「タイのバイヤーからサンプルの返事が来ました。次は正式な注文書を出してもらえると言っています。書類って何を用意すればいいんですか? いつまでに動けばいいのかも全然わからなくて……」
愛媛県の水産食品会社で輸出担当を任されたばかりのAさん(20代)から、こんな相談が届きました。商談はうまくいった。でも「次に何をすればいいか」がわからない。そして「いつまでに動けばいいか」もまったくイメージできない。
この記事では、水産物を初めて海外に輸出する人が「どの書類を・いつまでに・どこに申請するか」を4週間スケジュールに沿って解説します。特に書類申請の前に必ず済ませるべき事前登録は、多くの初心者が見落として輸出を遅らせてしまうポイントです。ここをしっかり押さえておきましょう。
まず知っておきたい「書類を揃えるのに最短4〜6週間かかる」という現実
「来月に船積みしたい」と思ってから書類準備を始めると、ほぼ確実に間に合いません。なぜなら、輸出書類の申請には事前の登録・届出が必要な行政システムがいくつかあり、それらを後から慌てて申請しても数日〜2週間以上かかるからです。
水産物を海外に輸出するとき、一般的に必要な書類は以下のとおりです。
- インボイス(Commercial Invoice):商品の明細・価格を記した請求書。全ての輸出に必要。
- パッキングリスト(Packing List):梱包の中身・数量を記した明細書。
- 船荷証明書(B/L:Bill of Lading):船会社が発行する輸送契約書。代金回収にも使う重要書類。
- 衛生証明書(Health Certificate):農林水産省が発行する「この食品は安全です」という公的証明書。
- 原産地証明書(Certificate of Origin):「この商品は日本産です」と証明する書類。関税削減や相手国の通関で求められる。
- 輸出申告書(Export Declaration):税関に提出する輸出手続きの申告書。NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を使って電子申告する。

これらの書類は「あとから一気に準備すればいい」ものではなく、それぞれ申請タイミングと発行機関が異なります。まずはこの全体像を頭に入れたうえで、次のスケジュールに沿って動いてください。
※ 必要書類は輸出先の国・品目によって異なります。最新情報は農林水産省・ジェトロの公式サイトでご確認ください。
Aさんのシナリオ:愛媛の冷凍カンパチフィレをタイに初輸出
愛媛県で冷凍カンパチフィレを手がける水産食品会社の営業担当Aさん(28歳・従業員15名)は、タイのレストランチェーンから正式な発注内示を受けました。出荷希望日は6週間後。「今から動いて間に合うのか?」というのがAさんの最大の疑問です。Aさんは何から手をつければいいでしょうか。
Step 0(船積みの6週間以上前):書類申請の前に必ず完了させる事前登録
書類の申請を始める前に、行政システムへの事前登録を完了させる必要があります。これを後回しにすると、申請したくてもシステムに入れない状況になります。「ここを飛ばすと全部止まる」と覚えておいてください。
重要:この記事はタイ向け輸出を例にしています。仕向国によって必要な書類・施設登録・事前手続きは大きく異なります。タイで行った手続きが他の国でもそのまま使えるとは限りません。たとえば中国向けはGACC登録、EU向けは輸出認定施設への登録、米国向けはFDA登録など、国ごとに固有の要件があります。新しい仕向国に展開するたびに、その国の要件を一から確認することが必要です。
① gBizIDプライムの取得(最優先)
農林水産省の輸出証明書発給システムを使うには、gBizIDプライム(法人・個人事業主向けの行政認証アカウント)が必要です。これがないと衛生証明書の申請画面に入れません。
取得方法は2つあります。
- オンライン申請(推奨):マイナンバーカードとスマートフォンがあれば最短即日発行。手続き全体をオンラインで完結できます。
- 書類郵送申請:書類に不備がなければ原則2週間以内に発行。ただし2026年7月以降は審査期間が最大1か月に変更される予定です。
まず最初にこれを取得しておかないと、何も始まりません。GビズID公式サイトから申請できます。
