浜値が去年の2倍。北海道日本海側で今、何が起きているのか
東積丹漁協で前年比7割減、浜値はほぼ2倍に
7月、積丹や余市など北海道日本海側の産地では、ウニの仕入れ交渉の場に独特の緊張感が漂っています。
「今年は例年の倍近い値段を出さないと、まとまった量が確保できない」。ある仕入れ担当者は、漁協の担当者からそう告げられたと言います。例年なら軽く決まっていた仕入れ量が、今年は交渉自体に時間がかかっているといいます。
実際、北海道内の日本海側では、産地によって前年同期比で2〜5割の漁獲量減が報告されています。東積丹漁協では、エゾバフンウニだけで前年比7割減という数字も出ています。
原因として挙げられているのは、昨夏の記録的な高水温による稚ウニの大量へい死と、エサとなるコンブの不足です。資源を守るため、漁獲量を自主的に制限する動きも出始めています。
札幌市内の観光客向けの飲食店では、ウニ丼などの提供価格が前年同期の1.5〜2倍まで上がっているとの報道もあります。
初めてではない、繰り返される高騰サイクル
実はこの「仕入れ値が2倍」という状況は、今年に始まったことではありません。日本経済新聞は2021年にも「ウニ卸値、2倍に高騰 身が小さく赤潮被害も」「ウニ、仕入れ値2倍『出せば赤字』」と報じています。
つまり、高水温や赤潮による不漁と価格高騰は、数年おきに繰り返されてきた構造だということです。一過性のニュースとして眺めるのではなく、いずれまた来るものとして向き合った方が現実的だと言えます。
「獲れない年ほど売り先に困る」という現場のジレンマ
値上げも据え置きも苦しい国内の構造
不漁の年は、仕入れる側にとって二重の痛手になります。まず仕入れ値そのものが跳ね上がります。そして、高い仕入れ値のまま国内で売ろうとすると、今度は客離れの壁にぶつかります。
値上げすれば売れなくなる。値上げしなければ赤字になる。国内市場だけを見ていると、この板挟みから抜け出しにくい構造があります。
海外に目を向けると、逆の動きが起きている
視点を海の外に移すと、まったく逆の動きが起きています。日本で「仕入れづらい」と感じている今の価格帯こそ、海外の一部市場ではむしろ「妥当な価格」として受け入れられているのです。
米国でウニ需要が伸びている理由と、実際の価格帯
おまかせ・高級寿司ブームが牽引する需要
世界のウニ市場は、2024年時点で推計4〜5億米ドル規模とされ、2033年には6.5〜7.5億米ドルまで拡大するとの民間市場調査があります。年平均成長率は5.3〜6.5%という試算です。
背景にあるのは、「おまかせ」形式の高級寿司店が世界各都市に広がっていることです。ドバイ・上海・シドニーといった都市でもおまかせ業態の出店が相次いでいるとされ、寿司は富裕層にとってステータス性の高い食事として定着しつつあります。その中でもウニは、最高級食材の一つとして扱われています。
日本経済新聞は、米国のウニ輸入量がこの10年で5倍に増えたと報じています。国内の不漁と対照的に、太平洋の向こう側では需要が右肩上がりというわけです。
実際の卸値・小売価格
米国内の卸価格は、1キログラムあたり25〜75米ドル程度(1ポンドあたり11〜34米ドル)というデータがあります。生ウニの小売価格は、1ポンドあたり平均約101米ドルという調査結果もあります。
興味深いのは、日本産ウニの価格帯です。1ポンドあたり15〜58米ドルというデータがあり、これは米国産(11〜34米ドル)と比べても遜色ない、あるいはそれ以上の水準です。日本産は「高くても選ばれる」立ち位置にあると言えます。
米国市場を奪い合う競合国と、日本産の立ち位置
主な競合はチリ・ロシア・米国内産地
米国市場には、チリ・ロシア、そして米国内(メイン州・カリフォルニア・太平洋岸北西部など)からウニが供給されています。供給量では、チリがすでに米国を上回っているという報告もあります。
産地ごとの評価にも違いがあります。ロシア産は北海道や三陸の産地に近い品質とされ、チリ・カナダ産より高値がつく傾向にあります。米国産(ボストン近郊)は黄色からオレンジ色をしており、味の評価から2番目に高値がつくとされています。
日本産には品質面での強みがある一方、遠距離を短時間で運ぶ空輸・コールドチェーンの負担という壁もあります。価格面だけで比べるのではなく、鮮度をどこまで保って届けられるかまで含めて競合と比較する視点が欠かせません。
チリ産の価格優位は、香港・シンガポールの業務用市場でも同じように立ちはだかります。実際、礼文島産ウニが香港・シンガポール向けでは苦戦し、ベトナムやドバイに活路を見出した事例もあります。市場の8割がチリ産。それでも礼文島産ウニで勝てる市場があるで詳しく解説しています。
日本が「最大消費地」であるという制約
ここで押さえておきたいのは、日本自体が世界のウニ供給量の8〜9割を消費する最大市場だということです。国内需要が強い分、そもそも輸出に回せる量には限りがあります。
