水産・和牛 仕入れ代行

市場の8割がチリ産。それでも礼文島産ウニで勝てる市場がある

「礼文島のウニが6月に解禁になると聞いて、輸出を考え始めました。香港かシンガポールに送れば売れると思っていたんですが、現地バイヤーに価格を聞いてびっくりして。チリ産の半額以下ならと言われました」

食品輸出を始めようとしている事業者からこうした声が届きます。国内では高値で取引される礼文島産エゾバフンウニが、なぜ海外バイヤーに評価されないのか。問題は品質ではなく、市場選びにあります。

6月1日、礼文島でエゾバフンウニの漁が解禁されました。豊洲市場では国産ウニの卸値が高止まりを続け、折ウニ(250g)は高級すし店・料亭向けの主力規格として流通しています。しかし輸出の世界では、「日本産ウニ=高く売れる」が成り立たない市場が存在します。今回はその現実と、それでも勝ち筋がある市場について、現場の視点から解説します。

礼文島産エゾバフンウニとは何か

最北端の海で6月1日に解禁される高品質ウニ

礼文島は北海道の最北端、稚内の西約60kmに位置する島です。冷涼なオホーツク海と日本海が交わるこの海域では、エゾバフンウニが漁獲されます。礼文島の香深漁業協同組合が毎年公式に発表する漁解禁日は6月1日で、この日から8月中旬にかけてが品質の最盛期です。最も美味しく食べられるのは7月中旬までとされています。※出典:礼文島香深漁業協同組合「エゾバフンウニ漁6月1日解禁」

礼文産ウニの特徴は甘みの強さにあります。昆布を主食にして育つため、粒は小さくとも凝縮した甘みと旨みを持ちます。同じエゾバフンウニでも産地によって味が異なり、利尻島産とともに礼文産は「最上級」として国内の高級すし店に流通します。

折ウニ(250g)が輸出を考えるときの基準単位になる理由

日本の水産市場で流通するウニの主力規格が「折ウニ(250g)」です。プラスチックまたは木製の折り詰め容器に塩水漬けの生ウニを並べたもので、高級すし店が一度に使い切れる量として定着しています。豊洲市場では仲卸業者がこの規格を中心に取引しており、輸出を考える際もこの単位が基準になります。

豊洲市場の価格動向を見ると、輸入ウニ(チリ産・北米産)の卸値でさえ2025年7月に前月比18%上昇したというデータがあります。国産ウニ、とくに礼文産・利尻産のエゾバフンウニは輸入品よりさらに高い価格帯で取引されており、6月の解禁直後から需要が集中します。※出典:築地のサブちゃん「豊洲市場ウニ相場レポート2025年6月第4週」

香港・シンガポールで勝てない本当の理由

業務用市場を支配するチリ産の現実

日本国内のウニ消費量のうち、約8割は輸入品が占めています。輸入元の中心はチリ、ロシア、北米(アメリカ・カナダ)です。※出典:ウニノミクス「世界中でのウニ需要の高まり」

同じ構図が香港やシンガポールの業務用市場でも起きています。中〜低価格帯のすし店・居酒屋チェーンが使うのはチリ産や北米産の冷凍ウニが中心で、既存の輸出業者・商社がルートを確立済みです。新規参入者が「日本産は高品質です」と訴えても、バイヤーは価格を根拠に断ります。価格差が縮まらなければ交渉が前に進まない構造です。

象徴的な出来事があります。大手食品メーカーの一正蒲鉾は、魚のすり身でウニを再現した代替商品を香港の業務用ルートで輸出し始めました。価格競争が極限まで進んだ市場では、本物のウニではなく「ウニに似た安価な代替品」すら需要があるということです。※出典:日本経済新聞「一正蒲鉾、すり身の代替ウニ輸出 第1弾は香港」

台湾・シンガポールも既存業者が先行している

台湾は2025年11月に日本産食品の輸入規制を撤廃し、産地証明書が不要になりました。参入しやすくなったことは確かです。しかし台湾向けの日本産水産物ルートも多くの商社がすでに確立しており、価格面で新規参入の余地を確保するのは容易ではありません。シンガポールも同様で、高級すし店向けのルートは大手輸出業者が先行しています。

つまり、これから輸出を始める小規模事業者にとって、香港・シンガポール・台湾は「門が開いているかどうか」ではなく、「ルートがすでに固まっているかどうか」が問題です。価格を妥協しない限り、新規バイヤーを獲得するのは難しいというのが現実です。

それでも可能性がある市場はどこか

ベトナム:「ウニ+おまかせ寿司」が食のステータスになりつつある

2025年、ベトナムのホーチミンやハノイで変化が起きています。「おまかせ寿司コース」という高級業態が急速に広がり、その目玉食材として日本産ウニが使われ始めました。ウニは「食べたことがある=豊かさの証明」として機能しており、高収入の現地消費者や在ベトナム日本人・外国人駐在員が主な客層です。※出典:OTASUKE「ベトナムで日本食ブーム キーワードはおまかせ寿司とウニ」

