「せっかく準備した証明書の様式が古かった」「申請システムのログイン方法が変わっていて、出荷直前に手続きが止まってしまった」――食品の輸出書類を初めて準備するとき、こんな落とし穴にはまって時間をロスしてしまう方は少なくありません。
2025年10月には、税関への輸出入申告を担うシステム「NACCS(ナックス)」の大規模システム更改(第7次NACCS)が実施されました。また2026年3月には、農林水産省が運営するオンライン申請システム「一元的な輸出証明書発給システム」でも申請様式の変更が行われています。さらに2026年4月には通関関連コードも更新されるなど、食品輸出の書類手続きは今まさに大きな変化の時期にあります。
この記事では、「食品の輸出を始めたいが書類の準備が不安」という初心者の方に向けて、2026年時点での最新手続きと変更ポイントをわかりやすく解説します。専門用語にはすべて括弧で説明を入れていますので、初めての方もぜひ最後まで読んでみてください。
そもそも輸出書類って何?食品輸出に必要な書類の全体像
食品を日本から海外へ送るとき、ただ商品を梱包して発送するだけでは済みません。輸出先の国の政府が「この食品は安全で、日本から来たものだ」と確認するための書類を求めます。これが輸出書類です。
食品輸出で必要になる主な書類は、大きく4種類に整理できます。それぞれの役割を理解しておくと、「何をどこに申請すればいいのか」がぐっとわかりやすくなります。
(1)衛生証明書(Health Certificate)
食品が安全であることを証明する書類です。牛肉・豚肉・鶏肉などの食肉、水産物、乳製品などを輸出する際に輸出先の国から提出を求められるケースが多くあります。農林水産省や都道府県の食肉衛生検査所、動物検疫所などが発行機関となっており、品目によって申請窓口が異なります。「この食品は日本の衛生基準を満たしています」と輸出先の国に公式に証明するための、いわば食品のパスポートのような書類です。
(2)植物検疫証明書・動物検疫証明書
野菜・果物・植物性食品を輸出する場合は植物防疫所(農林水産省管轄)が発行する「植物検疫証明書」が、肉類・乳製品などを輸出する場合は動物検疫所が発行する「動物検疫証明書」が必要になります。これらは農林水産省の「一元的な輸出証明書発給システム」からGビズIDを使ってオンラインで申請することができます。
(3)原産地証明書(Certificate of Origin)
「この商品は日本で作られたものです」と証明する書類です。主に商工会議所が発行する通常の原産地証明書と、EPA(経済連携協定)の関税優遇を受けるための「特定原産地証明書」の2種類があります。後者の詳細については後述します。
(4)インボイス(Commercial Invoice)と梱包明細書(Packing List)
インボイスとは、輸出する商品の品名・数量・単価・合計金額などを記載した請求書兼明細書のことです。梱包明細書は、実際の梱包内容(商品の種類・個数・重量・梱包形態など)を記したものです。この2つはどの国への、どんな食品の輸出でも必ずセットで必要になります。税関への輸出申告時にも、輸出先の通関時にも使われる基本書類です。
これら4種類が食品輸出の書類の基本セットです。品目や仕向国(輸出先の国・地域)によっては、放射性物質に関する証明書や残留農薬の試験成績書など追加書類が求められることもありますが、まずはこの4種類の役割を頭に入れておくと全体像が見えてきます。
2025〜2026年で変わった!主な手続き変更の3大ポイント
「準備した書類や手順が古かった」というトラブルを避けるために、2025年から2026年にかけて実施された主要な変更点を3つ紹介します。
① 2025年10月:第7次NACCSへの大規模システム更改
NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System:輸出入・港湾関連情報処理センターが運営する通関情報処理システム)とは、日本の税関に対して輸出申告・輸入申告をオンラインで行うためのシステムです。貿易手続きの根幹を担うシステムで、食品・水産物・和牛などあらゆる輸出品の申告に使われています。
2025年10月に「第7次NACCS」として大規模な更改が実施されました。この更改で特に初心者が注目すべき変化は2点あります。
