「出荷した荷物がシンガポールで足止めになっています。ホルムズが通れないので、船会社からドバイまで運べないと言われました」
大阪府で食品輸出を手がけるCさん(42歳・男性)がバイヤーからその連絡を受けたのは、2026年3月のことだった。UAEのドバイとは4年の取引実績がある。冷凍和牛をリーファーコンテナ(冷凍コンテナ)で月に1〜2便、海上輸送で送り続けてきた。それが突然、止まった。
ニュースではイランへの攻撃と停戦交渉が連日流れている。だが「自分のビジネスに具体的にどう影響するか」を整理している時間はない。代替ルートはあるのか。バイヤーとの契約はどうなるのか。次の出荷はどうすればいいのか。この記事では、2026年2月以降の中東情勢の動きと、和牛輸出業者が今とるべき実務的な対応を整理する。
2026年2月〜6月、ホルムズ海峡で何が起きたか
まず、時系列で状況を整理する。
- 2026年2月28日:米国・イスラエルがイランに対して軍事攻撃を開始。イランの最高指導者ハメネイ師が死亡(※三菱総合研究所、日本国際問題研究所報告より)
- 3月以降:イランがペルシャ湾内の商業船舶を攻撃。ホルムズ海峡の通航が激減。通常は1日あたり135〜140隻が通過する海峡で、現在は極めて低水準が続いている(※global-scm.com 2026年5月29日更新)
- 4月初旬:2週間の停戦が合意。ただしホルムズ海峡の全面正常化には至らず
- 5月29日時点:「60日間停戦延長・ホルムズ通航制限緩和」を含む暫定枠組みが報じられているが、正式合意には至っていない(※日本経済新聞 2026年5月25日報道)
- 6月現在:海上輸送は依然として制限的な状態。航空運賃の上昇とリードタイムの延伸が続いている

ホルムズ海峡(ペルシャ湾とアラビア海をつなぐ幅約50kmの水路)はUAEのドバイ・アブダビ、カタールのドーハ、クウェートなど湾岸諸国への唯一の海上玄関口だ。ここが事実上機能していない状態が4ヶ月近く続いている。
日本からUAEへの農林水産物・食品輸出は2024年に101億円に達し、過去10年で最大の規模だった。輸入品目の上位には清涼飲料水、牛肉、ソース類が並ぶ(※ジェトロ UAE輸出支援プラットフォーム 2026年3月更新)。その牛肉輸出が今、海上輸送の停滞で直撃を受けている。
※最新の情勢については外務省「海外安全ホームページ」、経済産業省「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を随時確認してください。
Cさんのシナリオ:4年来のドバイ取引が止まった
Cさんは大阪府の食品専門商社(従業員18名)で輸出を担当している。UAE・ドバイのインポーターとは4年の付き合いで、毎月冷凍和牛を送り続けてきた。3月に出荷したロットはシンガポールに寄港した後、ペルシャ湾への入港ができず立ち往生している。バイヤーからは「いったん発注を止めたい」という連絡も届いた。次の荷物はすでに国内の冷凍倉庫に準備が終わっている。Cさんはこの状況でどう動けばいいでしょうか。
危機下で取れる5つの対応策
対応1:現在進行中の輸送状況をすぐに確認する
まず物流会社・フォワーダー(輸出手配を代行する業者)に現在の荷物の状態を確認する。「シンガポール待機中」「転積(別の船に積み替え)が必要」「航路変更で追加費用が発生する」など、状況はケースごとに異なる。
今後の処理方法として考えられるのは、転積後にアカバ湾(ヨルダン)経由でUAEに陸送するルート、またはマスカット(オマーン)で陸揚げしUAEへトラック輸送するルートなどだ。どれも追加コストと時間がかかる。物流会社が提示できる選択肢と費用感を早期に把握することが最初の一歩になる。
対応2:フジャイラ港経由の代替ルートを検討する
UAEの東側には「フジャイラ」という港湾都市がある。ホルムズ海峡の外側、アラビア海(オマーン湾)側に位置するため、ペルシャ湾を経由せずに陸揚げできる。フジャイラからドバイまでの陸路は約120kmで、トラック輸送で2〜3時間程度だ。
海上輸送の大部分はこれまでドバイ港(ジュベルアリ港)を利用してきたが、フジャイラ経由に切り替えることで海上輸送の一部を維持できる可能性がある。ただし、フジャイラ港の処理能力・冷凍設備の状況や、追加輸送費についてはフォワーダーに確認が必要だ。
