「バングラデシュ向けの輸出は考えたことがなかった」という事業者は多い。中国・香港・シンガポールなど、日本産水産物の定番市場を見ていると、南アジアの新興国はどうしても後回しになりがちだ。でも2026年、その状況が少しずつ変わりはじめている。
- バングラデシュへの日本食輸出が前年比60.9%増になった背景
- 成田からダッカまで、カニを届けるための航空ルートと所要時間
- 輸出に必要な書類7種と、代行を使うとどこが変わるか
バングラデシュの今を、数字で読む
日本食輸出が前年比60.9%増:何が起きているのか
農林水産省が公開しているデータによると、2025年の日本からバングラデシュへの食品輸出額は14億294万円(ドル換算で約890万ドル)に達しており、前年比で60.9%増加しました(出典:農林水産省、2025年12月)。
この急増の背景にあるのは、バングラデシュ経済の継続的な成長と、都市部の中間所得層の拡大です。年間4〜7%のGDP成長率を維持し、人口は約1.7億人。世界で8番目の人口規模を持つこの国が、日本産食品の新しい受け皿になりつつあります。
さらに2026年2月6日、東京で日本とバングラデシュのEPA(経済連携協定)の署名式が行われました。和牛・ブリ・タイ・ホタテなどが関税撤廃の対象になっており、今後の貿易環境の改善が期待されています。バングラデシュが後発開発途上国(LDC)を卒業する2026年11月以降は関税優遇の仕組みも変化するため、今のうちに市場との接点を作っておくことが重要です。
※EPA締結に伴うカニ類の具体的な関税撤廃スケジュールは、農林水産省またはジェトロの最新情報をご確認ください。
ダッカの日本食市場:富裕層が「魚を食べたい」と言い始めた
ジェトロが2025年12月にダッカで開催した日本産食品披露会では、日本企業7社がバングラデシュのバイヤー11社(輸入業者5社・日本食レストラン3社・小売店2社・ホテル1社)に商品を紹介しました。そこで見えてきたのは、富裕層・年配層を中心に「肉よりも魚を食べたい」という需要の高まりです(出典:ジェトロ ビジネス短信)。
訪日経験のある富裕層や外国人駐在員を主な顧客とする日本食レストランが、ダッカ市内で少しずつ増えています。寿司・刺身・かに料理など、これまでバングラデシュでは「特別な体験」だったジャンルが日常的な外食の選択肢に近づきつつあり、これが日本産カニの受け皿として機能しはじめている市場の実態です。

成田からダッカまで:航空ルートと輸送時間の実態
直行便で約7時間:生鮮カニ輸送の現実的な選択肢
生鮮・冷蔵のカニを輸出する場合、航空貨物が主な選択肢になります。2023年9月からビーマン・バングラデシュ航空(国営航空)が成田〜ダッカ(ハズラット・シャージャラール国際空港)間の直行便を運航しており、フライト時間は往路で約7時間です(出典:ジェトロ ビジネス短信、2023年7月)。
直行便があることは鮮度管理の面で大きな利点になります。経由地を経る乗り継ぎ便では、成田からシンガポールやデリーを経由するルートが一般的で、総輸送時間が12〜16時間程度に伸びることがあります。生鮮品を扱う場合、輸送時間の差は品質に直結します。冷凍のカニ(ズワイガニ・タラバガニなど)であれば海上輸送(リーファーコンテナ)も選択肢になりますが、所要日数は2〜3週間が目安です。
品目別:バングラデシュに向くカニの種類
バングラデシュ向けに想定されるカニの種類と輸送適性は以下のとおりです。
- ズワイガニ(冷凍):国際流通量が多く、冷凍コンテナでの輸送が現実的。価格帯もタラバガニより入りやすく、日本食レストランでのメニュー展開に向いている
- タラバガニ(冷凍・ボイル済み):高単価で高級レストランやホテル向き。航空貨物での冷凍輸送も対応可能
- 毛ガニ(生・冷蔵):鮮度管理が最も難しい。輸送時間が伸びると品質リスクが高まるため直行便利用が前提。初回輸出には向かず、ルートが確立した後のステップとして検討するのが現実的
※具体的な輸送費はフォワーダー(貨物輸送代理業者)への個別見積もりが必要です。品目・重量・時期によって大きく異なります。
必要な書類7種と出荷前に確認すべき2つの壁
日本側で準備する書類(5種)
日本からバングラデシュへ水産物を輸出する際、日本側の輸出者(またはその代行業者)が準備・申請する主な書類は以下の5種類です。
- ① 輸出申告書:NACCSシステム(税関申告システム)で申請する。輸出者本人または委任した通関業者が対応する
- ② 商業インボイス(Commercial Invoice):品名・数量・単価・総額・輸出者情報を記載した取引証明書。バイヤーとの契約内容に基づいて作成する
- ③ パッキングリスト(Packing List):梱包の内容明細書。税関検査や輸入地での受け取り確認にも使用される
- ④ 衛生証明書(Health Certificate):水産庁または都道府県が認定した検査機関が発行する。水産物の輸出には原則として必要で、申請から取得まで数日〜1週間程度かかることが多い
- ⑤ 原産地証明書(Certificate of Origin):商工会議所が発行する。EPA締結後は特定原産地証明書(FTA特定証明)の活用も視野に入る
バングラデシュ側で必要な書類(2種)と2026年6月施行の新ラベル規制
バングラデシュ側のバイヤーが準備する書類として、主に以下の2種類があります。
