ベトナムのバイヤーから「日本の和牛に興味がある」と連絡が来た。でも、現地に何が競合にいるのか、どんな手続きが必要なのか、動き方がまったく見えない。そんな声が最近増えている。
- CPTPPで変わった輸出コストの現実
- 「Viet WAGYU」と豪州産という2つの競合の実態と差別化の方法
- 初めてのベトナム輸出に必要な手続きと書類の流れ
ベトナムの牛肉市場と競合の現実
ベトナムは1億人規模の人口を抱え、近年の経済成長に伴い中間所得層が急速に拡大している国だ。都市部を中心に外食産業が活発になり、高品質な輸入食材への関心が高まっている。かつては豚肉・鶏肉が食卓の主役だったが、牛肉への需要がここ数年で着実に伸びてきた。
こうした変化の中で、日本産和牛への問い合わせも増えている。2024年の日本の牛肉輸出総額は648億円で2年連続の過去最高を記録しており(出典:日本畜産物輸出促進協会・nippon.com)、東南アジア向けの輸出拡大が全体の成長を支えている。ベトナムはその中でも注目度の高い仕向国の一つだ。
価格帯で見る、ベトナム牛肉市場の3層構造
ベトナムの牛肉市場は大きく3つの層に分かれる。
- 低価格帯(ベトナム産・輸入赤身肉):ローカルスーパーや市場で流通する日用の牛肉。価格優先の購買層が中心
- 中価格帯(米国産・オーストラリア産):外食チェーンや中級スーパーで扱われる輸入牛肉。100gあたり200〜300円相当で、一定の霜降りを持つWagyu交雑種も含まれる
- 高価格帯(日本産和牛・Viet WAGYU):高級レストラン・ホテルダイニング・富裕層向け専門店が対象。日本産和牛は100gあたり500円から、高いものは数千円以上(出典:VISTA MANAGEMENT Vietnam調査)
日本産和牛は高価格帯に属する。量で勝負する市場ではなく、「本物の希少性」と「証明できる品質」が購買動機になる世界だ。ホーチミン市やハノイの日系レストラン、外国人駐在員を取り込む高級ホテルが主な販路になる。
誰が和牛を買うのか、ベトナムの購買層
現地で和牛を購入するのは主に3つの層だ。
- 外国人駐在員・旅行者:母国で和牛に慣れ親しんでいる日本人・欧米人・中国人。「本物の和牛」を求める層
- ベトナム富裕層:高級外食が生活に定着した上位所得層。ブランド牛の知識があり、格付けや産地を重視する傾向がある
- 特別な場の外食需要:記念日・接待・結婚式など、「非日常の食体験」として和牛を選ぶ層。価格よりも体験の質を優先する
これらの層に共通するのは「本物の証明」を求めるという点だ。ブランド名だけでは動かない。格付け書・個体識別番号・産地証明が商談の土台になる。
競合の実態:Viet WAGYUと豪州産WAGYU
ベトナム市場に和牛を持ち込もうとする事業者が最初に直面するのが、「すでにWAGYUと呼ばれる商品が現地に存在する」という現実だ。日本産だけが競合するわけではない。
Viet WAGYU:価格は半値以下、名前は「WAGYU」
「Viet WAGYU」とは、和牛の遺伝物質(精液・受精卵)をベトナム国内に持ち込み、現地で肥育した牛肉のことだ。「WAGYU」の名前を冠しながら、価格は日本産の半値以下で販売されているケースが多い。
日本産との最大の違いは、血統管理・肥育環境・格付けの透明性だ。日本産黒毛和牛には農場から食卓までの個体トレーサビリティ(個体識別番号による追跡)があり、農林水産省の格付け制度(A5・A4など)によって品質が客観的に示される。Viet WAGYUにはこうした第三者による品質証明がない。
バイヤーに「なぜ日本産は高いのか」と聞かれた時、証明書と格付けを示して答えられるかどうか。ここが商談を決める分岐点になる。
豪州産WAGYU:安定供給と価格競争力が強み
もう一つの競合はオーストラリア産WAGYUだ。オーストラリアでは和牛を交配した「WagyuF1(交雑種)」や「フルブラッドWagyu(純血種)」が生産されており、一定の霜降りを持ちながら日本産より安価で安定供給できるため、ベトナムの中級レストランに浸透している。