一方で、北海道産ウニを「世界最高」と評価する海外の飲食店・小売サイトも複数あります。コンブを食べて育つ深い旨味が、その根拠として挙げられています。量で勝負する土俵ではなく、質とストーリーで勝負する土俵がすでにあるということです。
北海道で獲れるウニには、主にエゾバフンウニとキタムラサキウニがあります。エゾバフンウニは濃厚な甘みと色の濃さが特徴で最高級品とされ、キタムラサキウニは色が淡く上品な味わいで扱いやすいとされています。バイヤーに提案する際は、この違いを説明できるかどうかが信頼につながります。
小規模事業者でも勝てる打ち手
中間流通を減らし、鮮度を武器にする
米国ワシントンDCのある飲食店は、日本の加工業者から直接仕入れる方式を取っています。輸出商社や卸を何段階も介さず、産地から約48時間で消費者の元に届け、冷凍せず生のまま提供することを差別化にしています。
量を大きく扱えない小規模事業者ほど、この「短い流通・高い鮮度」を武器にする戦い方と相性が良いと考えられます。大手のように大量出荷で規模を稼ぐのではなく、少量でも高い単価で買ってくれる相手を一つずつ見つけていく戦い方です。
未利用資源の再生と産地ブランディング
岩手県久慈市では、磯焼けの影響で身入りが薄く、これまで廃棄されていたウニを陸上養殖で育て直し、高付加価値の商品として売り出す取り組みが2025年に発表されています。
岩手県洋野町のように水揚げ量の多い産地では、地元の卸業者が国内外に向けて統一したブランディングを進めている例もあります。「獲れなくなったから諦める」のではなく、「今あるものの価値を上げ直す」という発想です。

輸出手続きの基本(概要)
米国向けに水産物を輸出する際は、いくつかの手続きを踏む必要があります。米国内で食品を取り扱う施設はFDA(米国食品医薬品局)への施設登録が必要で、輸入者側は貨物の到着前にFDAへの事前通告(Prior Notice)を行う義務があります。
加工施設については、米国の連邦規則(21 CFR Part117・Part123)に基づくSeafood HACCPへの適合が求められます。厚生労働省が認定する施設として登録する方法と、輸入者側で適合性を確認してもらう方法があります。
加えて、動物検疫所への輸出検査申請(様式29号、またはNACCSでの手続き)も必要になります。具体的な要件は品目・州・取引先によって変わるため、進める際は農林水産省・厚生労働省の窓口で個別に確認するのが確実です。
ECという先行者機会
中小の水産卸において、ネット販売が売上全体に占める割合は約1%程度に留まるという指摘があります。裏を返せば、直販ECを早い段階で整備すること自体が、まだ数少ない差別化の一つになり得るということです。
何から手をつければいいか
いきなり米国のレストランに直接売り込む必要はありません。まず確認したいのは、自社が扱う水産物の加工・保管施設がFDA登録済みかどうか、そしてHACCPの体制がすでにあるかどうかです。
その上で、ジェトロなど公的機関が開催する海外バイヤー向けの商談会や、海外向けECモールへの出品といった、比較的取り組みやすい入口から始める事業者が多いのが実情です。手続きを一つずつ確認しながら進めれば、規模の小さい事業者でも参入の余地は十分にあります。
今、目を向けるべきは「安く売る国内」か「高く売れる海外」か
あさひ通商がこれまで水産物の輸出書類・検疫手続きに関わってきた案件でも、国内相場が荒れた年ほど、海外の買い手からの問い合わせが増える傾向を感じてきました。
特に、国内相場の乱高下に振り回されたくない小規模の仕入れ・卸事業者や、量より質で勝負したい高級路線の生産者・卸にとって、今回のような状況は無視できない分岐点になります。逆に、価格の安さだけで国内向けに大量供給してきた事業者にとっては、今の相場は一時的な足かせに感じられるかもしれません。
浜値の高さを嘆くだけでなく、その高さがそのまま通用する市場に目を向けること。それが、これからの生き残り方の一つになっていくはずです。
出典・参考資料
- しのろ駅前医院「ウニ不漁で高騰 北海道内日本海側2~5割減、浜値2倍も 高水温や餌不足」
- 日本経済新聞「海外人気高まるウニ、養殖増へ『快適さ』追及」
- 日本経済新聞「ウニ卸値、2倍に高騰 身が小さく赤潮被害も」
- 日本経済新聞「ウニ、仕入れ値2倍『出せば赤字』」
- Verified Market Reports「Sea Urchins Market」
- Selina Wamucii「United States of America Sea Urchins Prices」
- Selina Wamucii「Japan Sea Urchins Prices」
- Tridge「Fresh Sea Urchin Market Overview」
- Sashimi DC「Hokkaido Uni」
- ヤンマー「磯焼け由来のウニを陸上養殖で再生する取り組み」
- 農林水産省「対米輸出FAQ」
- 厚生労働省「対米輸出水産食品取扱要綱」
- 農林水産省 動物検疫所「輸出検査申請手続き」