水産・和牛 仕入れ代行

国内8カ所だけ。ハラール和牛輸出を阻む屠畜施設不足と、新規事業者が依頼するための3つのアプローチ

「中東のバイヤーからオファーが来た。でも、どこでハラール屠畜をしてもらえるのか、まったくわからない。」

和牛の中東・東南アジア輸出を検討している事業者が最初にぶつかる壁がここにある。インターネットで「ハラール屠畜 日本 依頼」と検索しても、認証機関の案内ばかりが出てくるだけで、実際に外部委託を受けてくれる施設の情報はほとんど見当たらない。

この記事では、国内ハラール認証屠畜施設の実態と新規事業者が依頼するための3つのアプローチを解説する。「施設が少ない」という感覚は正しい。ではその先にどんな選択肢があるのか、順を追って整理していく。

「8カ所」という現実。ハラール認証屠畜場の全リストと仕向国対応

現在確認されている施設一覧

農林水産省の資料によると、2024年7月時点でハラール認証を取得した国内のと畜場は約8カ所に過ぎない。全国に存在する一般的なと畜場が約120カ所であることを考えると、ハラール対応が可能な施設がいかに少数であるかがわかる。

確認されている主な施設は以下の通りだ。

  • 三田食肉センター(兵庫県神戸市)
  • SEミート宮崎(宮崎県西都市)
  • にし阿波ビーフ(徳島県)
  • Zenkai Meat・AAH Nippon(熊本県)
  • 北海道畜産公社北見工場(北海道)
  • 徳島市立食肉センター(徳島県)
  • 熊本中央食肉センター(熊本県)
  • 羽曳野市立南食ミートセンター(大阪府)

出典:農林水産省「ハラールに関する基礎情報(2025年8月)」をもとに作成

施設ごとに「対応できる仕向国」が異なる

重要なのは、施設ごとに対応できる仕向国が異なる点だ。三田食肉センターはUAE政府機関の認証を取得しているが、インドネシア向け(MUI認証)に対応できる施設は限られている。SEミート宮崎は2025年にインドネシア向けの輸出承認を取得した数少ない施設の一つで、カタール・クウェート・UAEにも対応している。

「ハラール認証あり=どの国にも輸出できる」ではない。バイヤーの国が求める認証機関(マレーシア:JAKIM(マレーシア・イスラム開発局)、インドネシア:MUI(インドネシア・ウラマー評議会)、中東各国:各国政府機関)と、施設が保有する認証が一致しているかを必ず確認する必要がある。

※最新の認証施設情報は農林水産省のハラール情報ページでご確認ください。

新規依頼が難しい5つの構造的な理由

Aさんは九州の食品商社(従業員12名)で、これまで国内向けに和牛を扱ってきた。UAE在住のバイヤーから「A4等級の霜降り和牛を月3トン、ハラール認証付きで供給できるか」という具体的なオファーを受けて問い合わせを始めたが、3週間経っても施設が見つからない。現場感覚として「ハラール屠畜を新規で頼むのは難しい」と感じている事業者は多い。その感覚は正しく、以下の5つの構造的な問題が重なっている。

① キャパシティが既存取引先でほぼ埋まっている

ハラール屠畜は通常の屠畜ラインと完全分離して実施する必要がある。8カ所という限られた施設が既存の生産者・JAグループ・輸出コンソーシアムの分を優先して稼働しており、外部の新規事業者が割り込める余地は非常に少ない。施設側も「スポット対応できる枠がない」という状況が続いている。

② 施設の多くが産地組合・自治体系で外部に閉じている

SEミート宮崎は宮崎県内の4牧場が出資して設立した会社だ。こうした「産地クローズド型」の施設では出資者・構成員の牛が優先されるため、外部事業者が牛を持ち込んでも受け入れを断られるケースがある。自治体が設置した食肉センターも地域内の生産者を優先するため、他県の牛を持ち込む交渉は容易ではない。

③ 主要施設が自社輸出まで手がけている

三田食肉センターはUAEへの輸出・販売まで一貫して手がけている。屠畜だけを外部に委託したい事業者にとって、施設自体が競合になる可能性があり、受け入れを断られるケースがある。