豪州産の強みは「供給量の安定」と「コスト競争力」だ。対して日本産の強みは「ルーツの本物性」と「格付け制度の信頼性」になる。この差を数字と書類で示せない商社は、豪州産との価格競争に引き込まれる。
差別化のポイントは「証明できる品質」
競合との差別化は以下の3点に集約される。
- 格付け証明書:A5・A4などの等級と、BMS(脂肪交雑基準)のスコア。数字が信頼の根拠になる
- 個体識別番号:農場・生年月日・血統・と畜場まで追跡できる日本独自のシステム。バイヤーがQRコードで確認できる
- 銘柄牛の証明書:宮崎牛・近江牛・松阪牛などのブランド牛の場合、各銘柄の認定証をセットで提示できると商談の説得力が大きく上がる

CPTPPが変えた輸出コストと必要な手続き
これまでベトナムへの食肉輸出における壁の一つが関税だった。CPTPPが2019年1月にベトナムで発効して以降、日本産牛肉に対するベトナムの輸入関税は段階的に引き下げられている(出典:ジェトロ ベトナム牛肉輸入規制ガイド)。かつての高関税時代と比べ、輸出コストは明確に下がりつつある。
日本とベトナムをつなぐ3つの貿易協定
日本とベトナムの間には複数の経済連携協定が存在する。和牛輸出に関わる主な3つが以下だ。
- CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定):2019年1月ベトナム発効。牛肉を含む農産物の関税が段階的に削減されるスケジュールが組まれており、長期的には撤廃を目指す枠組みだ
- AJCEP(ASEAN・日本包括的経済連携協定):ASEAN全体を対象とした日本との協定。関税削減のペースはCPTPPより緩やかなケースが多い
- RCEP(地域的な包括的経済連携協定):2022年1月発効。日本・ASEAN・中国・韓国・豪州などを含む広域の枠組み
実際の輸出では、牛肉のHSコード(冷蔵は0201、冷凍は0202)に対してどの協定が最も有利な関税率を適用できるかを、ジェトロまたは農水省の最新の輸出ガイドで確認することが第一歩になる。
原産地証明書がなければ特恵税率は使えない
CPTPPなどの特恵税率を利用するには、輸出時に「特定原産地証明書(Certificate of Origin)」を取得し、ベトナム側の輸入申告に添付する必要がある。発行は日本商工会議所または自己申告(承認輸出者)で行う。
この証明書を用意していなければ、協定上は有利な税率が設定されていても、通関時には通常税率が適用される。書類の準備漏れが実務でよく起きるポイントの一つだ。CPTPPの恩恵を確実に受けるためにも、原産地証明書の取得は出荷計画の最初の段階で確認しておく必要がある。
ベトナムへ和牛を送るために必要な手続き
和牛のベトナム輸出は、食肉という性質上、農水産物や加工食品とは異なる特有の手続きが必要だ。動物検疫の対象となるため、輸出前に複数の認定・証明を取得しておく必要がある。
①輸出施設のベトナム農業農村開発省への登録
ベトナムに牛肉を輸出できる日本の事業所は、ベトナム農業農村開発省(MARD)に「施設登録リスト」として登録されていなければならない。農林水産省が窓口となり、対象施設の申請をまとめてMAROに提出する仕組みだ。
自社が取り扱う牛肉の加工・保管施設がこのリストに登録済みかどうか、農林水産省の動物検疫所に確認することが最初のステップになる。登録されていない施設から出荷した肉は、ベトナム側の通関で受け入れられない(出典:農林水産省)。
②輸出検疫証明書・食肉衛生証明書の取得
日本から牛肉を輸出する際は、農林水産省動物検疫所が発行する「輸出検疫証明書」と「食肉衛生証明書」が必要だ。これらはベトナム側の動物検疫手続きでも提出が求められる書類で、輸出のたびに取得が必要になる。発行には数日から最大1週間程度かかるため、出荷スケジュールを組む段階で取得期間を組み込んでおくことが重要だ(出典:農林水産省「ベトナム向け食肉の輸出に必要な手続き」)。
③ベトナム側の輸入許可と動物検疫
