「台湾のレストランから引き合いが来たんですが、書類の準備って何から始めればいいんでしょう……」
大阪市内で精肉卸業を営む田中さん(仮名・50代)がそう打ち明けてきたのは、今年の春でした。台湾のレストランチェーンのバイヤーから月間500kgの黒毛和牛を求める打診があり、単価も国内より2〜3割高い条件。決して悪い話ではない。問題は「輸出書類が複雑そう」という不安です。
ところが、調べてみると意外な事実がわかりました。2025年、台湾は日本産和牛の輸出に関わる規制を2度にわたって大幅に緩和しており、必要な書類がかつてより大幅に減っているのです。
この記事では、田中さんのような方に向けて、台湾向け和牛輸出に今(2026年現在)必要な書類3点と手続きの流れを、シナリオ形式でわかりやすく解説します。
2025年、台湾への和牛輸出は「2度の規制緩和」で一変した
台湾への日本産牛肉輸出は、長い規制の歴史を経てきました。しかし2025年、立て続けに大きな変化が起きています。
- 2001年:日本でBSE(牛海綿状脳症)が発生。台湾は日本産牛肉の輸入を全面禁止
- 2006年ごろ〜:「月齢30カ月以下」の牛肉に限り、段階的に輸入を再開
- 2011年〜:東日本大震災・原発事故を受け、台湾が日本産食品に産地証明書・放射性物質検査の提出を義務付け
- 2025年5月22日:台湾が「月齢30カ月以下」の輸入制限を正式撤廃(農林水産省・2025年5月23日発表)
- 2025年11月21日:台湾が日本産食品への輸入規制を全面撤廃。産地証明書・放射性物質検査報告書が不要に(農林水産省・外務省・ジェトロ発表)
最重要ポイント:2025年に2度の規制緩和が重なり、台湾向け和牛輸出の書類が大幅に簡素化された
①月齢制限撤廃により、これまで輸出できなかった30カ月齢以上の黒毛和牛(黒毛和種の約4割)も台湾市場に届けられるようになりました。②さらに輸入規制の全面撤廃により、それまで必須だった産地証明書と放射性物質検査報告書が不要となりました。2つの変化が重なった今は、台湾向け和牛輸出を始める絶好のタイミングです。
※2025年11月21日以降に輸出される日本産食品から適用。詳細は農林水産省・外務省の公式ページでご確認ください。

シナリオ:田中さんの場合
大阪市中央卸売市場近くで精肉卸業を営む田中さん(仮名)は、従業員12名の中小事業者です。国産の黒毛和種を複数の食肉処理場から仕入れ、地域の飲食店や料亭に卸してきました。国内では確かな実績がある。しかし輸出は未経験。
今年の春、台湾のレストランチェーンから「サーロインとリブロースを月間500kg、継続的に仕入れたい」との打診を受けました。現地の料理長が日本産黒毛和牛にこだわっており、単価交渉も前向きです。仕入れ先は大阪・兵庫の認定処理場。
田中さんは何から手をつければいいでしょうか?
台湾向け和牛輸出:2026年現在の書類取得手順(Step 1〜4)
2025年の規制緩和を経て、台湾向け和牛輸出に現在必要な書類は主に以下の3点です。
- ① 食肉衛生証明書
- ② 動物検疫証明書
- ③ 輸出申告・通関書類
※かつて必要だった産地証明書・放射性物質検査報告書は、2025年11月21日の台湾の輸入規制全面撤廃により不要となりました。
Step 1:仕入れ先が「輸出認定施設」かどうかを確認する(Day 1〜3)
最初にして最重要のステップです。書類より先に、ここを確認します。
なぜこれが必要か?台湾に輸出できる牛肉は、厚生労働省が認定した「と畜場」または「食肉処理場」で処理されたものに限られます。認定を受けていない施設で処理された牛肉は、どれほど品質が優れていても輸出できません。
確認方法:
- 厚生労働省「輸出食品」ページ(mhlw.go.jp)にアクセスし、輸出認定施設リストを検索する
- 仕入れ先のと畜場・食肉処理場の名称で確認
田中さんの場合:仕入れ先の食肉処理場が認定施設であることを確認し、Step 2へ進めました。
Step 2:仕入れ先に食肉衛生証明書の準備を依頼する(Week 1〜2)
なぜこれが必要か?食肉が衛生的に処理されており安全であることを証明する書類で、台湾側の輸入許可申請に必ず添付が求められます。
誰が発行するか:この証明書は輸出者が自分で作るものではありません。食肉衛生検査所(都道府県が設置)が、認定と畜場・食肉処理場での検査結果に基づいて発行します。発行作業は施設側(と畜場・食肉処理場)が食肉衛生検査所と連携して行います。
輸出者の役割:
- 仕入れ先(と畜場・食肉処理場)に対して「この出荷ロットは台湾向け輸出用なので食肉衛生証明書を発行してほしい」と事前に伝える