まず「WebNACCSで申請できる業務の拡大」です。これまでは専用のパッケージソフト(有償)をパソコンにインストールしなければ申請できなかった一部の手続きが、インターネットブラウザから利用できるWebNACCSでも対応可能になりました。これにより、新たに輸出を始める小規模な事業者でも、専用ソフトを導入せずに手続きできる範囲が広がっています。
次に「スマートフォン・タブレット対応」です。第7次NACCSではスマートフォン・タブレット向けのページレイアウトが提供されるようになり、外出先からでも申告状況を確認しやすくなりました。
ただし注意点もあります。貨物と役務を同時に申請するケース(一部の複合申告)については、引き続きNACCSパッケージソフトでのみ申請可能です。「WebNACCSで全部できる」と思い込まずに、ご自身の輸出内容に合った手続き方法を事前に確認することが大切です。
② 2026年3月:輸出証明書発給システムの申請様式変更
農林水産省が運営する「一元的な輸出証明書発給システム」では、2026年3月1日に申請用の一括登録ファイルの様式が変更されました。「一括登録ファイル」とは、複数の品目や申請をまとめて登録できる機能で、主に複数種類の食品をまとめて輸出する事業者が活用するものです。
旧様式のファイルでは申請が受け付けられないため、この変更を知らずに古いファイルで申請しようとすると、エラーになってしまいます。農林水産省のシステムページには常に最新様式が掲載されているので、申請のたびに最新版をダウンロードしてから使用するクセをつけておきましょう。
また、このシステムを利用するためには「GビズIDプライムアカウント(法人・個人事業主向けの政府共通認証サービス)」によるログインが必須です。GビズIDの取得には書類の郵送審査があり、審査完了まで2〜3週間かかる場合があります。輸出スケジュールが決まったら、まずGビズIDの取得申請から始めることを強く推奨します。
③ 2026年4月:輸入食品監視支援業務関連コードの更新
2026年4月16日には、NACCSシステム内で使われる輸入食品監視支援業務に関連するコードが更新されました。これは主に日本への輸入食品の申告手続きに関わる変更ですが、日本から輸出した食品が仕向国(輸出先の国)で輸入通関を受ける際の手続きや、使用コードに間接的な影響が出ることがあります。
コード変更は輸入通関を担う現地代理人(フォワーダーや通関業者)の業務に影響するため、輸出先の通関代理店や現地バイヤーとの情報共有を密にして、最新情報を確認するようにしましょう。
EPA原産地証明書とは?基礎知識と2026年の最新動向
EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)とは、国と国との間で「互いの関税(輸入時にかかる税金)を下げ、貿易をしやすくしましょう」という取り決めです。日本は現在アジア・欧米などの国々と多数のEPAを締結しています。
EPAを上手く活用すると、本来かかるはずの関税が大幅に引き下げられたり、ゼロになったりすることがあります。例えば、日本から輸出する食品の通常の関税率が5%であれば、EPAによってそれが0%になれば、現地バイヤーにとっての仕入れコストが下がり、価格競争力が上がります。この「EPA関税優遇のパスポート」として機能するのが「特定原産地証明書(EPA原産地証明書)」です。
取得の流れ:4つのステップで理解する
初めてEPA原産地証明書を取得するときは、次の4ステップで進めるとスムーズです。
- ステップ1:HSコードを確認する
HSコード(Harmonized System Code:国際統一商品分類番号)とは、世界共通の商品の分類番号です。例えば「生鮮マグロ」や「冷凍和牛ロース」など、品目ごとに番号が決まっています。原産地証明書はこのコードをベースに発行されるため、輸出する商品のHSコードを正確に把握することが出発点です。 - ステップ2:輸出先とのEPA有無・対象品目を確認する
ジェトロ(日本貿易振興機構)の輸出支援ポータルや農林水産省の「EPA利用早わかりサイト」で、輸出先国とのEPA締結状況と自社商品の品目が優遇対象かを確認します。 - ステップ3:企業登録と原産品申告書の作成
日本商工会議所が運営するEPA証明書発給システムに企業登録を行い、商品が「日本原産品」であることを示す原産品申告書を作成します。 - ステップ4:特定原産地証明書の発給申請
必要書類が揃えばオンラインで申請できます。審査が通れば証明書が発給されます。