ベトナム側では、輸入者がMAROに対して動物検疫許可申請を事前に行い、許可証を取得してから通関の手続きに入る。輸入申告には以下の書類が必要になる。
- 輸出国が発行した食肉衛生証明書・輸出検疫証明書
- 特定原産地証明書(CPTPPなどの特恵税率を使う場合)
- 貿易インボイス・梱包明細書(パッキングリスト)
- 船荷証券(海上輸送の場合)またはエアウェイビル(航空輸送の場合)
初回輸出は手続きに時間がかかることが多い。書類の不備が一つでもあると通関で保留になる。現地の輸入代理人や通関業者との事前調整が、スムーズな出荷の鍵になる(出典:ジェトロ「牛肉の輸入規制、輸入手続き(ベトナム)」)。
バイヤーとの商談で先行者優位を取る3つのポイント
書類と手続きが整っても、実際に売れるかどうかはバイヤーとの商談力で決まる。現地で「この商社から買いたい」と思ってもらえる根拠を作れるかどうか。以下の3点が実務で効いてくる。
①格付け証明書・個体識別番号をセットで見せる
バイヤーが最初に疑うのは「本当に日本産の和牛なのか」という真偽だ。Viet WAGYUや豪州産も「WAGYU」と名乗るため、バイヤーの目には区別がつきにくい状況がある。
ここで有効なのが格付け証明書(A5・A4のランクとBMSスコア)と個体識別番号のセット提示だ。個体識別番号は農林水産省のシステムで牛の生年月日・産地・血統・と畜場まで公開データで追跡できる。QRコードをバイヤーのスマートフォンで読み取ってもらうだけで、「これが本物の日本産である証拠」を示せる。
②冷蔵か冷凍か、部位と用途で提案を変える
和牛は冷蔵(チルド)と冷凍で価格も手続きも異なる。冷蔵は鮮度の高さが武器だが、航空便での輸送が必要になりコストが上がる。高単価のA5和牛サーロインなど、単価が高い部位であれば航空便のコストを吸収できる。冷凍は船便でコストを抑えやすいが、解凍品として打ち出す必要がある。
バイヤーの用途を最初に聞くことが大切だ。高級レストランのメイン食材なら冷蔵チルドが響きやすく、食材卸・ホテルのビュッフェ向けなら冷凍がコスト面で合いやすい。
③定期供給の見通しを商談の場で示す
ベトナムのレストランバイヤーが最も気にするのは「安定供給できるか」という点だ。試しに少量を仕入れても、継続して同じ品質と価格で届けられる保証がなければ長期取引にはならない。
国内の和牛生産者・卸との関係を整備し、「月に何キログラム、何ヶ月先まで供給できるか」の目安を商談の場で提示できると、競合との差別化になる。宮崎牛を例に挙げると、宮崎県内の認定農場と連携している商社は供給の安定性と銘柄証明の両方を武器にできる。
あさひ通商のベトナム向け輸出サポート
あさひ通商では、東南アジアを含む複数の仕向国向けに和牛・水産物の輸出書類代行を対応してきた実績がある。輸出検疫証明書の取得サポートから、ベトナムの輸入規制の確認、バイヤーとのやりとりに必要な英語対応まで、一連のプロセスを一括して引き受けることができる。
「ベトナムのバイヤーから問い合わせが来たが、何から始めればいいかわからない」という段階からでも対応している。まず現状を整理するところから始めることができるので、気軽に相談してほしい。
こんな事業者に特に刺さる話だ。
- 国内の和牛卸・銘柄牛農家と取引があり、東南アジアに販路を広げたい商社
- ベトナムのバイヤーから問い合わせが来たが、書類・手続きで対応が止まっている担当者
- 豪州産WAGYUとの違いを正確に伝えられず、価格交渉で苦戦している輸出事業者
CPTPPによる関税削減が進む今は、ベトナム向け和牛輸出で先行者優位を取れるタイミングだ。手続きを整えて動き出せる商社が、この市場の入口を先に押さえることになる。
まとめ
ベトナムは牛肉需要が伸びている市場だが、「Viet WAGYU」や豪州産との競合がすでに現地に存在する。日本産和牛が選ばれるには、血統・格付け・書類の信頼性が勝負になる。CPTPPで関税が下がりつつある今、施設登録・衛生証明書・原産地証明書を整えて動き出すことが先行者優位につながる。詳しくはプロフィールのリンクからご相談を。