今回のニュースは、単に「増えた魚」「減った魚」を紹介するものではありません。水産物を仕入れる、加工する、輸出する事業者が、資源評価をどのように商談や調達判断へつなげるかが重要です。
資源評価は「魚が多いか」だけを見る資料ではない
資源評価は、漁獲量の推移だけでなく、資源量、親魚量、加入量、漁獲圧などを組み合わせて、水産資源の状態を把握するための資料です。水産研究・教育機構は、現在の資源状態や将来予測を研究機関会議などで検討しています。
ここでいう系群とは、同じ魚種のうち、分布域や成長、産卵などのまとまりとして評価される単位です。同じマアジでも太平洋系群と対馬暖流系群では、漁場やデータが異なるため、魚種名だけで評価結果を一括りにできません。
マアジ太平洋系群は回復傾向でも確認が必要
水産庁の資料によると、マアジ太平洋系群の資源量は2021年の3.6万トンから増加し、2025年は6.4万トンと推定されています。2025年の親魚量は2.5万トン、漁獲量は2.2万トンでした。
一方で、親魚量はMSYを実現する水準である5.2万トンを下回り、漁獲圧はFmsyを上回ったと整理されています。
資源量が増えたという一つの数字だけで、長期的に供給が安定すると判断するのは早計です。
事業者が見るべきなのは、資源量の方向だけではありません。親魚が次世代を生み出せる水準にあるか、漁獲圧が管理上の目安を上回っていないか、将来予測がどの条件に基づいているかを確認します。
マイワシは漁獲量の大きさだけで判断しない
マイワシ太平洋系群は、2025年の日本の漁獲量が55.9万トンでした。1970年代後半から1980年代に非常に高い水準となった後、1990年代に急減し、2010年代以降に増加傾向へ転じたという長期の変化があります。
2025年は日本、ロシア、中国の3か国合計で91.1万トンの漁獲があり、外国船による漁獲も資料に示されています。漁獲量が大きい魚種でも、国・地域ごとの漁獲や海洋環境の変化を含めて見る必要があります。
加工原料としてマイワシを扱う場合は、単年度の水揚げだけで調達計画を組むのではなく、主要漁場、漁獲主体、サイズ、用途、冷凍在庫、代替魚種まで整理しておくと判断しやすくなります。
マダイとキンメダイから見る「魚種ごとの差」
マダイ日本海西部・東シナ海系群は、2025年の漁獲量が4,581トンで、直近2年は5,000トンを下回っています。人工種苗放流が行われている地域もあり、漁獲量だけで資源管理の成果や課題を断定することはできません。
キンメダイ太平洋では、2025年の漁獲量が4.3千トンでした。資源量と親魚量は2015年、2017年を底に増加し、2025年には資源量43.7千トン、親魚量29.7千トンとされています。
キンメダイの資料では、黒潮大蛇行の終息により、海洋環境を補正したCPUEと通常のCPUEの差が変化した地区があると説明されています。同じ漁獲量でも、魚の分布や漁獲効率の変化が背景にある可能性を考える必要があります。

仕入れ担当者がニュースから確認する4項目
第一に、魚種名だけでなく系群名を確認します。同じ魚種でも海域によって評価結果が異なるため、産地や漁場と資料の対象範囲が一致しているかを見ます。
第二に、漁獲量と資源量を分けます。漁獲量は市場へ出た量ですが、資源量は海にいる資源の推定値です。漁獲量が増えていても、漁獲圧が高ければ将来の供給に注意が必要です。
第三に、親魚量と加入量を確認します。親魚量は次の世代を生む資源の状態を見る手がかりで、加入量は新たに資源へ加わる魚の規模を示します。短期の販売量とは別の時間軸で読む指標です。
第四に、将来予測の条件を確認します。特定の漁獲シナリオを続けた場合の予測であれば、現状がそのシナリオと同じとは限りません。予測の前提、対象期間、幅を資料で確認します。
