「衛生証明書の申請ボタンを押したら、事業者登録が済んでいませんという画面が出て止まった」。鹿児島県の水産物卸で輸出を担当するBさんは、マレーシア向けの冷凍ブリの書類を用意していた矢先にこの壁にぶつかった。
- 衛生証明書・原産地証明書の申請前に、なぜ「登録」が必要なのかがわかる
- 農林水産省「一元的な輸出証明書発給システム」への登録の流れがわかる
- 商工会議所への登録が原産地証明書ごとに別々に必要な理由がわかる
なぜ書類を書く前に「登録」を済ませておく必要があるのか
申請と登録は別の手続きだ
衛生証明書や原産地証明書は、輸出する荷物ごとに個別に申請する書類だ。しかし、この個別申請ができるようになる前段階として、事業者自身の「登録」を済ませておく必要がある。
登録と申請を同じものだと思い込んでいると、いざ書類を出そうとした段階で初めて「登録が終わっていない」と気づくことになる。Bさんが直面したのはまさにこのケースだ。
登録には主に2つの窓口がある。衛生証明書を扱う農林水産省の「一元的な輸出証明書発給システム」と、原産地証明書を扱う商工会議所だ。それぞれ別の機関が運営しているため、登録の手続きも別々に進める必要がある。
GビズIDプライムが登録の前提になる
どちらの登録も、その前段階としてGビズIDプライム(法人・個人事業主向けの共通認証システム)の取得が前提になる。先週の記事でGビズIDプライムの取り方を解説したが、これを取得していない場合はまずそちらから始める必要がある。
Bさんの会社はGビズIDプライムをすでに取得していた。しかし、それだけでは輸出証明書発給システムへの登録が自動的に済むわけではない。ログインした後に、事業者情報・ユーザー情報の登録という別のステップが待っていた。
登録を後回しにするとスケジュールが崩れる
登録そのものにも、数日から数週間の時間がかかることがある。輸出の日程がすでに決まってから慌てて登録に着手すると、証明書の個別申請そのものが輸出スケジュールに間に合わなくなるおそれがある。
Bさんのケースでは、マレーシア向けの出荷日はすでにバイヤーと合意していた。書類の準備は済ませたつもりでいたが、登録という「入口」を後回しにしていたことで、出荷直前になって手続きが止まりかけた。輸出書類は「作る」前に「登録を済ませる」という順番があることを、身をもって知ることになった。

農林水産省「一元的な輸出証明書発給システム」への登録
登録の4ステップ
衛生証明書の発給を申請するには、農林水産省が運営する「一元的な輸出証明書発給システム」への登録がまず必要だ(出典:農林水産省)。登録の流れは次の4ステップになる。
- ①GビズIDプライムアカウントを取得する:デジタル庁が運営する共通認証システム。未取得の場合はここから始める
- ②専用サイトからログインする:農林水産省の輸出証明書発給システム(x-shinsei.maff.go.jp/exportweb/)にGビズIDでアクセスする
- ③初回ログイン時に事業者情報・ユーザー情報を登録する:会社名・所在地・担当者情報などをシステム上に入力する
- ④申請先(農政局等)で事業者情報の審査を受ける:登録した内容を、実際に申請先となる農政局等が確認する
Bさんの場合、②のログインまでは数分で終わったが、③の事業者情報登録と④の審査には数日を要した。書類の締切から逆算して、余裕を持って登録を済ませておく必要がある。
手数料とJEXSへの移行
手数料についても変更があった。2025年4月1日以降、この仕組みを使った申請は1件につき870円の手数料がかかる(出典:農林水産省)。以前は手数料がかからなかった時期もあるため、古い情報のまま準備を進めると想定外の出費に驚くことになる。
さらに、この仕組み自体が新しいシステムへ移行している最中だ。農林水産省は新システム「JEXS(ジェックス)」を導入しており、旧システムと並行運用しながら2027年1月末にかけて順次切り替えを進める予定だとされている(出典:農林水産省)。新規に登録する事業者は、案内に従ってどちらのシステムを使うか確認しておく必要がある。
衛生証明書の様式にも変更があった。2023年10月1日付けで「一括登録様式」に変更されている(出典:農林水産省)。過去に取得した古い様式の証明書をそのまま使い回せると思い込まないよう注意したい。
※本記事の手数料・移行スケジュールは2026年7月時点の情報です。制度は変更される可能性があるため、最新情報は必ず農林水産省(maff.go.jp)の公式サイトでご確認ください。
