「インドネシアのバイヤーから引き合いが来ているんですが、最新の手続きがよくわからなくて。ネットで調べると古い情報ばかりで困っています」
福岡市内で水産物の卸業を営むAさんのもとに、インドネシアの輸入業者から冷凍ホタテのサンプル輸出の打診が届いたのは今年の春先のことだった。社内には輸出経験がなく、どこから動き出せばいいか迷っているうちに1か月が経過した。
インドネシアは人口2億7,000万人超の東南アジア最大の市場だ。中間層の拡大とともに日本産水産物への需要が高まっており、日本政府の輸出拡大戦略でも重点国のひとつに位置づけられている。2022年7月には福島第一原発事故に関連した日本産食品の輸入規制も撤廃され、輸出業者にとっての追い風は続いている。
しかし、2025年に入ってから手続きの仕組みが大きく変わった。長年使われてきた紙の衛生証明書は電子発行に切り替わり、年末には証明書の様式まで更新されている。Aさんのように「以前調べた情報が古くなっていた」というケースは少なくない。この記事では、インドネシア向け水産物輸出の最新手続きを、初心者にもわかるようシナリオ形式で解説する。
2022年から2025年末まで、インドネシア向け輸出は何が変わったのか
インドネシア向け水産物輸出をめぐる規制は、ここ3年で重要な変化が続いている。事業者が最低限把握しておくべき変更点を時系列で確認しよう。
2022年7月の規制撤廃が追い風の起点
インドネシア政府は2022年7月26日、福島第一原発事故以来継続していた日本産食品の輸入規制を撤廃した。これにより、対インドネシアへの水産物輸出で扱える品目・産地の選択肢が大きく広がり、市場としての注目度が急上昇した。
ただし規制撤廃はあくまで「輸出できる条件が整った」ということであり、実際に輸出するには別途、品質基準の確認や証明書の取得が必要になる。規制撤廃=すぐに自由に輸出できる、という思い込みは禁物だ。
2025年1月・12月、証明書の電子化と様式更新
2022年の規制撤廃から数年が経過した2025年、手続きそのものに2つの大きな変化があった。
- 2025年1月8日:農林水産省が「インドネシア向け輸出水産食品の衛生証明書」の発行方法を紙から電子に切替。以降は農林水産省の輸出証明書発給システム(オンライン)からPDFをダウンロードする形式に変更された。
- 2025年12月23日:インドネシア側の規定改正を受け、衛生証明書の様式が変更。同日付で農林水産省の「インドネシア向け輸出水産食品及び飼料用水産物の取扱要綱」も更新された。
- 2025年12月1日:ウナギの稚魚(シラスウナギ等)を輸出する場合、「適法漁獲等証明書」の添付が義務化。ウナギを取り扱う予定がある事業者は特に注意が必要だ。
このうち、多くの事業者に直接影響するのが2025年1月と12月の変更だ。「証明書は窓口で紙をもらうもの」という前提で準備を進めていると、申請の最初のステップでつまずく。
※最新の様式・手続きの詳細は農林水産省の公式ページで必ずご確認ください。

シナリオ:初めてのインドネシア向け水産輸出、どう動くか
Aさんは福岡市内に本社を置く水産物卸業者(従業員6名)で、これまでは国内の飲食店や市場向けにホタテ・ブリ・マグロを扱ってきた。インドネシアの輸入業者から冷凍ホタテ20kgのサンプル輸出を打診されており、小ロットで手続きを試してみたいと考えている。
「輸出証明書って自分で取れるの?」「うちの冷凍庫は輸出に対応している施設なの?」「品質基準はどう確認すればいい?」という3つの疑問を抱えるAさんは、何から手をつければいいのだろうか。答えは「施設の確認から始め、5つのステップで動く」ことだ。
Step 1:自社施設の認定状況を確認する(出荷2〜4週間前)
インドネシアへ水産物を輸出するには、農林水産省または水産庁が定めた衛生基準を満たした施設で取り扱った水産物でなければならない。どれだけ良い品物を持っていても、施設が輸出対応していなければ衛生証明書の発行申請すらできない。
確認すべき点は主に2つだ。まず、自社の処理・冷凍施設が農林水産省の指定を受けているか。次に、当該施設がインドネシア向けの輸出水産食品を取り扱える認定を受けているかどうかだ。施設の認定状況は最寄りの地方農政局または農林水産省のウェブサイトで確認できる。自社施設での認定が難しい場合は、認定済みの施設に処理・冷凍工程を委託する選択肢もある。初回の試験輸出であれば、まずこの確認から始めるのが現実的だ。
Step 2:インドネシア側の品質・包装要件を確認する(並行作業)
インドネシアの水産物輸入を管轄するのは、BKIPM(水産検疫・水産物品質安全管理庁)だ。輸出前に相手国の基準を把握しておくことが、通関トラブルを防ぐ最大の近道になる。主な品質要件は以下の通りだ。
- 細菌・化学物質・重金属の含有量がインドネシア国家規格(SNI:規格基準の総称)の基準値以内であること
- 冷凍水産物のグレーズ(氷衣:製品を保護するために表面に施す薄い氷のコーティング)は最大20%まで。超えると規格違反になる
- 缶詰水産物(イワシ・サバ・マグロなど)は該当するSNI認証の取得が必要。鮮魚・冷凍魚の場合は必須ではないが、品質検査への対応は求められる
