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米国「Wagyu」表記ガイドライン2024年版、アメリカへ和牛を売りたい事業者が今すぐ確認すべき5つのルール

「Wagyuとして提案したいと言われたので、そのままラベルに記載して輸出したら、アメリカの農務省から表記を消すように言われてしまいました。何がいけなかったんでしょうか?」

こうした相談が、日本の和牛事業者から増えています。

アメリカのレストランやスーパーマーケットでは「Wagyu」という言葉が高品質の証として定着しており、通常の牛肉より格段に高い価格で販売されています。バイヤーから「Wagyuとして仕入れたい」と言われた日本の事業者が、自然な流れで「Wagyu」とラベルに記載する。その判断は正しそうに見えますが、実はアメリカへ牛肉を「Wagyu」表記で輸出するには、アメリカ農務省・食品安全検査局(FSIS:Food Safety and Inspection Service)へのラベル申請と承認が必要なのです。

2022年ごろから、申請なしで「Wagyu」と表記して輸出した日本の業者が、FSISから表記の修正を求められる事例が複数発生しました。この問題を受けてジェトロ(日本貿易振興機構)は2024年8月、「日本産和牛の米国輸出に係るWagyu表記申請のガイドライン」を新たに公開しています。

この記事では、アメリカへ和牛を輸出するために押さえるべき5つのルールを、2026年現在の情報をもとにシナリオ形式で解説します。

2024〜2025年、日本産和牛のアメリカ輸出をめぐる現状

アメリカの牛肉市場では現在、「Wagyu」を名乗る製品が日本・アメリカ・オーストラリアからそれぞれ流通しています。実際には、日本の和牛とアメリカやオーストラリア産牛の交雑種(F1・F2など)が「Wagyu」として販売されているケースも多く、本家・日本産和牛との差別化が課題となっています。

そうした市場環境の中で、日本産牛肉の輸出は着実に伸びてきました。

  • 2024年の日本産牛肉輸出額:648億円(前年比12%増・2年連続過去最高)
  • 2024年の米国向け牛肉輸出額:135億円(輸出先第1位)
  • 輸出量:1万826トン(前年比22%増)

出典:農林水産省「2024年の農林水産物・食品の輸出実績について」(2025年2月発表)

しかし2025年に入り、状況は大きく変わりました。2025年4月にトランプ政権が日本産品に対する相互関税(最大24%)を発表すると、米国向け和牛輸出は同年4月に前年同月比で約2割減少しました。その後の日米交渉を経て、日本への相互関税率は15%に落ち着いていますが、輸出事業者にとってアメリカ市場の不確実性は現実の課題となっています。

それでもアメリカは依然として日本産牛肉の最大輸出先であり、「本物の日本産Wagyu」へのバイヤー・消費者の需要は根強く残っています。適切な「Wagyu」表記の申請と承認は、関税コストが生じる今だからこそ、価格プレミアムを守るための重要な差別化手段となっています。

※本記事の規制・関税情報は2026年5月時点の情報を基にしています。最新情報はFSIS・農林水産省・JETROの公式サイトで必ずご確認ください。

出典:農林水産省・JETRO「Wagyu表記申請ガイドライン2024年8月版」をもとに作成

シナリオ:鹿児島の黒毛和牛農家、アメリカへの初輸出に挑む

Aさんは鹿児島県で黒毛和牛の肥育から出荷までを一貫して手がける事業者(従業員15名)です。国内の百貨店やレストランへの卸売りを主な事業としており、近年はアジア各国(香港・シンガポール)への輸出にも取り組み始めています。

ある日、アメリカ・ロサンゼルスのレストランチェーンのバイヤーからメールが届きました。「高品質なWagyuを探しています。日本から直接仕入れられますか?」

Aさんはアメリカへの輸出は初めてです。「Wagyu」という表記でアメリカに和牛を送るには、何から手をつければいいでしょうか。

「Wagyu」でアメリカへ輸出するための5つのルール

ルール1|「Wagyu」と名乗れる品種はFSIS認定の4品種のみ(確認:即日〜1週間)

まず確認すべきは、「自分が扱う牛がWagyuと表記できる品種かどうか」という点です。

アメリカ農務省・食品安全検査局(FSIS)は、「Wagyu」と表記できる日本産牛として以下の4品種を正式に認定しています。

  • 黒毛和種(Kuroge Washu)
  • 日本短角種(Nihon Tankaku)
  • 無角和種(Mukaku Washu)
  • 日本産褐毛和種(Akaushi)

この4品種のいずれかに該当する牛から生産された牛肉のみ、「Wagyu」と表記してアメリカへ輸出することができます。日本国内の品種登録機関(家畜改良センターなど)が発行する品種証明書を事前に取り寄せておくことが最初の一歩です。