- 証明書を仕入れ先から受け取り、輸出書類に組み込む
ポイント:輸出用証明書の発行が可能かどうかは仕入れ先の施設によって異なります。認定施設(Step 1で確認済み)であれば発行できますが、余裕をもって早めに依頼しておきましょう。
Step 3:輸出検疫証明書を空港・港の動物検疫所で取得する(輸出直前)
なぜこれが必要か?BSE(牛海綿状脳症)や口蹄疫(こうていえき)などの動物疾病がないことを証明する書類です。台湾を含む多くの国が輸入時に義務付けており、2025年の規制緩和後も引き続き必要です。
正式名称と発行機関:「輸出検疫証明書」といい、農林水産省 動物検疫所が発行します。動物検疫所は成田・羽田・関西国際空港などの主要空港や港湾に設置されており、実際に輸出する空港・港を管轄する動物検疫所で手続きを行います。
手続きの流れ:
- 輸出予定が決まったら、輸出港・空港を管轄する動物検疫所に早めに事前相談する
- 輸出前に申請書類を提出する
- 動物検疫所の検疫官が検査を実施(空港・港の動物検疫所窓口または指定場所)
- 検査合格後、輸出検疫証明書を交付される
ポイント:検査と証明書交付は輸出当日または直前に行われます。ただし相手国ごとに必要書類や手続きが異なるため、輸出予定が固まったらできるだけ早く管轄の動物検疫所に相談してください。
Step 4:輸出申告・通関手続き(Week 3〜4)
なぜこれが必要か?日本の税関(customs)で輸出申告を行い、輸出許可を受けることで商品を日本から正式に送り出せます。
手続きの流れ:
- 通関業者(customs broker=輸出入の通関手続きを代行する専門業者)にStep 1〜3の書類一式を渡す
- 通関業者が輸出申告書を税関に提出
- 輸出許可取得後、航空便または冷蔵コンテナ船で台湾へ発送
輸送方法の選択:和牛の品質維持のため、少量・高単価の場合は航空便(冷蔵輸送)が選ばれることが多いです。量が多い場合は冷蔵コンテナ船も選択肢になります。バイヤーと合意のうえで決定しましょう。
気をつけたい3つの落とし穴
落とし穴①:認定施設の確認を後回しにする
書類の準備を進めてから「実は仕入れ先が認定施設でなかった」と判明するケースがあります。そうなると、施設変更か認定申請から始める必要があり、数カ月単位のタイムロスが発生します。最初にここだけ確認すれば避けられます。
落とし穴②:「産地証明書はもう不要」を知らずに余計な手間をかける
古い情報をもとに「産地証明書も放射性物質検査も必要」と思い込んで準備を始めるケースがあります。2025年11月21日以降、これらは台湾向け日本産食品輸出において不要となりました。最新の公式情報を確認することが大切です。
落とし穴③:輸出検疫証明書の手続き確認を後回しにする
輸出検疫証明書は輸出当日・直前に空港や港の動物検疫所で取得するものですが、相手国の要件確認や書類の準備が必要なため、輸出予定が決まった時点で管轄の動物検疫所に相談するのが原則です。直前になって「書類が足りない」「様式が違う」と判明するケースがあります。
明日から動ける3つのアクション
- 仕入れ先が輸出認定施設かどうかを確認する:厚生労働省「輸出食品」ページの認定施設リストで名称検索。5分でできます。
- 農林水産省「台湾向け輸出手続」ページで最新書類を確認する:農林水産省「台湾向け輸出に必要な手続について」に最新の証明書様式と申請先一覧が掲載されています。2025年11月以降の改訂版を確認しましょう。
- 輸出する予定の空港・港を管轄する動物検疫所に電話し、事前相談する:「台湾への牛肉輸出について相談したい」と伝えるだけで、輸出検疫証明書の取得に必要な手続きと書類を教えてもらえます。動物検疫所は成田・羽田・関西国際空港などの主要空港に設置されています。
まとめ
台湾向け黒毛和牛輸出の現状を3点で整理します。
- 2025年の2度の規制緩和(月齢制限撤廃+輸入規制全面撤廃)で、台湾への和牛輸出は史上最もハードルが低い状況になった。月齢30カ月以上の高品質和牛を届けられ、かつ産地証明書・放射性物質検査が不要になった。
- 現在必要な書類は3点。最初の関門は「輸出認定施設かどうかの確認」。食肉衛生証明書・動物検疫証明書・通関書類を、窓口ごとに順番に揃えていく。
- 全体で3〜5週間を見込み、動物検疫所への早期相談が成否を分ける。バイヤーへの初回出荷日から逆算して、まず動物検疫所への問い合わせから始めることをおすすめします。
輸出書類の準備でお困りの方は、ひとりで抱え込まずにご相談ください。あさひ通商のお問い合わせフォームまたは公式LINEから、書類手続きの代行・サポートについてお気軽にご連絡いただけます。