なぜこれが重要なのか? ホルムズ封鎖が長期化した場合に備え、代替ルートの実現可能性を今のうちに確認しておくことが、次の出荷計画の立案につながる。
対応3:航空輸送への切り替えを検討する
小口・高単価な和牛であれば、航空輸送(エアフレイト)という選択肢がある。ドバイ国際空港は世界有数の貨物ハブで、日本からの直行便や経由便が複数ある。
ただし、中東情勢の悪化で航空会社が中東経由ルートを避けるケースが増えており、航空運賃の上昇とリードタイムの延伸が起きている(※ジェトロ ビジネス短信 2026年3月)。また冷凍品の航空輸送は海上の2〜4倍以上の運賃になることが多い。
A5ランクなど単価の高い和牛であれば採算が合う場合もあるため、バイヤーとコスト分担の交渉をしながら判断することになる。
対応4:バイヤーとの契約条件・フォースマジュール条項を確認する
輸出契約に「フォースマジュール(不可抗力条項)」が含まれているかを確認する。この条項は、戦争・自然災害など当事者の責任によらない事由で履行が不可能になった場合に、損害賠償や違約金を免除する規定だ。
今回のホルムズ封鎖は「戦争状態」に近い状況であり、フォースマジュール条項が適用されるかどうかはケースバイケースだが、契約内容の確認を弁護士や貿易専門家に依頼しておくことは重要だ。条項がない場合も、バイヤーとの誠実なコミュニケーションで納期・支払いの猶予を交渉することが現実的な対応になる。
対応5:代替市場への一時展開を視野に入れる
UAE向け発注が止まっている間に、別の市場への短期販路を検討することも選択肢に入る。中東の中でも、サウジアラビアのジェッダ港はアラビア半島の西側・紅海に面しており、ホルムズを通らずに輸送できる。また、ヨーロッパや東南アジアへの一時的な販路シフトも考えられる。
ただし、新規市場の開拓には書類整備や認定手続きが伴うため、短期間での切り替えは難しい側面もある。中長期的な視点で「中東一極集中からの分散」を検討する機会として捉える姿勢が重要だ。
見落としがちなリスクと最悪のシナリオ
- 冷凍コンテナが長期間港で滞留する:冷凍設備の維持費用(デマレージ料)が毎日発生する。1ヶ月以上の滞留になると数十万円単位のコスト増になりうる
- 航空便が急に運休・迂回ルートに変わる:空域の制限で日本〜ドバイ間の直行便が増減するリスクがある。出荷直前の欠航や積み残しに備えてバッファを持つ必要がある
- フォースマジュール条項がない契約で違約金が発生する:バイヤーから「履行遅延」として違約金を請求されるケースもある。証拠となる物流会社の通知書類を必ず保管しておく
- 停戦が成立しても即座に正常化しない:機雷除去・保険再開・船舶確保など実務の正常化には数週間から数ヶ月かかる見通しとされている(※global-scm.com)。「停戦発表」と「輸送再開」は同じではない
明日から動ける4つのアクション
- 現在輸送中の荷物の状況をフォワーダーに確認し、代替処理の選択肢と追加費用の見積もりを取る
- バイヤーに現状を正直に報告し、発注の一時停止期間と再開目安について合意を取る
- バイヤーとの輸出契約にフォースマジュール条項が含まれているか確認し、なければ今後の契約書から盛り込む
- 経済産業省「中東情勢関連対策ワンストップポータル」で最新の輸送状況と支援策を確認する
まとめ
今回の3つのポイントを整理する。
第一に、2026年2月のイラン攻撃を発端とするホルムズ海峡の通航激減は、UAE・カタールなど湾岸諸国向けの和牛輸出に直接影響を与えている。6月現在も海上輸送は制限的で、停戦合意後の完全正常化にはさらに時間がかかる見通しだ。
第二に、対応策として「フジャイラ経由の代替ルート」「航空輸送への切り替え」「バイヤーとのフォースマジュール交渉」「代替市場の一時検討」という4つの軸がある。自社の商品単価・量・バイヤーとの関係性によって優先順位は変わる。
第三に、ホルムズ危機は今後も予断を許さない。中東一極への依存を見直し、複数の仕向国に分散させる中長期戦略を、この機会に考えておくことが重要だ。あさひ通商では輸出業務代行を通じて、仕向国の多角化や代替輸送ルートの検討をサポートしている。
出典・参考資料