なぜこの確認が必要かというと、アメリカでは「Wagyu」の定義が品種と結びついているからです。いかに高品質な牛肉であっても、FSISが認定した4品種以外の牛から生産された肉に「Wagyu」と表記することはできません。

Aさんの場合、黒毛和種(=黒毛和牛)を扱っているため、品種の条件はクリアです。次のルールに進みます。

ルール2|輸出できる施設はFSIS認定の日本国内施設に限られる(確認:1〜2週間)

「品種の条件をクリアできた。では、自社の処理施設から輸出できるか?」という疑問が次に出てきます。

残念ながら、どの施設からでも輸出できるわけではありません。アメリカへ牛肉を輸出できるのは、FSISが認定した日本国内の施設(と畜場・食肉加工施設)で処理された製品のみです。

この施設認定は厚生労働省が窓口となっており、FSISの要件に準拠したHACCP(ハサップ:危害要因分析重要管理点方式)による衛生管理体制の整備が前提条件となります。HACCPとは、原材料の受入れから最終製品の出荷まで、各工程の危険要因を分析し管理する食品安全の仕組みです。

FSIS認定施設のリストは農林水産省・厚生労働省の公式ウェブサイトで確認できます。自社で直接処理を行っている場合は認定の有無を確認し、認定を受けていない場合は認定施設への委託加工を検討する必要があります。

Aさんは自社施設での処理を行っていましたが、FSIS認定は取得していないことがわかりました。そこで、県内のFSIS認定施設に委託加工を依頼することにしました。

ルール3|食肉衛生証明書は厚生労働省から輸出ごとに取得する(リードタイム:2〜3ヶ月)

施設の問題をクリアしたら、次は書類の準備です。

アメリカへ輸出する牛肉には、厚生労働省が発行する「食肉衛生証明書(Health Certificate for Meat)」が必要です。この証明書は輸出ごとに取得が必要で、以下の内容を証明するものです。

  • FSIS認定施設で衛生的に処理された製品であること
  • 口蹄疫(FMD)・牛海綿状脳症(BSE)に罹患していないこと
  • 適切に検査・梱包されていること

申請は厚生労働省の検疫所(輸出食肉証明センター)を通じて行います。申請から証明書発行まで数週間かかるため、初めての輸出では少なくとも2〜3ヶ月前から準備を開始することが推奨されます。

詳細な申請手続きは厚生労働省「輸出食品」のページで確認できます。

ルール4|「Wagyu」のラベルはLSASで事前申請・承認が必要(申請期間:数週間〜数ヶ月)

ここが多くの事業者が見落としがちな、最重要のポイントです。

アメリカで牛肉製品に「Wagyu」「Wagyu Beef」などの特別な表示(スペシャルクレーム)を記載する場合、FSISのオンライン申請システム「LSAS(Label Submission and Approval System:ラベル申請・承認システム)」を使った事前申請と承認が必要です。承認が下りる前に「Wagyu」表記のラベルを使って輸出することはできません。

ラベル申請の際に提出が求められる主な書類は以下の通りです。

  • ラベル案(デザインを含む)
  • 品種証明書(黒毛和種など4品種のいずれかを証明する書類)
  • 飼養記録(日本国内で生まれ、育てられたことを示す書類)
  • FSIS認定施設での処理を証明する書類

申請・承認にかかる期間は数週間から数ヶ月に及ぶケースもあります。バイヤーとの納期を逆算して、余裕を持って申請を開始することが重要です。

JETROが2024年8月に公開した「日本産和牛の米国輸出に係るWagyu表記申請のガイドライン」では、申請書類の具体的な書き方と注意点が詳しく解説されています。初めてアメリカへ和牛を輸出する方は、このガイドラインを入手して読むことを強くお勧めします。

ルール5|裏付け書類はすべてまとめて管理する(随時:書類整備)

FSISへの申請を通過しても、通関時や流通段階でトラブルが起きることがあります。以下の書類はすべてひとつのフォルダにまとめて管理しておきましょう。

  • 品種証明書(原本またはコピー)
  • 飼養記録(出生地・飼養期間・飼料記録)
  • FSIS施設認定証のコピー
  • 食肉衛生証明書(輸出ごとに取得)
  • FSISが承認したラベル承認通知書
  • インボイス・パッキングリスト

これらの書類は通関時の確認だけでなく、アメリカのバイヤーや消費者が「本物の日本産Wagyu」であることを確認したいときの根拠資料にもなります。書類管理を丁寧に行うことが、Wagyuブランドへの長期的な信頼につながります。