② FEIS(一元的な輸出証明書発給システム)への登録
gBizIDを取得したら、農林水産省の一元的な輸出証明書発給システムに事業者登録を行います。衛生証明書の申請には、輸出する食品を製造・加工している施設(製造所)の情報も登録が必要です。
仕入れた商品を輸出する場合(商社・販売業者など)は、仕入れ先の加工業者・生産者の施設情報(営業許可証番号・住所など)が必要になります。事前に仕入れ先に確認しておかないと、この段階で手続きが止まります。自社で製造・加工も行っている場合は、自社の施設情報を登録してください。
事業者登録だけして製造所の情報を揃えていないと申請画面に進めません。仕入れ先への確認も含めて、余裕を持って進めましょう。
③ NACCSへの加入
輸出申告書を税関に電子で送るには、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)への加入が必要です。実際の申告作業はフォワーダー(輸送代理業者)に依頼することが多いですが、事前に加入しておくと手続きがスムーズです。
④ 原産地証明書の事前登録(EPA用と一般用で窓口が違う)
原産地証明書には用途によって2種類あり、それぞれ登録窓口が異なります。
- EPA用(特恵原産地証明書):日本とタイの間には日タイEPAがあり、これを活用するとタイ側の輸入関税が下がります。この証明書を取得するには、日本商工会議所に企業登録が必要です。登録後にユーザーIDが簡易書留で届く流れのため、余裕を持って進めましょう。
- 一般用(非特恵原産地証明書):EPAを使わない場合でも、バイヤーから「Certificate of Originを出してほしい」と求められることがあります。この場合は事業者を管轄する商工会議所(愛媛県であれば松山商工会議所など)で発行してもらいます。発行前に窓口で申請者登録の手順を確認しておきましょう。
原産地証明書について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
EPAで関税が下がる。原産地証明書の取り方と現場でよく起きる5つのミスを初心者向けに解説
⑤ 仕向国の施設登録確認(タイの場合)
タイへ食品を輸出する場合、製造施設がタイ保健省の定める衛生基準(GMP)を満たしていることの証明書(GMP証明書)の提出が求められます。施設認定の申請が必要なケースもあるため、農林水産省のタイ向け輸出食品の施設登録情報を事前に確認してください。
Week 1(船積みの4週間前):必要書類の全体把握とフォワーダー選定
仕向国の必要書類を正確に洗い出す
「水産物を輸出するなら衛生証明書だけあればいい」と思いがちですが、仕向国ごとに求められる書類は異なります。タイの場合、衛生証明書(Health Certificate)に加えてGMP証明書・漁獲証明書(Catch Certificate)・放射線証明書が必要になることがあります。
以下は主な仕向国の手続きの違いをまとめた一覧です。新しい国へ輸出するたびに、ゼロから要件を確認する習慣をつけましょう。
- 中国:GACC(中国税関)への施設登録が必須。登録なしでは輸入通関できない。登録に数か月かかるケースもある。
- EU(フランス・ドイツ・オランダ等):日本のEU向け輸出認定施設に登録された施設からの輸出のみ可能。施設認定の取得が前提条件になる。
- 米国:FDA(米国食品医薬品局)への施設登録と、HACCP(食品衛生管理)計画の整備が求められる。
- タイ:GMP証明書(製造施設の衛生基準適合証明書)が必要。衛生証明書に加えて提出を求められる。
- 韓国・香港:放射線証明書の提出が求められることがある。
※ 上記は代表的な例です。品目・時期・バイヤーの条件によって異なります。最新情報は必ず農林水産省・ジェトロの公式情報でご確認ください。
農林水産省の仕向国別・証明書申請一覧(アジア)や、ジェトロのタイ向け水産物輸出ガイドで最新要件を必ず確認してください。
フォワーダー(輸送代理業者)に見積もりを依頼する
輸出の実務経験が少ない場合は、フォワーダーに通関・輸送の手続きを代行してもらうことが一般的です。Week 1中に2〜3社に見積もりを依頼し、週内に選定できると理想的です。フォワーダーが決まると、書類の提出先・提出タイミングについて具体的な案内を受けられます。
