輸出業務代行

輸出書類は誰が用意する?代行に任せるべき境界線

「イギリスのバイヤーから、生カキを継続的に仕入れたい」と連絡が来た。宮城県でカキの輸出に関わる水産商社の担当者Dさんは、うれしい話のはずなのに、机の上に増えていく書類のことを考えると気が重くなった。

  • イギリス向けにカキを輸出する際、どんな書類が必要になるのかがわかる
  • 日英EPA(CEPA)を使うと何が変わるのかがわかる
  • どこまでを自社で対応し、どこから代行に任せるべきかの目安がわかる

生カキをイギリスへ。注文が来た日、机の上に増えていく書類

Dさんの会社は、これまで国内向けの取引が中心で、海外のバイヤーとの直接取引はほとんど経験がなかった。

イギリスのバイヤーからの連絡を受けて調べ始めると、インボイスやパッキングリストといった通関書類だけでなく、防疫証明書や原産地に関する申告文、英国側システムへの事前通知など、聞き慣れない名前の手続きが次々と出てきた。

社内には輸出実務の経験者がおらず、どの書類を誰が用意すればよいのか、社内で対応すべきか外部に任せるべきかの判断もつかないまま、時間だけが過ぎていった。

初めての仕向国で最初につまずくのはどこか?

最初につまずくのは、書類の難しさそのものよりも「どの書類が必須で、どの書類が任意なのか」を切り分けられない点だ。

手元のリストには、インボイス・パッキングリストといった通関書類、防疫証明書、英国側システムへの事前通知、原産地に関する申告文が並び、それぞれ発行元も申請の流れも異なっていた。

ジェトロの案内によると、グレートブリテン島向けの水産物輸入には、IPAFFS(英国の輸入管理システム)による事前通知と、輸出国が発行する防疫証明書(Health Certificate)が必要になる(出典:ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(英国)」)。

Dさんが最初に感じた重さは、この2つの性質が異なる手続きを同時に進めなければならないと知ったことにあった。

「全部自分でやるべきか」という迷いは輸出者に共通する

ここでよくある反応が、「自社の担当者だけで何とかしよう」と抱え込んでしまうことだ。

輸出書類を扱った経験がある担当者ほど、通関書類は自社で作れると考えがちだが、防疫証明書やIPAFFSのように相手国側の制度に合わせる必要がある書類まで同じ感覚で抱え込むと、確認作業だけで数週間が過ぎてしまうことがある。

同じような迷いにぶつかった水産物・和牛の輸出担当者は少なくない。少人数の水産商社では、こうした判断を担当者一人の勘に頼らざるを得ない場面もある。

生カキのイギリス輸出、書類はどれから揃えればいい?

結論から言うと、最初に確認すべきは「日本がその品目で英国向けの輸出認定国になっているか」という前提条件だ。

防疫証明書はなぜ必要になるのか?

英国は、食品一般法規則や食品衛生規則など、旧EU法を引き継いだ規則に基づいて衛生基準を定めており、日本は対象品目について英国向けの輸出認定国としての判定を受け、対象品目が国別リストに掲載されていることで輸出が可能になっている(出典:ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(英国)」)。

この前提のもとで、出荷ごとに輸出国側が発行する防疫証明書の添付が求められる。国内向けの出荷実績があるからといって、自動的にこの証明書が発行されるわけではない。

出典:ジェトロ・税関の公開情報をもとに作成

IPAFFSへの事前通知は誰が担当する?

グレートブリテン島向けの水産物輸入では、IPAFFS(Import of Products, Animals, Food and Feed System)を通じた事前通知が必要で、到着の最低24時間前までに提出することが求められている(出典:ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(英国)」)。

英語の専用システムに、出荷内容や防疫証明書の情報を期限内に正確に入力する作業であり、時差やシステムの操作方法に慣れていないと、期限直前になって慌てることになりやすい。入力内容に不備があれば通関の遅延にもつながるため、内容の正確さと提出タイミングの両方が求められる。

インボイス・パッキングリストのような通関書類はどう扱う?

一方でインボイスやパッキングリストは、相手国側の制度確認を必要としない、様式さえ整えれば発行できる書類だ。

取引条件・品目・数量・重量といった基本情報を正確に記載することが求められるが、輸出実績のある事業者であれば自社の担当者だけで作成を完結できることが多い。ここまでを踏まえると、イギリス向けカキ輸出の書類は「相手国側の制度・期限に左右される書類」と「様式が整えば発行できる書類」の2つに大きく分かれることが見えてくる。

日英EPA(CEPA)と原産地申告文、押さえるべき点は?