知らずにやってしまいがちな3つの落とし穴

最もよくあるトラブルは「申請中にラベルを使ってしまう」ことです。LSAS申請中であっても、FSISの承認が下りる前に「Wagyu」表記のラベルを使って輸出した場合、製品の廃棄・返送を命じられるリスクがあります。2022年に日本の業者が実際に経験したのも、まさにこのケースでした。

次によくあるのは、品種証明書が不十分なまま申請して却下されるケースです。日本国内の品種登録機関が発行する正式な証明書を用意することが前提条件となります。書類が揃っていないと、申請そのものがスタートできません。

さらに、FSIS認定施設での処理を経ずに輸出しようとした場合、そもそも食肉衛生証明書の発行が受けられません。まず施設の確認から着手することが、遠回りのようで実は最短ルートです。

トランプ関税時代に輸出者が知っておくべき市場の現実

関税の現状:競合国より有利な立場を活かす

2025年4月、トランプ政権は日本産品に最大24%の相互関税を発表しました。その後の日米交渉の結果、日本への相互関税率は15%となっています。一方で、日本産和牛の主な競合相手であるブラジル産牛肉には50%の追加関税が課されており、輸出コスト面では日本が相対的に有利な状況です。

また2025年11月の大統領令により、牛肉を含む多くの農産品が相互関税の適用外とされたとも報じられています。ただし関税政策は交渉状況によって変動するため、最新情報の定期確認は欠かせません。

※関税の最新動向は農林水産省「農林水産物・食品分野に係る米国の関税措置への対応」でご確認ください。

低関税枠(TRQ)問題:輸出タイミングが採算を左右する

輸出事業者が特に注意すべきなのは、低関税枠(TRQ:関税割当、Tariff Rate Quota)の問題です。米国が設ける低い関税率での輸入枠は年間で上限が決まっており、2025年はその全量が年明けからわずか2週間で消化されてしまいました。低関税枠を超えると通常の高関税率が適用されるため、年度初めに素早く動ける体制を整えておくことが、コスト面での大きな差になります。

輸出者目線のWagyu申請:価格プレミアムを守る「証明書」として活用する

関税の不確実性がある中でも、「Wagyu」表記の正式承認が持つ意味はむしろ大きくなっています。関税分のコストが加わっても、本物の日本産Wagyuは現地で高いプレミアム価格を維持できるからです。アメリカのレストランや専門店では、「Wagyu」表記と産地・品種証明書が揃っていることが購買決定に直結します。

輸出者として押さえておくべき現実的な観点をまとめます。

  • 採算の事前確認:輸出価格に関税コストを上乗せした試算で採算が合うか、バイヤーとの価格交渉前に確認する
  • Wagyu承認の先行取得:承認がなければ関税を払っても「Wagyu」として売れない。承認は先行投資として早期に動く
  • 市場の多角化:アメリカ一本頼みのリスクを分散するため、欧州・中東・東南アジアへの並行展開を検討する
  • 情報収集の習慣化:日米交渉は流動的。農林水産省・JETROの情報更新を定期的に確認する体制を持つ

明日から動ける4つのアクション

  • 自社の和牛の品種が、FSISが認定する4品種(黒毛和種・日本短角種・無角和種・褐毛和種)に該当するか、品種証明書を確認する
  • 農林水産省または厚生労働省のウェブサイトで、米国向け輸出認定施設のリストを確認し、最寄りの施設に問い合わせる
  • JETROの「Wagyu表記申請のガイドライン(2024年8月版)」をダウンロードして、申請の全体像を把握する
  • 関税コストを含めた輸出価格を試算し、現地バイヤーとの価格交渉の前提条件を整理する

まとめ

アメリカへ和牛を「Wagyu」として輸出するための5つのルールを整理しました。

  • FSISが認定する4品種(黒毛和種・日本短角種・無角和種・褐毛和種)のみが「Wagyu」と表記できる
  • 輸出できるのはFSIS認定施設で処理された製品のみ
  • 食肉衛生証明書は厚生労働省から輸出ごとに取得が必要
  • 「Wagyu」ラベルはLSASで事前申請・承認が必須(承認前の使用は禁止)
  • 品種証明書・飼養記録・承認通知書などをまとめて管理する

2025年はトランプ関税の影響で一時的に輸出が落ち込んだものの、アメリカは依然として日本産牛肉の最大輸出先です。競合国(ブラジルには50%の追加関税)に比べて日本は関税面で有利な立場にあり、「本物のWagyu」というブランド価値と組み合わせれば、まだ十分に勝ち筋は見えます。ただし、低関税枠は早い者勝ちで消化されるため、準備を先行させることが重要です。

書類の準備から申請の進め方まで、初めてのアメリカ向け和牛輸出でわからないことがあれば、有限会社あさひ通商にお気軽にご相談ください。

出典・参考資料

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