輸出の基礎知識

海外バイヤーが求める和牛の部位はどれか。輸出者が知るべきカット規格と部位別の特徴を解説

「どの部位を揃えればいいですか」という質問が届いたのは、食品商社の担当者・Nさん(40代・女性、静岡県)がカナダの食品輸入業者と商談を始めた時のことだった。「和牛を売りたいのですが、どのカットが人気なのかわからなくて」というのが正直な出発点だった。リブロース・サーロイン・ヒレ・かたロース。国内では馴染みのある部位名も、海外バイヤーへの説明になると「英語名は何?」「グラム指定かポンド指定か?」「骨付きか骨なしか?」という壁にぶつかる。この記事では、和牛輸出で実際に取り扱われる部位の特徴と、バイヤーとのカット規格の合わせ方を、輸出者・仕入れ代行業者の目線でシナリオ形式で解説する。

和牛輸出の前提:輸出量データが示す「主力部位」とは

食肉(部分肉)輸出が主流になっている現在地

農林水産省の発表によると、2024年の牛肉輸出額は648億円(前年比12.1%増)で過去最高を記録した。輸出先は米国・台湾・香港・東南アジア・欧州へと広がっており、輸出形態のほぼすべてはと畜・加工後の部分肉を冷蔵または冷凍で届ける「食肉輸出」だ。生体(生きたまま)や枝肉(骨付き半身)での輸出は、食用目的では実務上ほとんど行われていない。

Nさんのカナダのバイヤーが求めているのも、具体的な部位・カット・重量が指定された部分肉だ。「どの部位を揃えるか」という判断が、和牛輸出ビジネスの最初の設計ポイントになる。

※輸出手続きの詳細は農林水産省「食肉の輸出について」をご参照ください。

部位別の輸出構成から読む市場ニーズ

農畜産業振興機構のデータによると、牛肉輸出の部位別構成は「ロイン(ロース系)」が45.7%、「かた・うで・もも」が34.6%、「ばら」が16.9%となっている。この数字から、リブロースとサーロインを中心としたロース系部位が輸出の主力であることがわかる。

輸出市場のニーズは仕向国によって異なる。ステーキ文化の根強い欧米ではロース系の厚切りブロックが求められ、焼肉・しゃぶしゃぶ文化が浸透する東アジアではスライス仕様の引き合いが多い。まずどの市場向けの商品を設計するかが、部位選定の出発点になる。

海外バイヤーが指定する和牛の主要部位と特徴

ロース系(リブロース・サーロイン):輸出量の約半数を担う主力

リブロースは和牛輸出で最も取引量が多い部位のひとつだ。脊椎の両側に位置し、脂肪交雑(霜降り)が特に入りやすく、見た目のインパクトが強い。海外ではRibeye(リブアイ)という名称で流通しており、ステーキ・焼肉・鉄板焼きの用途で世界中のバイヤーから根強い需要がある。霜降りの断面が美しく、SNSや高級レストランのメニューで映えるため、プレミアムマーケットへの訴求力が高い。

バイヤーからの発注では「Ribeye steak、3cm厚、250g±10g、骨なし(boneless)、真空パック」という形で仕様が指定されることが多い。また「ロールカット」か「センターカット」かによって断面の形状が変わるため、バイヤーの用途(レストランでの提供方法・調理法)を確認してからカット方法を選ぶことが品質クレームを防ぐポイントになる。

サーロインは赤身と脂身のバランスが取れた部位で、海外ではStriploin(ストリップロイン)またはNew York Strip(ニューヨークストリップ)として知られる。欧米・香港・シンガポールでは定番の高級ステーキ部位として浸透しており、骨付き(Bone-in)仕様を求めるバイヤーもいる。Tボーンステーキやポーターハウスステーキのようにヒレと骨でつながった形での発注が来ることもあるため、対応できる処理施設か事前に確認しておく必要がある。

ヒレ(テンダーロイン):希少性と最高価格帯

牛の背中側の内側に位置するヒレは、運動量が少ないため最も柔らかい肉質を持つ部位だ。1頭から取れる量が限られているため希少性が高く、和牛のなかで最も高価格帯で取引される。海外ではTenderloin(テンダーロイン)またはFillet(フィレ)と呼ばれ、高級フレンチ・鉄板焼きレストランやミシュラン掲載店からの引き合いが多い。

バイヤーによっては「シャトーブリアン(Chateaubriand:ヒレの中心部・最も太い希少部位)」という特定箇所を指定してくることもある。1パックあたりの重量・厚さの精度管理がシビアなため、処理施設との事前確認が特に重要になる部位だ。また、ヒレは冷蔵(チルド)で輸出されることが多く、航空便でのタイムリーな出荷体制が整っているかどうかを事前に確認しておく必要がある。高価格帯の部位だからこそ、温度管理・パッキングのミスが直接クレームにつながりやすい。

かたロース・ばら・もも:コスパ重視と東アジア市場向け

かたロースは肩に位置する部位で、海外ではChuck Roll(チャックロール)として流通する。霜降りも入りやすく、リブロースやサーロインに比べてコストパフォーマンスが高い。焼肉用やしゃぶしゃぶ用のスライスとして東アジア向けに輸出されることが多く、スライス厚さ(焼肉用は1〜3mm・しゃぶしゃぶ用は1mm程度)の仕様をバイヤーと明確に合意しておく必要がある。