輸出・加工の商談で資源評価を使うときの注意
資源評価は、特定商品の輸出可否、価格、供給量を保証する資料ではありません。評価対象の魚が獲れることと、希望するサイズ・規格・加工形態で安定調達できることは別の問題です。
海外バイヤーへ説明する場合は、「資源が豊富だから継続供給できる」と断定せず、対象魚種、産地、漁期、漁法、規格、漁獲証明や衛生管理の必要性を分けて整理します。資源評価は、持続性を確認する入口として使うのが安全です。
特に冷凍加工品では、原料魚の漁獲年、漁場、ロット、加工施設、在庫期間を記録しておくと、後から説明が必要になったときに確認しやすくなります。資料の数字と自社商品のロット情報を混同しないことが大切です。
「資源量が増えた」と「仕入れやすい」は同じではない
資源評価の対象となる魚が増加傾向にあっても、実際の仕入れ量は漁場、天候、漁法、魚体サイズ、漁期、加工能力によって変わります。
資源評価は海全体の状態を考える資料であり、特定の港や加工場の入荷を約束するものではありません。
たとえばマアジを加工原料として使う場合、資源評価の対象系群と自社が調達する産地が一致しているかを最初に確認します。
産地が異なれば、同じマアジでも漁場条件や供給時期が異なる可能性があります。
輸出商談では、資源評価の内容を商品説明の一部として使う場合も、持続可能性や安定供給を断定しない表現が必要です。確認できた事実と、自社の調達見込み、取引条件を分けて説明します。
資料を読むときに避けたい3つの誤解
一つ目は、漁獲量が多い魚は資源量も十分だと考えることです。漁獲量は漁獲努力や漁場への出漁状況にも左右されます。資源量と漁獲量を同じ指標として扱わないようにします。
二つ目は、全国の魚を一つの数字で評価することです。資源評価では魚種や系群が区分されています。分布域と評価対象海域を確認し、仕入れ先の産地と対応させて読みます。
三つ目は、将来予測を確定した未来と受け取ることです。将来予測は一定の漁獲シナリオやモデルを前提にした推定です。予測期間、前提条件、結果の幅を確認してから、自社の計画に反映します。
今回のニュースから見えること
今回公表された8種10資源の評価は、日本近海の水産物を一律に「増えている」「減っている」と見るのではなく、魚種、系群、海域、年齢構成、漁獲圧を組み合わせて考える必要性を示しています。
マアジでは資源量が近年増加した一方、親魚量と漁獲圧の確認が必要です。マイワシでは長期変動と複数国の漁獲が関係します。マダイやキンメダイでは、魚種ごとに漁獲量と資源量の動きが異なります。
水産物を扱う事業者にとって、資源評価は仕入れ価格を直接予測する資料ではありません。しかし、調達先を一つに固定してよいか、代替魚種を準備するか、商談で持続性をどう説明するかを考える出発点になります。
調達計画へ落とし込むための確認表
資源評価を読んだ後は、対象魚種、系群、主な産地、漁期、サイズ、加工形態、代替候補を社内表へ転記します。資料の公表日も記録し、古い評価を最新情報として扱わないようにします。
次に、取引先へ確認する項目を決めます。直近の水揚げだけでなく、過去数年の入荷量、冷凍在庫、規格別の供給可能量、ロット管理、漁獲・衛生関係の証明書類を確認すると、商談後の認識差を抑えられます。
まとめ
水産庁は2026年9月2日、マアジ、マイワシ、カタクチイワシ、マダイ、キンメダイ、ウルメイワシ、マルアジ、ムロアジ類の8種10資源について、令和8年度の資源評価結果を公表しました。
資料を読むときは、漁獲量だけでなく、魚種と系群、資源量、親魚量、漁獲圧、将来予測を順に確認します。ニュースを調達や輸出の判断へつなげるには、評価資料と自社商品の産地・漁期・規格・ロット情報を分けて整理することが重要です。