2026年の最新動向:日ペルーEPAのPDF発給が2026年8月に開始予定
2026年8月3日から、日本・ペルー経済連携協定に基づく特定原産地証明書のPDF(電子データ)での発給が開始される予定です。これまで紙の証明書を郵送する必要があった手続きが電子化されることで、書類の発送・受領にかかる時間が大幅に短縮されます。EPA原産地証明書の電子化は今後も対象国・協定が拡大していく見通しで、初めて輸出を始める方にとってますます使いやすい制度になりつつあります。
初心者がよくやってしまう「書類準備の5大落とし穴」
準備は万端のつもりだったのに、最後の最後でつまずいてしまう――初めて食品輸出を手がける方が経験しやすい失敗パターンを5つ紹介します。自分が陥りそうなものがないか、確認しながら読んでみてください。
落とし穴①:古い様式で申請してしまう
「前回使ったファイルをそのまま使った」「ネットで見つけた様式をダウンロードした」というケースで起こりがちなミスです。農林水産省のシステムページは不定期に様式変更が行われるため、申請直前に必ず公式ページから最新版をダウンロードし直す習慣をつけましょう。ブックマークするページは必ず農林水産省や各申請機関の公式ページにしておくことが重要です。
落とし穴②:GビズIDの取得が間に合わない
輸出証明書のオンライン申請に欠かせないGビズIDプライムアカウントですが、取得には書類審査(法人の場合は印鑑証明書等が必要)があり、申請から取得完了まで2〜3週間かかることがあります。「出荷の2週間前に取れば大丈夫」と思っていると、審査が遅れて間に合わないケースがあります。輸出を検討し始めた段階で、最優先でGビズIDの取得申請をしておくことを強くお勧めします。
落とし穴③:申請先の窓口を間違える
食品の種類によって申請窓口が異なります。牛肉・豚肉などの食肉は動物検疫所や都道府県の食肉衛生検査所、野菜・果物は植物防疫所、水産物は水産庁が指定する関係機関、加工食品は保健所など、品目ごとに担当機関が細かく分かれています。「農林水産省に出せばいい」と思い込んでいると、たらい回しになって時間を無駄にしてしまうことがあります。
落とし穴④:仕向国固有の要求書類を見落とす
「日本側の書類を整えれば大丈夫」と思っていると、輸出先の国が独自の書類様式や追加証明を要求していることがあります。特に中国・香港・韓国向けは国固有の衛生証明書の様式や要件が詳細に決まっているケースが多く、日本の証明書様式では受け付けてもらえない場合があります。輸出前に必ず仕向国の最新規制情報を確認することが必要です。
落とし穴⑤:インボイスの記載と商品の内容がズレている
インボイスに記載した品名・数量・重量・金額が実際の商品と少しでも一致しないと、通関で止められる原因になります。特に牛肉(部位別に品名が変わる)や水産物(種類ごとにHSコードが異なる)は細かい記載が求められます。出荷前に商品と書類を必ず照合し、数字・品名の一致を確認する作業を手順に組み込みましょう。
まとめ:2026年版・書類準備のスタートラインに立つために
食品輸出の書類手続きで押さえておくべき2026年時点の最新ポイントを整理します。
- 第7次NACCS(2025年10月〜):WebNACCSで申請できる業務が拡大。スマートフォン対応も進み、新規参入者にとって使いやすくなっています。
- 輸出証明書発給システムの様式変更(2026年3月):古い申請様式は使えません。公式ページから最新版を取得することが必須です。
- GビズIDの取得は早めに:審査に2〜3週間かかるケースがあるため、輸出を計画した段階で最初に着手しましょう。
- EPA原産地証明の電子化が進展:2026年8月には日ペルーEPAのPDF発給が開始予定。今後も電子化の対象が広がる見通しです。
「どの書類が必要か」「どこに何を申請すればいいか」を一から整理するのは、初めて輸出に取り組む方にとって非常に手間がかかります。貿易書類の申請代行を専門とするサポートを活用することで、手続きの漏れやミスを防ぎながら、本来の商品づくりや営業活動に集中することができます。書類準備の進め方について不安がある方は、ぜひ一度専門家に相談してみることをおすすめします。
※本記事に記載の制度・手続きは2026年4月時点の情報を基にしています。規制・手続きの詳細は変更される場合がありますので、最新情報は農林水産省・水産庁・日本商工会議所など各公式機関のウェブサイトでご確認ください。
【参考・出典】