「タイの日本食レストランが、調査開始以来はじめて減少した」というニュースを見て、タイ進出のタイミングを迷い始めた輸出事業者の方もいるかもしれません。
- レストラン数の減少と和牛需要の拡大が同時に起きている理由
- 小規模輸出者が現実的に取れる参入戦略
- タイへの牛肉輸出に必須の認定施設・書類要件
「タイの日本食店が初めて減った」というニュースの向こうにあるもの
「タイの日本食レストランが調査開始以来はじめて減少した」というニュースを見て、進出を検討していた輸出事業者の中には、タイ市場への関心を一段トーンダウンさせた方もいるかもしれません。
実際、2025年のタイの日本食店は前年より135店舗少なくなっており、見出しだけを追うと市場全体が縮んでいるように映ります。ただし、レストランの店舗数と和牛そのものへの需要は、必ずしも同じ方向に動くとは限りません。
「日本食レストランが減っている国に、わざわざ和牛を売り込む理由はあるのか」。そう考えて撤退や様子見を選ぶのは自然な反応です。ただ、店舗数という一つの指標だけで市場全体を判断してしまうと、実際には広がりつつある需要を見逃すことになりかねません。
同じ数字を見て動きを止める事業者と、数字の中身まで確認してから動く事業者とでは、参入のタイミングに大きな差が生まれます。
レストラン数の減少と和牛需要拡大、この矛盾をどう読み解くか
タイの日本食レストラン市場は今どうなっている?
2025年のタイの日本食レストラン数は5,781店舗で、前年の5,916店舗から135店舗減少しました。ジェトロが調査を始めた2007年以来、初めての減少です(出典:ジェトロ、2026年1月時点)。
地域別ではバンコクが前年比2.4%減、バンコク近郊5県が3.1%減、それ以外の地方も1.9%減と、地域を問わず店舗数が縮んでいます。業種別に見ると焼肉店が9.0%減、丼専門店が8.6%減と落ち込みが目立つ一方、ラーメン店は2.6%増、喫茶は6.4%増と伸びている業種もあります。
ジェトロはこの状況について、タイ人消費者の日本食に対する知識・経験が向上し、日本食であること自体では差別化しにくくなっていると分析しています(出典:ジェトロ、2026年1月時点)。
それでも和牛を含む輸出額はなぜ伸びているのか?
2025年のタイ向け農林水産物・食品の輸出額は735億円で世界7位、前年比では約17.1%増えています(出典:ジェトロ、2026年時点)。レストランという看板の数が減る一方で、日本産の食材そのものへの需要は伸びているという、一見矛盾した状況が同時に起きているわけです。
考えられる理由は、タイの日本食市場が「日本食であれば何でも売れる」段階を過ぎ、味や品質での選別が進んでいることです。競争力の乏しい店舗が退場する一方、和牛のように他の食材とはっきり差別化できる品目は、生き残った店舗や高級路線の店舗でむしろ扱いが増えている可能性があります。
店舗数の増減だけでなく、一店舗あたりの仕入れの中身にも目を向ける必要があります。

小規模輸出者が現実的に取れる参入戦略
直接取引と商社経由、どちらを選ぶべきか?
輸出の実績がまだ少ない段階では、まず商社や輸出代行を経由して小さく始め、量とノウハウが蓄積してから直接取引への切り替えを検討するのが現実的です。
滋賀県で近江牛の繁殖・肥育を手がける岡喜グループは、2018年8月にタイ・バンコクへ現地法人「オカキインターナショナル」を設立し、同年11月には自社で和牛焼肉店を開業しました(出典:日本政策金融公庫)。
グループ全体の売上に占める輸出の割合は、2015年の3%から2020年には15%まで伸びています(出典:日本政策金融公庫)。
ただしこれは、現地法人まで設立した事業者の到達点です。輸出を始めたばかりの小規模事業者がいきなり同じ形を目指す必要はなく、まずは信頼できる商社・輸出代行を間に挟み、タイの現地バイヤーの反応を見ながら、扱う量が増えた段階で直接取引の比率を上げていく順番のほうが無理がありません。
現地パートナーはどうやって見つければいいのか?
一からタイの飲食店に飛び込み営業をするより、すでにタイに拠点を持つ日本人ネットワークを足がかりにするほうが近道です。ジェトロバンコク事務所や現地の日本商工会議所は、日本食材を扱いたい現地飲食店・小売店の情報を持っていることが多く、輸出初心者が最初に相談すべき窓口になります。
岡喜グループのように自社レストランを構える体力がなくても、まずは現地の和牛取扱店・高級レストラン数店に絞ってサンプルを持ち込み、少量からの取引を打診するところから始められます。
値段だけで交渉するのではなく、部位ごとの特徴や仕入れ元の情報を丁寧に説明できるかどうかが、現地バイヤーとの信頼関係づくりを左右します。
高級部位以外の部位はどう売り切ればいいのか?
ロースなど需要が集中する部位だけを輸出しようとすると、他の部位が国内で余り、輸出事業全体の採算が崩れやすくなります。
岡喜グループが同年11月に自社で和牛焼肉店を開業した背景には、高級部位以外の部位をレストランで消化し、輸出事業全体の採算性を確保する狙いがあったとみられます。
自社で飲食店を持つ体力がない小規模事業者の場合は、現地のパートナーレストランに部位セットでの引き取りを提案したり、加工品(ハンバーグ・ソーセージなど)にして売り先を分散させたりする方法も検討できます。
特定の部位だけを狙って輸出計画を立てると、需要のない部位の処理に追われることになりやすい点は、輸出を始める前に押さえておきたいポイントです。
和牛をタイへ輸出するために必須の認定施設・書類要件
タイ向け牛肉輸出に必要な施設要件とは?
タイへ輸出できる牛肉は、日本で生まれ育った牛の骨なし肉・骨付き肉・内臓に限られ、タイ政府が認定した処理施設で処理されたものである必要があります(出典:農林水産省)。
処理施設は都道府県の審査を経て国が確認したうえで、タイ側の認定施設リストに掲載される仕組みになっており、輸出したい事業者が個別に施設を選べるわけではありません。
まず自社が仕入れたい和牛の処理施設が、タイ向け認定を受けているかどうかを確認するのが最初のステップです。
関税メリットを受けるにはどんな書類が必要か?
タイ側の処理施設から発行される食肉衛生証明書に加えて、日タイ経済連携協定(JTEPA、2007年11月発効)の関税優遇を受けるには、日本商工会議所が発行する特定原産地証明書が必要です(出典:税関)。
JTEPAでは品目ごとに、発効時点で即時撤廃された関税と、最長10年かけて段階的に下がっていく関税があります(出典:税関)。
令和3年2月のタイ保健省告示第420号により、新しい様式の食肉衛生証明書がGMP証明書としても使えるようになっており、書類の様式は変更されることがあるため、輸出のたびに最新の様式を確認する必要があります(※最新情報は農林水産省・ジェトロの公式情報でご確認ください)。
まとめ
レストラン数の減少と和牛需要の拡大は、同じタイ市場の中で同時に起きています。数字の見出しだけで判断せず、店舗の淘汰が進む中でどこに需要が残っているかを見極めることが、小規模輸出者にとっての入り口になります。
商社経由で小さく始めて実績を積みながら現地パートナーとの直接取引を検討し、認定施設と輸出書類の要件を早い段階で確認しておく。この順番を踏めば、レストラン数が減少局面にあるタイ市場でも、和牛の輸出参入は十分に現実的な選択肢です。
処理施設の認定確認や輸出書類の整合性チェックでお困りの際は、あさひ通商までお気軽にご相談ください。