インボイス・パッキングリストの下書きを作成する
インボイス(商業送り状)とパッキングリスト(梱包明細書)は、衛生証明書の申請にも情報が必要になります。商品名・HSコード(関税分類番号)・数量・重量・単価をこの段階で整理しておくと、Week 2以降の申請がスムーズに進みます。
Week 2(船積みの3週間前):衛生証明書・原産地証明書の申請
衛生証明書をFEIS(一元的な輸出証明書発給システム)で申請する
Step 0で登録したFEISシステムを使い、衛生証明書の申請を行います。申請には商品情報・製造所情報・仕向国情報(タイ向けの書式を選択)が必要です。申請後の審査・発行には一定の日数がかかります。Week 2の早い段階で申請を済ませておくことが重要です。
原産地証明書の申請(EPAを使う場合)
日タイEPAを活用して関税を下げる予定であれば、日本商工会議所のシステムで原産品判定依頼を行い、特定原産地証明書の発給申請を進めます。申請前にHSコードと日タイEPAの関税率を確認しておきましょう。
Week 3(船積みの2週間前):書類確認・輸出申告の準備
書類の受領確認・不備の修正
Week 2に申請した衛生証明書・原産地証明書が発行されているか確認します。書類に記載ミス(会社名・住所の表記ゆれ、数量の誤り)があると取り直しになります。受領したらすぐに内容を確認しましょう。
フォワーダーへの書類一式を提出する
フォワーダーから指示される書類一式(インボイス・パッキングリスト・船積依頼書・委任状など)をまとめて提出します。フォワーダーがNACCSを使って税関に輸出申告書を電子申告します。
Week 4(船積みの1週間前〜出荷):輸出申告・許可・船積み
税関審査・輸出許可の取得
税関が輸出申告書を審査し、問題がなければ「輸出許可」が下りて貨物を船積みできます。許可後にフォワーダー経由でB/L(船荷証明書)が発行されます。B/Lは代金回収にも使う重要書類なので、内容を必ず確認してください。
バイヤーへの書類送付
B/L・インボイス・パッキングリスト・衛生証明書・原産地証明書をバイヤーに送付します。原本が必要な書類は郵便で送り、電子コピーはメールで送るのが一般的です。タイのバイヤーが現地で輸入通関する際にこれらの書類を使います。
ここで失敗する人が多い:よくある落とし穴3つ
- gBizIDを「後でやればいい」と後回しにする:書類郵送で申請したら最大2週間待つことになり、衛生証明書の申請がずれ込んだ。2026年7月以降は最大1か月に変更される予定なので、今すぐオンライン申請を進める習慣をつけましょう。
- FEIS登録で製造所登録を忘れる:事業者登録だけして製造所登録を忘れ、衛生証明書の申請画面で止まった。事業者登録と製造所登録は必ずセットで完了させましょう。
- 仕向国の書類要件を事前に確認せず進める:「衛生証明書だけ取れば大丈夫」と思っていたら、タイ向けではGMP証明書も必要だった。書類の洗い出しはWeek 1で必ず行いましょう。
明日から動ける3つのアクション
- GビズID公式サイトにアクセスし、マイナンバーカードとスマートフォンでオンライン申請を始める(最短即日発行)
- 農林水産省の証明書申請ページで、輸出する品目・仕向国に必要な書類の一覧を確認する
- 地元の商工会議所に電話し、原産地証明書(一般用)の申請者登録に必要な書類と手順を確認する
まとめ
水産物の初めての輸出書類準備で押さえるべきポイントは3点です。
まず、書類申請の前に「gBizIDの取得→FEISへの事業者・製造所登録→NACCS加入→商工会議所登録」の4つの事前登録を完了させること。この順番を飛ばすと、申請したくてもシステムに入れない状況になります。
次に、衛生証明書・原産地証明書は申請から発行まで時間がかかることを見込んで、最低でも船積みの3〜4週間前に申請を始めること。「来週に船積み」のタイミングで申請しても間に合いません。
そして、仕向国ごとに必要書類が異なること。「衛生証明書だけあれば大丈夫」という思い込みは禁物です。農林水産省やジェトロの最新情報で必ず確認してください。
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