「ベトナムのレストランオーナーから直接連絡が来たんですよ。北海道のカニを定期的に仕入れたいって言ってくれていて。量も月100kg単位で、話はかなり具体的なんです。でも輸出なんてやったことがなくて、何から動けばいいか全然わからなくて困っています。」
こういった相談が、2026年に入ってから増えています。ベトナムでは日本食の人気が急速に高まっており、ホーチミンやハノイの高級レストランを中心に、本物の日本産タラバガニへの需要が出てきているためです。
ただ、タラバガニの輸出は「箱に詰めて発送する」だけでは動きません。施設の認定、複数の書類の取得、ベトナム側の通関対応。それぞれにクリアすべき手順があります。しかも2026年現在、ベトナムの食品輸入規制がちょうど大きな転換期を迎えており、準備不足のまま進めると通関で止まるリスクがあります。
この記事では、北海道の水産物商社が今日からタラバガニのベトナム輸出を始めようとしたとき、実際に何をどの順番で動けばいいかをシナリオ形式で解説します。
2026年現在、ベトナムへの水産物輸出はどんな状況か
まず手順に入る前に、現在の状況を整理しておきます。
- 2025年4月1日:農林水産省の「ベトナム向け輸出水産食品取扱要綱」が更新された
- 2024年8月1日から:ベトナム向け衛生証明書の発行が紙から電子発行へ切り替わった
- 2026年2月5日:ベトナム政府が食品安全管理の新政令(46/2026/ND-CP)を施行。しかし現場で混乱が続発し、同年4月15日まで適用を一時停止することを発表
- 2026年現在:ベトナムの食品輸入制度は移行期にあり、現地バイヤーとの情報共有がかつてなく重要な時期
ベトナムは成長著しい輸出先ですが、今まさに制度が動いています。手続きの基本を正しく理解したうえで、最新情報を随時確認しながら進める姿勢が必要です。
※最新情報は農林水産省・ジェトロの公式ページをご確認ください。

今日のAさんはどんな状況にいるか
Aさんは北海道・函館市を拠点とする水産物商社(従業員8名)を経営しています。主な仕事は道内の卸市場からタラバガニを仕入れ、国内の飲食店や食品メーカーへ卸すことです。
先日、ハノイの日本食レストランチェーンのバイヤーから、タラバガニを月100kg単位で継続的に仕入れたいという連絡が入りました。取引額は月数百万円規模になる見込みです。Aさんには輸出の経験がなく、「まず何から手をつければいいでしょうか」という状況です。
ステップ形式で解説:タラバガニのベトナム輸出、実際の手順
Step 1:仕入れたカニは本当に「日本産」か確認する(初日)
多くの人が最初に見落とすのがこのステップです。国内で「北海道産タラバガニ」として流通している商品の多くは、ロシア・アメリカ・ノルウェーで漁獲され、北海道の加工施設で処理・冷凍されたものです。国内流通量の約9割が輸入品とも言われています(出典:高級カニ専門通販各社の流通資料)。
輸出書類には「原産国(country of origin)」を正確に記載しなければなりません。北海道で仕入れたカニでも、漁獲地がロシアであれば「ロシア産」として申告する必要があります。これを「日本産」として輸出すると、虚偽申告として通関で止められるだけでなく、法的な問題に発展するリスクがあります。
また、日本・ベトナム間のEPA(経済連携協定)を使った関税優遇を受けるには、「原産国が日本であること」を証明する書類が必要です。ロシア産タラバガニでは、このEPA特恵関税は適用できません。
まず仕入れ先に「どこで漁獲されたカニか」を確認することが、すべての起点です。
Step 2:輸出できる加工施設かどうかを確認する(1週目)
ベトナムに水産食品を輸出するには、日本国内の最終加工・冷凍施設が「ベトナム向け輸出施設」として認定を受けていることが必要です。認定後、さらにベトナム政府への施設登録が完了して初めて、衛生証明書に施設番号を記載できます。
施設認定の申請先は、施設のある都道府県の水産主管部局です。北海道の場合は北海道水産林務部が担当しています。
なぜこれが必要なのかというと、ベトナムの規制では、加工(凍結・包装を含む)を行った施設が事前登録されていない場合、輸入を受け付けないという制度になっているためです。Aさんが自社倉庫でカニを冷凍保管しているだけでも、「加工施設」に該当する場合があります。
施設認定取得には数週間から数ヶ月かかることがあります。バイヤーから受注する前に動き始めることが、現実的なスケジュールを組むうえで欠かせません。
Step 3:衛生証明書の電子申請をする(2〜3週目)
施設の認定・登録が完了したら、次は「衛生証明書(Health Certificate)」の取得です。これは日本政府が「この製品は認定施設で製造された安全な食品です」とベトナム政府に証明する書類であり、ベトナム側の輸入通関に必須です。
申請先は、認定施設または輸出者の事業所を管轄する地方農政局(農林水産省の出先機関)です。