商工会議所への登録。原産地証明書のもう一つの関門
EPA活用なら「特定原産地証明書」の企業登録(無料)
仕向国との間でEPA(経済連携協定)を活用して関税優遇を受けたい場合は、「特定原産地証明書」を使う。この証明書は日本商工会議所(JCCI)国際部が運営しており、事前に企業登録が必要になる(出典:日本商工会議所)。
企業登録の手数料はかからない。有効期限は2年間で、1つの企業につき1登録が原則だ。日本とシンガポールの協定を除くすべての協定で利用できる(出典:日本商工会議所)。
一般原産地証明書は「貿易登録」が前提
EPAを使わない一般的な(非特恵)原産地証明書は、各地域の商工会議所が発給する。この場合は特定原産地証明書の企業登録とは別に、「貿易登録」という手続きが前提になる。
貿易登録の内容は商工会議所によって異なる。東京商工会議所の例では、会員・非会員を問わず貿易登録が必須で、非会員の登録手数料は33,000円(税込)、有効期限は2年間とされている。必要書類は誓約書・業態内容届・署名届(肉筆サイン)などだ(出典:東京商工会議所)。大阪商工会議所でも同様に、会員・非会員を問わず事前の貿易登録が必要とされている(出典:大阪商工会議所)。
必要書類のうち、誓約書は虚偽の申請をしないことを誓約する書類、業態内容届は自社の事業内容を届け出る書類、署名届は担当者のサインを商工会議所に登録するための書類だ。署名届は電子署名ではなく肉筆でのサインが求められる点を、電子申請に慣れた担当者ほど見落としやすい。
「管轄の商工会議所」とは、原則として本店所在地を管轄する地域の商工会議所を指す。貿易登録もその管轄の商工会議所で行うことになる。全国の商工会議所は、日本商工会議所の検索ページから調べることができる(出典:日本商工会議所)。
登録から申請までの流れを整理すると
4ステップで振り返る申請までの道のり
ここまでの内容を整理すると、輸出証明書の申請にたどり着くまでには、おおむね次のような順序になる。
- ①農林水産省「一元的な輸出証明書発給システム」にGビズIDで事業者登録をする
- ②商工会議所に貿易登録(一般原産地証明書用)、またはJCCIに企業登録(特定原産地証明書・EPA利用時)をする
- ③登録が完了して初めて、衛生証明書・原産地証明書それぞれの個別申請ができるようになる
- ④仕向国によっては、追加の企業登録が必要になる場合もある
この順序は、農林水産省と商工会議所それぞれの公式ページの記載を組み合わせて整理したもので、一つの公式資料にすべてがまとまっているわけではない。個別の手続きで疑問があれば、その都度それぞれの公式サイトで確認するのが確実だ。
仕向国によっては追加の登録が必要になることも
登録だけで数日から数週間かかることを踏まえると、初めて水産物や和牛の輸出に取り組む事業者ほど、書類を用意し始めるタイミングではなく、バイヤーとの商談が具体化した段階で登録に着手しておくのが安全だ。登録を先に済ませておけば、以降の輸出では個別の証明書申請だけで進められるようになる。
④について補足すると、中国向けの輸出食品の一部は、eMAFF経由での「製造等企業登録」(GACC登録)が別途必要になる品目がある(出典:農林水産省)。仕向国によっては、ここまで解説した2つの登録に加えて、もう一段階の企業登録が必要になるケースがあると理解しておくとよい。
あさひ通商では、こうした登録から証明書の個別申請まで、実務ベースで対応してきた実績がある。どの登録から手をつければよいか迷う事業者からの相談も多い。
今週中に確認しておきたい3つのこと
- GビズIDプライムを取得済みか確認する。未取得ならまずそこから始める
- 本店所在地を管轄する商工会議所に、貿易登録や企業登録の要否を問い合わせる
- 仕向国に応じた追加の企業登録(GACC等)が必要な品目かどうかを確認する
特に、これから初めて水産物や和牛の輸出を始める個人事業主・小規模事業者ほど、この登録の段階でつまずきやすい。書類の締切から逆算して、早めに登録の手続きに着手しておきたい。
まとめ
衛生証明書も原産地証明書も、事前の登録を済ませていなければ申請すらできない。農林水産省の輸出証明書発給システムと、商工会議所の貿易登録・企業登録、この2つを済ませておくことが出発点になる。
Bさんはその後、事業者情報の登録と審査を済ませ、あわせて商工会議所への貿易登録も進めた。登録さえ終われば、次の輸出からは個別の申請だけで進められる。