競合がまだ少ない点が重要です。香港・シンガポールと違い、ベトナムの高級日本食市場は形成途上にあります。バイヤーが「良い仕入れ先を探している段階」であるため、価格よりも品質・産地ストーリーで交渉できる余地があります。「6月1日解禁・礼文島産」という具体的な産地と漁解禁日の情報は、ベトナムの高級店バイヤーには明確な差別化材料になります。

UAE・ドバイ:中東全体のハブで高級ウニ需要が育っている

ドバイの日本食レストラン数は2016年の196店から2021年には288店に増加し、その後も増え続けています。2025〜2026年にかけて新店舗のオープンが続いており、高級おまかせコースでは北海道産ウニがメニューに定着しつつあります。※出典:ジェトロ「UAEにおける日本食レストラン市場調査(ドバイ発)」

UAEはアラブ首長国連邦の物流ハブです。ドバイを経由してサウジアラビア・カタール・クウェートなど中東全体に商品を届けるルートが整っており、一拠点から中東市場全体を射程に入れられます。高所得層の多い中東市場では、日本産食材のブランド価値が価格プレミアムを正当化しやすく、チリ産との価格競争に巻き込まれにくい特性があります。

カナダ:CPTPPで関税ゼロ、日系コミュニティが下支えする安定市場

カナダはCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)加盟国です。同協定により、日本産水産物の関税が段階的に撤廃されており、価格面でのハードルが下がっています。バンクーバー・トロントには大規模な日系・アジア系コミュニティがあり、高品質な日本産水産物への根強い需要があります。

香港・シンガポールと比べてカナダの日本食市場は業務用の価格競争が緩やかで、「産地にこだわる消費者」が一定数います。北米全体でウニ需要は10年で5倍以上に拡大しており、ロサンゼルスやニューヨークとのルート拡張も視野に入れやすい地域です。※出典:世界のウニ漁(雲丹専門 小林商店)

オーストラリア:JAEPA活用で関税優遇、日本食の浸透が進む

オーストラリアは日豪経済連携協定(JAEPA)により、水産物の関税優遇が受けられます。シドニー・メルボルンを中心に日本食レストランが増加しており、健康志向の高い消費者層を中心に日本産水産物の評価が上がっています。アジア系移民の増加とともに日本食需要も広がっており、ウニは高級すし店で扱われ始めています。

EPA活用により価格競争力を持ちながら、「日本産のプレミアム感」を打ち出せる市場として注目しています。フォワーダーの体制も整っており、航空便での小口輸出から試験的に始められる環境があります。

4市場に共通する入り方

ベトナム・UAE・カナダ・オーストラリアのいずれも、折ウニ250g単位の航空便小口輸出が現実的なスタートです。航空便を使えば礼文島の解禁直後の新鮮な状態で届けられます。フォワーダー(国際輸送代理業者)に通関を任せることで、初回の手続きの複雑さを軽減できます。

バイヤー開拓にはジェトロが開催する農林水産物・食品の輸出商談会が入口として使いやすいです。4市場いずれもバイヤーマッチングサービスの対象となっており、事業者登録のうえで申し込むことができます。

やってはいけない判断

「価格を下げて香港に入れる」という選択は、短期的には成立しても長期的には収益を圧迫します。業務用市場での価格は一度下げると上げにくく、既存の大手業者との競争で消耗する可能性があります。

また「規制が緩和されたから台湾は簡単」という判断も注意が必要です。規制撤廃は参入障壁の一つが取り除かれたに過ぎず、既存の競合業者が先行している事実は変わりません。

礼文島産ウニという高品質な素材を持っているなら、その価値をきちんと評価してくれる市場と客層を選ぶことが先決です。

明日から動ける3つのアクション

  • ジェトロの輸出商談会(農林水産物・食品部門)でベトナム・UAE・カナダ・オーストラリア向けのバイヤー情報を確認する
  • 礼文島・利尻島の漁協または仲卸業者に連絡し、折ウニ250gの小口試験輸出の可否を問い合わせる
  • 航空便対応フォワーダーに各市場向けの輸送コストとリードタイムの見積もりを比較依頼する

まとめ

礼文島産エゾバフンウニは6月1日に漁が解禁され、7月中旬にかけてが品質の最盛期です。豊洲では卸値が上昇傾向にあり、国産ウニへの需要は根強くあります。

しかし香港・シンガポール・台湾の業務用市場は、安価な外国産ウニが既存ルートを占拠しています。新規参入するには価格を下げるか、市場を変えるかの判断が避けられません。

ベトナム・UAE・カナダ・オーストラリアは、バイヤーがまだ「良い仕入れ先を探している段階」の市場です。礼文産という具体的な産地ブランドを武器に今動くことが、後発競合が増えたときの優位につながります。どの市場を最初に選ぶかで、同じウニの輸出収益は大きく変わります。

あさひ通商では礼文島・利尻島産エゾバフンウニの輸出先選定から書類手続きまで、実務サポートを行っています。詳細はプロフィールのリンクからお問い合わせください。

出典・参考資料

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