重要な変更として、2024年8月1日以降、衛生証明書は電子発行に切り替わっています。紙書類の発行はすでに終了しているため、最新の申請手順を地方農政局に確認してから進めてください。なお、生鮮品のように輸出当日に証明書が必要なケースでは、事前相談が推奨されています。
Step 4:VJEPA原産地証明書(Form JV)を取得する(輸出2週前)
仕入れたタラバガニが日本国内で漁獲されたものであれば、日本・ベトナム経済連携協定(VJEPA:Japan Vietnam Economic Partnership Agreement)を活用して、ベトナム側の輸入関税を通常より低く抑えられる可能性があります。
この優遇を受けるには、「特定原産地証明書(Form JV)」が必要です。発行機関は日本商工会議所です。申請には商品のHSコード(関税分類番号・税番)と産地の証明が必要になるため、仕入れ先から漁獲証明や水揚げ記録を事前に入手しておくと手続きがスムーズです。
なぜこれが重要なのか。Form JVがなければ通常のMFN税率(最恵国税率)が適用されます。品目によっては関税率に大きな差が出るため、取引の収益性を左右する書類です。
※品目ごとの具体的な関税率はジェトロの税率検索ツールでご確認ください。
Step 5:通関書類を整えてベトナム側バイヤーに渡す(輸出1週前)
ベトナム向けの通関に必要な書類一式を用意します。
- コマーシャルインボイス:品名・数量・単価・合計金額などを記載した請求書
- パッキングリスト:梱包内容・重量・個数を記した一覧表
- 船荷証券またはエアウェイビル(B/L または AWB):輸送会社が発行する貨物の受領証
- 衛生証明書(Step 3で取得)
- 特定原産地証明書 Form JV(Step 4で取得・EPA利用の場合)
これらはベトナム側のバイヤーがe-Customs(電子通関システム)で輸入申告する際に使います。Aさんはバイヤーと「どの書類をいつまでに送るか」を事前に確認しておくことで、通関のトラブルを大きく減らせます。インボイスの記載単位と衛生証明書の記載単位が一致していないだけで通関が止まるケースもあるため、書類間の整合性チェックも忘れずに行いましょう。
Step 6:ベトナム新政令の影響をバイヤーと確認する(輸出直前)
2026年2月5日、ベトナム政府は食品安全管理の新政令(46/2026/ND-CP)を施行しました。この政令は、従来の「製品情報の自己申告制度」を廃止し、認証機関での検査結果にもとづく登録制度へ移行することを定めています。
しかし施行直後から港湾や倉庫での貨物滞留が相次ぎ、ベトナム政府は2026年4月15日まで同政令の適用を一時停止することを発表しました(出典:ジェトロ)。
一時停止期間は経過しましたが、その後の制度運用の状況は、ベトナム側のバイヤーや現地代理人が最もリアルタイムで把握しています。貨物を発送する前に「今の通関環境はどうか」を現地に確認する習慣が、2026年においては特に重要です。
これだけは知っておきたい:よくある落とし穴と失敗パターン
「北海道産」なら日本原産だと思い込んでいた。 Step 1で解説したとおり、日本で流通するタラバガニの多くはロシア産などの輸入品です。「北海道で仕入れた=日本産」という認識のまま書類を作ると、通関で差し戻されるだけでなく、虚偽申告の問題になる可能性があります。
施設認定のスケジュールを軽く見ていた。 バイヤーから「来月から送ってほしい」と言われても、施設認定から始める場合は間に合いません。認定手続きは受注よりも前に、見込みの段階から動いておく必要があります。
ベトナム側の制度変更を知らなかった。 2026年の新政令のように、輸出先の規制は短期間で変わることがあります。輸出を継続するには、ジェトロのベトナムページや現地バイヤーからの情報を定期的にチェックする体制が必要です。
まとめ:ベトナムへのタラバガニ輸出、3つのポイント
この記事では、北海道産タラバガニをベトナムへ輸出するシナリオを通じて、必要な手続きの流れを解説しました。
- 「北海道産」は産地表示であり、漁獲国の証明ではない。原産国を必ず確認すること
- 施設認定・衛生証明書・原産地証明書の3つが揃って初めて輸出の土台が整う
- 2026年はベトナムの食品輸入規制が転換期にあり、現地バイヤーとの事前確認が欠かせない
明日から動ける3つのアクション
- 仕入れ先に「漁獲された国・海域」を確認する(原産地証明書の取得可否に直結する)
- 北海道水産林務部に施設認定の要件と申請スケジュールを問い合わせる
- ジェトロのベトナム向け水産物輸出ページをブックマークし、最新の規制動向を定期確認する
これらの手続きは、初めて取り組む方には複雑に感じるのが当然です。あさひ通商では、輸出に必要な書類の手配から現地バイヤーとの調整まで一括してサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。