ばら(バラ肉)は焼肉用カルビとして韓国系外食や焼肉チェーンからの需要がある。うちもも・そとももは赤身が豊富で、ローストビーフやコールドカット(薄切り加工品)向けのバイヤーからの引き合いがある。近年は「ピカーニャ(Picanha:らんいち)」など南米のカット文化に由来する部位への指定が欧米市場から増えており、バイヤーの出身地・料理文化に応じて柔軟に対応できる体制が求められている。A3格付けの赤身系部位は価格面で参入しやすいため、まずはA3のかたロース・もも系でテスト輸出を行い、バイヤーとの関係を築いてからA5ロース系に拡大するという戦略を取る輸出業者も多い。

和牛の主要輸出部位と海外名称・カット規格の対応(輸出者向け整理図)

カット規格の合意:商談トラブルを防ぐ実務のポイント

カット名の日英対応と重量単位・仕様書の作り方

日本の部位名と海外で使われるカット名が一致しないことがある。「リブロース」と伝えても、バイヤーによってはRibeyeとScotch Fillet(オーストラリア系の呼称)で思い浮かべる形状が異なる。重量単位も米国・カナダではポンド(lb)指定が一般的で、1ポンド≒454gであることを念頭に置く。

商談では「カットスペックシート(商品仕様書)」を交換することが最善策だ。以下の項目を書面で合意しておくと、「届いた肉が想像と違う」というトラブルを防げる。

  • 部位名(日本語+英語の両方を記載)
  • カット方法(ロールカットかセンターカットかなど)
  • 骨付き(Bone-in)か骨なし(Boneless)か
  • 重量・厚さの指定(グラムかポンドか・厚さはcm表記かインチ表記か)
  • 脂肪のトリミング(余分な脂肪を取り除く処理)の程度
  • 包装形態(真空パック・IQF冷凍など)

格付けと品種のセット表記が認識ズレを防ぐ

格付けは公益社団法人日本食肉格付協会(JMGA)が農林水産省の承認を得て定めた基準で実施される。歩留等級(A・B・C)と肉質等級(1〜5)の組み合わせで表示され、最高位がA5だ。A5・A4は高価格帯の高級和牛として世界市場で取引され、A3は量を求めるバイヤー向けに位置づけられる。

バイヤーへの説明では、格付けと品種(黒毛和種など)をセットで伝えることが基本だ。「A5の牛肉です」とだけ伝えると品種が不明なまま交渉が進んでしまい、「本当に純粋な和牛種か」という疑問がバイヤー側に残る。「A5黒毛和種・〇〇産」というセット表記を商談書類から統一することで認識ズレを防げる。

※格付けの詳細は公益社団法人日本食肉格付協会(JMGA)公式サイトをご参照ください。

現場でよく起きる3つの仕様ミス

部位の知識が整っても、実務では次のようなミスが起きやすい。1つ目は、部位名を日本語のまま伝えてしまうことだ。「リブロースを送ります」という日本語表現では正確に伝わらない。英語名(Ribeye・Striploin等)と重量単位を使うことが基本だ。2つ目は、スライス厚さや重量の単位を確認しないまま発注確定することだ。「3cm厚」のつもりが現地では「3インチ(約7.6cm)」と受け取られてしまったケースがある。3つ目は格付けと品種を別々に伝えることで、品種が特定されないまま商談が進む原因になる。

これらのミスはいずれも「最初の仕様合意」の段階で防げる。最初の発注書やメールに部位名(英語)・重量(グラムかポンドか)・格付け・品種・産地をすべて明記しておく習慣をつけることで、納品後のクレームリスクを大幅に下げられる。

まとめ:部位選定とカット規格の合意が和牛輸出の出発点

まず「ロース系2部位」から始める参入戦略

農畜産業振興機構のデータによると、和牛輸出の約半数はロイン(ロース系)で占められている。リブロース(Ribeye)とサーロイン(Striploin)の2部位から輸出を始め、バイヤーのフィードバックをもとにヒレ・かたロース・ばらへと品揃えを広げる進め方が現実的だ。テスト輸出の段階では少量・短期契約から始め、カット精度・温度管理・納期の実績を積み上げてから長期契約に移行することで、バイヤーとの信頼関係を築きやすくなる。

いますぐ取れる行動は以下の4つだ。バイヤーの販売チャネル(高級レストランか量販か焼肉店か)を確認し、それに合う部位×格付けの組み合わせを提案する。英語カット名と重量単位(グラム/ポンド)を整理したカットスペックシートをバイヤーに提示する。国内の輸出対応食肉処理施設(農林水産省認定施設)が対応できるカット・処理を事前に確認する。格付け(A5・A4・A3)と品種(黒毛和種など)の両方をバイヤー向け商品説明に必ず明記する。

形態と規格の合意が次のステップを開く

部位とカット規格の合意が済めば、次のステップは輸出認定施設との連携・衛生証明書の取得・通関書類の準備に進む。和牛輸出の「どの部位を・どんな仕様で・どの格付けで」という基礎を先に固めておくことで、バイヤーとの交渉も、書類準備も、格段にスムーズになる。

和牛輸出は「品質があれば売れる」という単純な話ではない。リブロース(Ribeye)でも、カット精度がブレていたり、重量表記がバイヤーの単位系と違っていたり、格付けの伝え方が不正確だったりするだけで、商談が止まったり納品後のクレームに発展したりすることがある。部位・カット規格・格付けを正確に伝えるための「仕組み」を最初に整えることが、和牛輸出を継続的なビジネスに育てる基礎になる。部位の選定・カットスペックシートの作成・仕入れ先の輸出認定施設との連携でお困りの方は、有限会社あさひ通商にご相談ください。

出典・参考資料

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