサバ・マグロと並ぶ「ヒスタミン魚」の代表格です。筋肉中にヒスチジン(アミノ酸の一種)を多く含み、温度管理が不十分な状態が続くと細菌がヒスタミンを生成します。
コーデックス委員会(Codex Alimentarius)の国際基準では、水産物のヒスタミン含量の取扱基準は200ppm以下です。100ppmを超えると腐敗基準に該当し、輸出先の税関で廃棄対象になるリスクがあります。
- ヒスタミンは一旦生成されると、加熱しても分解されない
- 10℃以下の低温管理でも、長時間放置するとヒスタミンは蓄積する
- 色・においの変化が少なくても、検査値がアウトになる場合がある
- 冷凍状態では生成が抑制されるが、解凍時の温度管理にも注意が必要
輸出前に食品検査機関または水産試験場でのヒスタミン検査を実施し、記録を保持しておくことが、通関でのトラブル予防になります。
Step 2:東南アジアの需要と用途を国別に把握する
「東南アジア向け」とひとまとめにすると、商談で判断を誤ります。国によってカツオの用途・バイヤータイプ・求める規格が異なるため、仕向国ごとの市場像を事前に整理しておきましょう。
タイ:缶詰原料と日系外食の二層市場
タイは世界有数のカツオ缶詰生産国です。国内の大手缶詰工場が冷凍カツオを大量に輸入しており、「原料用冷凍カツオ」の需要が東南アジアのなかでも特に大きい市場です。
- 缶詰原料(通常冷凍):大ロット・低単価。海上輸送のリーファーコンテナで輸入。品質より安定した供給量を優先するバイヤーが多い
- 日系外食・高級スーパー(冷蔵チルド):小ロット・高単価。航空便での輸送が前提。一本釣りや産地ブランドを重視するバイヤーが対象
同じタイ向けでも、バイヤーの業態によって求める温度帯・ロット・輸送手段がまったく異なります。最初の問い合わせ段階でバイヤーの最終用途を確認することが不可欠です。
ベトナム:日本食需要が急拡大中
ハノイとホーチミン市を中心に日本食レストランの数が急増しており、刺身・たたき用の冷蔵チルドカツオへの需要が高まっています。
- 日本食レストラン向け(冷蔵チルド):刺身・たたきで提供。週1〜2回の小ロット発注が一般的
- 冷凍小売向け(通常冷凍):スーパーの冷凍コーナーで一般消費者向けに展開するケースも増加中
コールドチェーンの整備が進む都市部では取引が成立しやすい一方、内陸部や地方都市ではインフラが途上のケースもあります。現地フォワーダー(国際物流業者)の実績を事前に確認しておきましょう。
インドネシア:自国産大国のニッチ高付加価値市場
世界のカツオ漁獲量ランキングでインドネシアは1位(2024年推計:約873,000トン)を占める漁業大国です(出典:GLOBAL NOTE「世界のカツオ漁獲量 国別ランキング」)。国内産カツオが豊富に流通しているため、日本産カツオは価格競争では戦えません。
ジャカルタの高級スーパーや日系企業の社員食堂など、ブランドと安全性を重視するバイヤーに絞ることが成功のポイントです。「日本産・一本釣り・産地証明付き」という差別化軸が有効に働きます。
フィリピン・マレーシア:日本食チェーンと高級スーパー
フィリピンとマレーシアでは、日本食チェーンや高級スーパーに日本産水産物を納める商流があります。いずれも冷蔵チルド輸送(航空便)が主流です。
マレーシアでは取引先によってハラール認証を求めるバイヤーもいます。ハラール対応の処理・梱包工程が必要になるケースがあるため、事前に取引条件の確認が欠かせません。
Step 3:冷蔵(チルド)輸出の条件と実務
生食・刺身クオリティのカツオを届けるには、冷蔵(チルド)輸送が基本です。温度帯を一貫して維持しながら航空輸送で届けます。
- 対象鮮度:K値20%以下・ヒスタミン200ppm以下が前提
- 管理温度帯:0〜2℃(氷温〜チルド)。水揚げ直後から現地着まで一貫して維持する
- 輸送手段:航空貨物。東南アジア主要都市まで飛行時間6〜12時間程度
- 許容輸送時間:水揚げから現地着まで48時間以内が品質維持の目安(K値・ヒスタミンの推移を事前に確認する)
- 梱包:発泡スチロール箱+保冷剤。ドライアイスを使う場合は航空会社の規定を事前に確認する
- コスト感:海上輸送の数倍〜十数倍になるが、高単価販売が期待できるため利益率は出やすい
チルド輸送は1回の輸送量(ロット)が少なくなります。バイヤーの発注量に対して採算の合う単価設定を交渉の初期段階で固めておくことが大切です。
Step 4:冷凍輸出の条件と実務
缶詰原料・業務用加工・家庭向け冷凍食品として販売する場合は、冷凍輸出が主流です。冷蔵に比べてロット規模が大きく、海上輸送でコストを抑えられます。
