「台湾が日本の食品輸入規制を全部なくした、というニュースを見ました。ということは、うちのカキも台湾に送れるようになったんでしょうか?」
広島で牡蠣の養殖と加工を手がける事業者からの問い合わせです。2025年11月21日、台湾衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)が日本産食品に対する全ての輸入規制措置を撤廃すると発表しました。2011年の東日本大震災後から続いてきた14年間の規制が終わりを迎えたこのニュースは、水産・食品業界に大きな期待をもたらしています。ただし「規制撤廃=何も書類がいらない」という理解は、実務では危険です。この記事では、台湾向けカキ輸出に絞って、規制撤廃で変わったこと・変わらなかったことを整理し、2026年現在の手続き手順を解説します。
2025年11月の撤廃で何が変わり、何が残ったか
まず全体像を整理します。台湾は2011年以降、日本産食品に対して2種類の規制措置を設けていました。
撤廃された2つの要件
- 日本産の全ての食品(酒類を除く)に対する産地証明書の提出義務
- 福島・茨城・栃木・群馬・千葉の5県産食品に対する放射性物質検査報告書の提出義務
2025年11月21日の撤廃公表により、この2点が廃止されました。根拠となったのは、台湾が2011年以降に実施した27万件以上の水際検査で不合格率が0%だったこと、科学的評価で追加被ばくリスクが「無視できる」レベルと判定されたことです。
引き続き必要な3つの要件
- 全食品に対してセシウム134+137の合計100 Bq/kg以下の放射性物質基準(変更なし)
- 生きた水産動物(魚類・甲殻類・貝類)への衛生証明書の提出義務(今回の撤廃対象外)
- 輸入品目のリスクに応じたサンプリング検査(台湾当局の権限は継続)
※最新の規制内容は、農林水産省・ジェトロの公式情報を必ずご確認ください。

Aさんのケース:広島産カキを台湾の飲食店に送りたい
Aさんは広島県で牡蠣の養殖と殻付きカキの加工・販売を手がける事業者です(従業員15名)。国内の料亭や飲食店への卸が主な販路でしたが、コロナ禍以降の需要回復が想定より遅れており、海外販路の開拓を模索してきました。台湾規制撤廃のニュースを機に、「今が台湾に挑戦するタイミングかもしれない」と感じています。Aさんは何から手をつければいいでしょうか。
5ステップで進める台湾向けカキ輸出の手順
Step 1:衛生証明書の申請先と取得期間を確認する(1〜2日目)
規制撤廃の恩恵で産地証明書は不要になりましたが、活カキは「生きた水産動物(生きた貝類)」に分類されるため、衛生証明書(Sanitary Certificate)が引き続き必要です。これは今回の撤廃措置とは別の、台湾の恒久的な食品安全制度です。
衛生証明書は、都道府県の水産試験場や農林水産省が認定する検査機関が発行します。証明の内容は「この産品は食用として安全である」という公的機関の証明で、台湾の通関書類として添付します。なお、動物検疫証明書・自由販売証明書・衛生証明書などが産地証明書の代替として機能する場合もありますが、事前に台湾の輸入者を通じて通関担当者に確認することを推奨します。
申請から証明書の発行まで通常1〜2週間かかります。広島の場合は広島県農林水産局などの担当窓口に申請方法・費用・所要日数を確認するところがスタートです。この確認を後回しにすると、輸出スケジュール全体が後ろ倒しになります。
Step 2:台湾のカキに関する食品安全基準を調べる(2〜4日目)
次に台湾側の受入基準を確認します。台湾の食品安全衛生管理法に基づくカキの主な基準として、以下の点をチェックします。
- 放射性物質:セシウム134+137の合計100 Bq/kg以下
- 重金属:カドミウム・鉛・水銀など、品目ごとの基準値
- 微生物・ノロウイルス:生食用の場合は生産水域の水質基準との整合性確認が必要
特に気をつけたいのはノロウイルスの問題です。台湾は貝類の食文化が根付いており、食品衛生への意識が高い市場です。日本でも牡蠣の生産水域は都道府県が水質管理を行っていますが、台湾向けに生食用として出荷する場合は、水質証明書類の準備が必要になるケースがあります。輸入者を通じて、現地当局が何を求めているかを事前確認しておくと安心です。