- ⑥ IRC(輸入登録証明書:Import Registration Certificate):バングラデシュの輸出入管理長官事務所(CCIE)が発行する輸入業者の登録証明書。バイヤーが事前に取得済みであることを取引前に確認しておくことが重要です
- ⑦ 食品ラベル適合証明(2025年食品安全広告・表示規則への対応):2025年12月14日に公布されたバングラデシュの新しい食品ラベル規制が2026年6月14日から正式施行されました。日本語のみのラベルはそのまま輸出できない可能性があります。現地語(ベンガル語または英語)での必要表示項目が追加されているため、バイヤーと連携した事前対応が必要です(出典:ジェトロ、2025年)
※書類の要件は変更されることがあります。出荷前にジェトロまたはフォワーダーへの最終確認を強くお勧めします。
壁①:ハラール問題とバングラデシュの宗教事情
バングラデシュの国民の約90%がムスリム(スンニ派・ハナフィー法学派)です。ハナフィー法学派の解釈では、エビ・カニなどの甲殻類は「ハラーム(禁忌)またはマクルーフ(忌避)」とされる場合があり、厳格なムスリムは食べないことがあります。
ただし、これはバングラデシュの全消費者にカニが売れないという意味ではありません。日本食レストランの主な顧客層は、訪日経験のある富裕層・外国人駐在員・非ムスリム(ヒンドゥー教徒など、人口の約10%=約1,700万人)です。また、シャーフィイー法学派の解釈では海産物全般がハラールとされており、宗派によって扱いは異なります。重要なのは「誰に売るのか」を輸出前に明確にしておくことで、日本食レストランを経由した少量の試験輸出から始めるのが現実的なアプローチです。
壁②:輸入規制とHSコードの事前確認
バングラデシュには「輸入政策令(Import Policy Order)」という輸入禁止・制限品目のリストがあり、一部の水産品については輸入制限が設けられています。特に甲殻類はHSコード第0306項に分類されており、品目によっては制限対象となっている可能性があります。
カニ類が現在のバングラデシュ輸入政策令においてどのように扱われているかは、ジェトロの「水産物の輸入規制・輸入手続き(バングラデシュ)」ページで最新情報を確認することが不可欠です(出典:ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(バングラデシュ)」)。輸出業務代行を選ぶ際は、このHSコード確認と輸入規制の照合を「最初の相談時に対応してくれるかどうか」を確認する視点が重要です。
輸出業務代行に任せると、何が変わるか
初回輸出が詰まる場所は「書類の順番」
バングラデシュへの水産物輸出を検討するとき、多くの事業者が最初につまずくのは「どの書類を、どこへ、いつまでに申請するか」という手順の複雑さです。衛生証明書の申請には施設が検査機関の認定を受けている必要があり、NACCSを使った輸出申告は初めてでは手続きが煩雑です。原産地証明書と航空会社の貨物スケジュールを連動させて書類の有効期限を管理するだけでも、慣れていない事業者には大きな負担になります。
輸出業務代行は、これらの個別手続きを一括で管理・申請するサービスです。バングラデシュのようなまだ事例が少ない市場では、南アジア向けの実績がある業者かどうかを確認することが特に重要です。
代行を使った場合の流れ(5つのステップ)
- Step 1(事前相談):輸出したい品目・数量・バイヤー情報・希望スケジュールを共有し、費用感と対応範囲を確認する
- Step 2(規制確認):HSコードの確認・輸入政策令との照合・ラベル規制への対応可否を調べる
- Step 3(書類準備):インボイス・パッキングリスト・衛生証明書・原産地証明書を作成・申請する。衛生証明書は取得まで数日かかることを想定してスケジュールを組む
- Step 4(輸送手配):フォワーダーと連携して航空貨物または冷凍コンテナを手配する
- Step 5(輸出申告・通関):NACCSによる輸出申告から税関許可の取得まで対応する。許可後、本船または航空機への搭載確認まで含めると初回は数週間から1カ月の準備期間を見ておくのが現実的
※代行費用は案件の規模・品目・対応範囲によって異なります。まずは問い合わせて概算見積もりを取ることが第一歩です。
まとめと明日から動ける3つのアクション
今すぐ確認できる3つのこと
- ジェトロのバングラデシュ水産物輸入規制ページで、輸出したいカニのHSコードが現行の輸入禁止・制限リストに該当しないかを確認する
- バングラデシュのバイヤー候補にコンタクトを取る前に、2026年6月14日施行の新ラベル規制(2025年食品安全広告・表示規則)への対応が可能かを確認する
- 輸出業務代行への相談を検討するなら、バングラデシュや南アジア向けの水産物輸出実績があるかどうかを確認した上で問い合わせる
- バングラデシュへの日本食輸出は2025年に前年比60.9%増(14億294万円)。EPA署名・人口1.7億人という成長市場として注目度が上がっている
- 成田からダッカへの直行便(約7時間)があり、冷凍カニの航空輸送は現実的な選択肢。生鮮品は直行便前提でスケジュールを設計する
- 必要書類は7種類。ハラール問題・輸入禁止品目リスト・新ラベル規制の3点は輸出前に必ず確認が必要
バングラデシュへのカニ輸出は、整備された高速道路とは言えないルートです。だからこそ今動いている事業者には先行者メリットがあります。書類準備から規制確認まで対応が必要な場合は、プロフィールのリンクからお問い合わせください。