通常冷凍(-18℃以下):缶詰・業務加工向けの標準
- 温度帯:-18℃以下
- 対象用途:缶詰原料・業務用炒め物・フィッシュソース原料。タイの缶詰工場が主な仕向先
- 輸送手段:リーファーコンテナ(冷凍対応)による海上輸送。東南アジアまで約15〜25日
- ロット:数トン〜コンテナ単位(20フィートまたは40フィートコンテナ)
- コスト:航空輸送より大幅に安い。大量・定期的な取引に向いている
超低温冷凍(-60℃以下):刺身品質を冷凍で維持する選択肢
- 温度帯:-60℃以下(超低温冷凍。マグロ輸出と同等の管理)
- 対象用途:解凍後も刺身・たたきの食感が維持できる。日系レストランチェーンで「解凍カツオ刺身」として販売するケースで活用
- 輸送手段:超低温リーファーコンテナまたは航空輸送(冷凍)
- コスト:通常冷凍より設備・輸送コストが高いが、付加価値をつけた販売が可能
- バイヤー:日系外食チェーン・高級スーパー。「航空チルド便では量が足りない、でも品質は落としたくない」バイヤーに向く
通常冷凍か超低温冷凍かは、バイヤーの最終用途によって決まります。商談の最初に「缶詰の原料として使うか、刺身・たたきとして提供するか」を確認しておくことが、ミスマッチを防ぐ基本です。
Step 5:仕向国の輸入書類を確認する
水産物の輸出には仕向国ごとに異なる輸入書類の準備が必要です。書類の不備は通関での差し戻しや廃棄処分につながります。
- タイ向け:タイ保健省FDA発行の食品輸入業務許可証が必要。冷凍カツオの場合は農林水産省等が発行する水産物輸出証明書もあわせて準備する
- ベトナム向け:農林水産省が発行する衛生証明書が必要。ベトナム農業農村開発省への登録を求められるケースもある
- インドネシア向け:輸入業者認証番号(API・輸入業者登録)と事業基本番号(NIB・事業登録)の取得が現地バイヤー側に必要。輸出者はヘルスサーティフィケートを準備する
- フィリピン・マレーシア向け:農林水産省発行の衛生証明書が基本。マレーシアではハラール認証を求めるバイヤーへの対応が別途必要になる場合がある
規制内容は変更されることがあります。輸出前にはジェトロの輸出規制データベースや農林水産省の輸出証明書申請窓口で最新情報を確認してください。
輸出前に知っておきたいリスクと落とし穴
鮮度管理の失敗は商品廃棄だけでなく、バイヤーとの取引停止や損害賠償につながります。特に注意すべき3点を整理します。
- ヒスタミンは「見えない」:色・においの変化が少なくても、ヒスタミンが200ppmを超えているケースがあります。感覚的な判断を過信せず、検査機関でのヒスタミン測定を出荷前に必ず実施しましょう
- コールドチェーンの途切れは現地側で起きる:日本側の梱包と温度管理が万全でも、現地空港から倉庫への搬送中に温度が上昇するケースがあります。現地フォワーダーの実績を確認し、受け取り側との温度ログ共有を契約に含めておくと安心です
- 冷凍しても「ヒスタミンは消えない」:水揚げから冷凍までの間に生成されたヒスタミンは、冷凍状態でも分解されません。原魚段階の品質管理が最終製品の安全性を直接左右します
明日から動ける4つのアクション
- 水揚げ後の魚体中心温度を記録し、0〜2℃以下に到達するまでの時間を管理する体制を整える
- K値・ヒスタミン検査を依頼できる地元の食品検査機関または水産試験場をリストアップしておく
- バイヤーの最終用途(缶詰向けか生食向けか)を商談の初期段階で確認し、冷蔵か冷凍かを決定してから輸送手配に入る
- ジェトロの仕向国別ページで輸入規制・必要書類の最新情報を確認し、農林水産省への証明書申請スケジュールを逆算で組む
まとめ
初夏のカツオは旬の鮮度と産地ブランドを活かせる輸出の好機です。東南アジアへの販路を広げるには、K値・ヒスタミン・温度帯の3条件を軸にした鮮度管理が基本になります。
- 生食向けには冷蔵(チルド)航空輸送、加工・缶詰向けには冷凍(海上輸送)と用途ごとに使い分ける
- タイは缶詰原料と日系外食の二層市場、ベトナムは日本食需要が拡大中、インドネシアはニッチな高付加価値市場
- 輸出書類は仕向国によって異なるため、バイヤーとの商談前に規制確認を済ませておく
「とりあえず送ってみよう」という感覚では通関で止まるリスクがあります。鮮度と書類を両輪で整えることが、初めての東南アジア輸出を成功させる最短ルートです。あさひ通商では輸出書類の作成代行から現地バイヤーとのコーディネートまでサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。