Step 3:台湾の輸入者(バイヤー)探しと輸出条件の確認(1〜2週目)
書類の準備と並行して、台湾側の輸入者を探します。水産物は鮮度が命です。活カキを輸出する場合、コールドチェーン(低温を保ちながら輸送・保管する仕組み)に対応した輸入者を選ぶことが品質維持の鍵となります。
台湾と日本の間には定期航空便が多く就航しており、空輸なら24時間以内の輸送が可能です。ただし空輸コストは高く、初回はロスが出ても試験輸出として割り切り、品質確認とコスト感の把握を優先することが重要です。まずは小ロットから始め、通関スピードや現地での品質評価を確認してから本格展開を検討しましょう。
台湾の輸入者探しには、ジェトロの「農林水産物・食品輸出サポート」や定期商談会の活用が効果的です。また農林水産省が主催する海外展示会・商談会イベントも参考になります。
Step 4:通関書類一式を準備して輸出手配をする(2〜3週目)
輸入者が決まったら、輸出通関に必要な書類を準備します。台湾向け活カキ輸出の主な書類は以下のとおりです。
- インボイス(Invoice / 商業送り状):品名・数量・単価・金額を記載した請求書
- パッキングリスト(Packing List):梱包内容の明細書
- Airway Bill(航空貨物運送状):空輸の場合に航空会社が発行する輸送証明書
- 衛生証明書(Sanitary Certificate):活貝類に必須・都道府県が発行
- 産地証明書(任意):台湾FDA義務はなくなったが、輸入者の社内管理や貿易保険の手続きで提出を求められる場合がある
カキのHSコード(関税分類番号)は、活きた牡蠣の場合「0307.11」が該当します。台湾側の輸入関税率や申告手順についても、輸入者を通じて事前確認しておくと通関がスムーズに進みます。
Step 5:初回出荷の通関状況を確認して次回に活かす(4週目〜)
輸出後、台湾通関では台湾FDA(食品薬物管理署)による書類審査が行われます。産地証明書・放射性物質検査報告書が不要になったことで書類審査の負担は減りましたが、台湾当局はサンプリング検査を行う権限を持ち続けています。
初回輸出はとくにチェック対象となりやすい傾向があるため、台湾の輸入者と密に連絡を取りながら通関状況を確認します。初回の結果をもとに、梱包方法・輸送時間・鮮度保持の改善点を洗い出し、継続取引につなげていきます。
よくある誤解:「撤廃=書類ゼロ」ではない
規制撤廃のニュースを受けて「台湾への輸出に書類は一切不要になった」という理解が広がっていますが、これは誤りです。
今回撤廃されたのは、あくまで東日本大震災後に設けられた「産地証明書の提出義務」と「5県産食品の放射性物質検査報告書の提出義務」の2点です。活カキなど生きた水産動物に必要な衛生証明書は、台湾の食品安全制度に基づく恒久的な要件であり、今回の撤廃対象には含まれていません。
この認識のずれが最悪の場合、台湾の通関で書類不備として積み荷が差し戻される事態につながります。生鮮の活カキが貨物のまま数日間放置されれば、廃棄ロスは免れません。「以前より書類は少ない」のであって「書類ゼロ」ではない。この違いを正確に理解したうえで輸出に臨むことが、最初の成功を生む前提条件です。
明日から動ける3つのアクション
- 都道府県の農林水産担当窓口(広島なら広島県農林水産局)に衛生証明書の申請方法・費用・所要日数を問い合わせる
- ジェトロの台湾向け水産物輸出ガイドページで最新の輸入規制・必要書類一覧を確認する
- 輸出代行・通関手配に実績のある業者に相談し、バイヤー紹介・書類準備をまとめて依頼できるか確認する
まとめ
2025年11月の規制撤廃で、台湾向け日本食品の輸出環境は大きく変わりました。産地証明書と放射性物質検査報告書が不要になったことで、手続きの負担は確実に軽減されています。
ただし、活カキなど生きた水産動物には衛生証明書が引き続き必要であり、台湾FDAの放射性物質基準とサンプリング検査の権限も残っています。「どの書類がなくなり、何が残っているか」を正確に把握したうえで動くことが最初の輸出成功の鍵です。台湾は日本の水産物への関心が高く、生食文化が根付いた大きな市場です。今が参入を検討する絶好のタイミングと言えます。
台湾向けの水産物輸出手続きにお悩みの方は、輸出業務代行サービスへのご相談をどうぞ。