④ 仕向国ごとに異なる認証が必要で、1施設が全対応できない

仕向国ごとに認証機関が異なるため、1つの施設が全ての国に対応できるわけではない。目的の仕向国に対応した施設を探すだけでも相当な時間がかかる上、複数国への展開を考えると、ほぼ確実に複数の施設と交渉しなければならない。

⑤ 少量・不定期な依頼は施設にとって負担が大きい

ハラール屠畜はラインの切り替えだけでなく、イスラム教徒のと畜師のスケジュール確保も必要だ。継続的な一定量が見込めない新規事業者からの依頼は施設側の運営効率を下げるため、後回しにされやすい。「まず試しに1回だけ」という相談は、ほぼ断られると考えたほうがいい。

それでも前進できる。新規で依頼するための3つのアプローチ

困難ではあるが、完全に道が閉ざされているわけではない。現実的に動ける3つの方法を紹介する。

アプローチ1:SEミート宮崎の「契約と畜」サービスに打診する

SEミート宮崎は会社概要に「契約と畜・牛のと畜・解体・臓器処理」を業務内容として明記している。2024年2月に開業したばかりで、カタール・クウェート・UAE・インドネシア向けの輸出承認を取得済みだ。他の施設と比べて設立が新しく、外部からの委託受け入れについて相談できる可能性が最も高い施設の一つといえる。

ただし受け入れの可否は施設の稼働状況によって異なる。「まず連絡して打診する」という一歩を踏み出すことがファーストステップだ。

アプローチ2:ハラル・ジャパン協会に相談する

一般社団法人ハラル・ジャパン協会は、ハラール認証取得のコンサルティングだけでなく、輸出に向けた施設のマッチング支援も行っている。「インドネシア・マレーシア向け食肉処理施設が不足気味」という現状を把握したうえで、新規事業者が施設を探す際の相談先として機能している。

仕向国を明確にした上で相談すると、対応可能な施設候補を紹介してもらえる場合がある。自力で施設を探すより専門機関を介したほうが、時間と無駄な問い合わせを省ける。

アプローチ3:農水省・ジェトロの輸出相談窓口を経由する

農林水産省はハラール輸出に関する情報提供を行っており、ジェトロも農林水産物・食品の輸出に関する無料相談を受け付けている。担当者が施設情報や輸出支援策のネットワークを持っているケースがある。ジェトロは海外バイヤーとのマッチング事業も実施しているため、施設探しと同時に販路開拓の相談を兼ねることができる。

失敗しないための確認事項と今日から動けるアクション

契約前に必ず確認すべき5項目

新規依頼が難しいからといって、最初に「OK」をもらえた施設にすぐ飛びつくのは危険だ。以下のポイントを必ず確認してから進むこと。

  • 仕向国の認証機関(JAKIM・MUI・UAE政府機関など)がその施設を認定しているか
  • バイヤーが要求する認証機関と施設の認証が一致しているか
  • 月あたりのと畜可能頭数・最低ロットが自分の必要量に合っているか
  • コールドチェーン(冷蔵・冷凍輸送)への対応能力はあるか
  • 輸出証明書(Health Certificate)の発行手続きを施設がサポートしてくれるか

特に仕向国の認証機関との一致は最重要項目だ。施設がハラール認証を保有していても、バイヤーの国の認証機関がその施設を認めていなければ、現地の通関で止まってしまう。「ハラール認証あり」という言葉だけで契約を進めると、後から取り返しのつかない損失につながる。

明日から動ける3つのアクション

  • 仕向国を1カ国に絞り、その国の公式ハラール認証機関名(JAKIM・MUI・UAE GAS など)を確認する
  • ハラル・ジャパン協会(jhba.jp)の問い合わせフォームから施設マッチング相談を送る
  • SEミート宮崎の公式サイトで連絡先を確認し、契約と畜サービスへの打診を準備する

まとめ

  • 国内のハラール認証屠畜施設は約8カ所のみ。産地組合・自治体系か自社輸出型が多く、新規受け入れは構造的に難しい
  • 施設探しより先に「仕向国→認証機関」を決めることが最重要。認証が合わなければ施設が見つかっても意味がない
  • SEミート宮崎の契約と畜サービス・ハラル・ジャパン協会・ジェトロを活用することで、前進する道は存在する

ハラール和牛輸出の手続きや書類サポートについては、プロフィールのリンクからあさひ通商の公式サイトをご覧ください。

出典・参考資料

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