- インドネシアに初めて搬入する魚種・品目の場合、「水産物輸入リスク分析」の実施が必要になるケースがある
包装ラベルには品名・原産国・内容量・消費期限・保存方法などの記載が求められる。インドネシア語での表示が必要になるケースもあるため、バイヤーと事前にすり合わせておくとトラブルを防げる。
Step 3:農林水産省のシステムで電子衛生証明書を申請する(出荷1〜2週間前)
2025年1月8日以降、衛生証明書の申請はすべてオンライン化されている。農林水産省の「輸出証明書発給システム」からウェブブラウザで申請し、発行された証明書のPDFをダウンロードする形だ。地方農政局の窓口で紙を受け取る手順はすでに廃止されている。
申請に必要な主な情報は次の通りだ。輸出品目の詳細(品名・数量・重量・ロット番号など)、施設の認定番号、官能検査(外観・臭い・色などによる品質判定)の結果、そしてインドネシア向けの最新様式(2025年12月23日更新版)を使っていることの確認だ。申請後、担当の地方農政局が審査を行い、問題がなければPDFが発行される。この証明書が、日本側の輸出通関と現地の通関手続きの両方で必要になる。
Step 4:通関書類を一式そろえる(出荷数日前)
電子衛生証明書に加えて、輸出通関には複数の書類が必要だ。一般的に用意するものは以下の通りだ。
- インボイス(Commercial Invoice):輸出品目・数量・価格を記した商業書類
- パッキングリスト(Packing List):梱包の内容・重量・箱数の明細書
- 船荷証券(Bill of Lading)またはエアウェイビル:船便か航空便かによって異なる輸送書類
- 衛生証明書(Health Certificate):農林水産省が発行した電子証明書のPDF
- 原産地証明書(Certificate of Origin):品物が日本産であることを証明する書類。日本商工会議所などに申請できる
書類は出荷2〜3日前には完了させておくのが理想だ。書類に不備があると出荷がずれ込み、冷凍品であれば品質劣化のリスクにもつながる。
Step 5:バイヤーと現地通関の段取りを確認する
輸出通関が完了した後、荷物はインドネシアの港や空港で現地通関を受ける。このプロセスはバイヤー側(インドネシアの輸入業者)が担当するが、必要書類を事前にバイヤーへ送付しておく必要がある。現地ではBKIPMによる検疫検査が行われ、合格すれば通関が完了する。
バイヤーに輸入経験があれば流れを把握しているはずだが、初回取引の相手先の場合は「どんな書類が必要か、いつまでに送ればいいか」をメールで事前確認しておくと安心だ。Aさんのケースでは、まずバイヤーへの確認から逆算してスケジュールを組み立てるのが現実的な進め方だ。
見落としがちな3つの落とし穴
電子証明書への移行を知らずに申請が遅れる
2025年1月以前の手順を調べて「窓口に書類を持って行けばいい」と思い込んでいると、現在の申請フローとずれてしまう。オンラインシステムのアカウント登録や操作に不慣れな場合は、余裕を持って準備を始めることが大切だ。
冷凍水産物のグレーズが20%を超えていた
国内では商慣行上30%前後のグレーズが使われることもあるが、インドネシアの規格では最大20%に制限されている。仕入れた冷凍品をそのまま輸出しようとすると規格違反になる場合がある。処理施設・仕入れ先への事前確認が欠かせない。
旧様式の証明書で申請してしまう
2025年12月23日以降は衛生証明書の様式が変更されており、旧様式で申請・発行された証明書はインドネシア側で受け付けてもらえない場合がある。申請前に農林水産省の公式ページで最新様式を確認する習慣をつけておきたい。システム上で自動的に最新様式が適用されるかどうか、担当窓口に事前確認しておくと安心だ。
まとめ:今回の3つのポイントと明日からのアクション
明日から動ける3つのアクション
- 自社または委託先の水産物処理施設が農林水産省の輸出対応施設として認定されているか、地方農政局または農林水産省のサイトで確認する
- 農林水産省の「インドネシア向け輸出水産食品の取扱いについて」ページ(最新版2025年12月23日更新)をブックマークし、衛生証明書の現在の様式を手元に保存しておく
- インドネシアのバイヤーに「通関に必要な書類リストと受け取り希望の期限」をメールで確認し、輸出スケジュールの基準線を決める
今回のポイントを3点で整理する
インドネシアは2022年7月に日本産食品の輸入規制を撤廃して以来、水産物輸出先として急速に注目されている市場だ。しかし2025年に入ってから衛生証明書の電子化と様式変更という2つの重要な手続き変更があった。古い情報をもとに動くと、書類の不備や申請の遅延につながるリスクが高い。今回の記事のポイントは次の3点だ。
- 衛生証明書は2025年1月から電子発行になり、農林水産省のオンラインシステムで申請する
- 冷凍水産物はグレーズ(氷衣)20%上限など、インドネシア固有の品質規格がある
- 証明書の様式は2025年12月23日に更新されており、最新版での申請が必要
初めての輸出は手続きの多さに圧倒されがちだが、ステップを分解して1つずつ確認していけば必ず前に進める。手続きの代行や書類作成の相談は、有限会社あさひ通商にお気軽にお問い合わせください。