書類の手間だけを見ると負担ばかりに感じられるが、日英間にはCEPA(日英包括的経済連携協定)という土台がある。制度を正しく理解して使えば、書類対応の負担を減らせる部分と、慎重に扱うべき部分がはっきり見えてくる。

CEPAを使うと何が変わる?

CEPAは2021年に発効した協定で、原産地証明について、輸出者・生産者・輸入者自身が原産地に関する申告文を作成できる「自己申告制度」が採用されている。

日本商工会議所が発給する第一種特定原産地証明書は、CEPAでは使用できない点に注意が必要だ(出典:税関「日英包括的経済連携協定」)。

原産地規則は、完全生産品・原産材料から生産される産品・実質的変更基準を満たす産品という3つの基準で判定され、実質的変更基準にはさらに関税分類変更基準・付加価値基準・加工工程基準という品目別のルールがある(出典:税関)。

自己申告制度である以上、様式と該当する基準さえ理解できれば、原産地に関する書類は自社作成の余地がある領域だと言える。

輸出認定国リストはなぜ定期的に確認が必要なのか?

英国向けの水産物輸出が可能なのは、日本が対象品目について輸出認定国としてリストに掲載されているという前提があるからだ。

この前提は品目や英国側の制度運用によって変わり得るため、一度確認して終わりにするのではなく、継続的に最新状況を追う必要がある。IPAFFSの事前通知期限や英国側の衛生基準についても同様で、随時見直される可能性がある領域だ。

情勢変化に注意

英国側の食品衛生規則・輸出認定国リスト・IPAFFSの運用は見直される場合がある。輸出のたびに最新の要件をジェトロおよび公式サイトで確認することが必要(最新情報は下記公式サイトで確認)。

どこまで自社で対応し、どこから代行に任せるべきか?

自社で対応できる書類の目安

ここまでの整理を踏まえると、インボイス・パッキングリストなどの通関書類、そしてCEPAの自己申告制度を使う原産地申告文は、様式と該当する基準を理解すれば自社対応の余地が大きい書類だ。特に原産地申告文は、輸出頻度が高い事業者ほど自社内にノウハウを蓄積しておく価値がある。

代行に任せるべき境界線はここにある

反対に、防疫証明書の発行前提となる輸出認定国リストの確認や、IPAFFSの事前通知のように相手国側のシステム・期限に合わせる必要がある手続きは、社内の担当者一人で抱え続けるには負担が大きい。

あさひ通商では、こうした相手国側の制度確認とシステム対応を実務として担ってきた実績がある。境界線の引き方としては、「様式さえわかれば作れる書類」は自社対応、「相手国の制度・期限・システムに継続的に向き合う必要がある書類」は代行に任せる、という切り分けが一つの目安になる。

この切り分けを最初に決めておくことで、社内の担当者は本来注力すべき商談やバイヤーとのやり取りに時間を使えるようになる。

特に少人数で運営していて規制情報のキャッチアップまで手が回らない水産商社や、これからイギリス向け輸出を初めて検討する事業者ほど、この境界線を先に決めておく意味は大きい。

取扱品目が水産物・和牛と多岐にわたる商社であれば、イギリス以外の仕向国でも同じような切り分けが必要になる場面に遭遇する可能性がある。

判断に迷ったときに確認したい3つの問い

どちらに分類すべきか判断に迷う書類が出てきたときは、次の3つを自問してみるとよい。

  • この書類は、様式と記載ルールさえ理解すれば社内で完結するか
  • この書類は、相手国側の基準・審査・期限によって内容や提出方法が左右されるか
  • この書類にまつわる制度は、今後も継続的に変更をウォッチする必要があるか

2つ目・3つ目に当てはまる書類ほど、自社だけで抱え込むより代行に任せたほうが、輸出のたびに発生する確認作業を減らせる。

まとめ

イギリス向けカキ輸出では、防疫証明書・IPAFFS事前通知という相手国側の制度に沿った手続きと、CEPAの自己申告制度を使える原産地申告文やインボイス・パッキングリストのように自社対応の余地がある手続きが混在している。両方を同じ感覚で抱え込むと確認作業だけで時間が過ぎてしまうが、性質の違いを理解して境界線を先に引いておけば、バイヤーからの発注にも慌てず対応できる。

輸出書類は、すべてを自社で抱え込む必要も、すべてを外部に任せる必要もない。

様式で完結する書類と、相手国の制度に継続的に向き合う必要がある書類を分けて考えることが出発点になる。Dさんはその後、輸出認定国リストの確認とIPAFFS事前通知の対応をあさひ通商に相談し、原産地申告文やインボイス・パッキングリストの作成は自社で対応する体制に切り替えた。

輸出書類は誰が用意するかを最初に決めておくことが、結果として輸出全体のスピードを左右する。

出典・参考資料

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