韓国経済紙ChosunBizが2026年6月に「A5和牛が供給過剰、輸出拡大で活路模索」と報じた。国内では健康志向の高まりとともにA4等級の人気が上がり、かつてのプレミアム等級だったA5が供給過剰に陥りつつある。この構造変化を輸出事業者の視点で読み解く。
- A5等級の黒毛和種が全体の約60%に急増し、供給過剰が鮮明に
- 国内需要は健康志向・高齢化でA4への選好にシフト
- 政府は2030年の牛肉輸出目標を3,600億円に設定
何が起きたか
A5等級の急増と供給構造の変化
黒毛和種(去勢)のA5等級割合は、品種改良と早期仕上げ技術の普及によって2025年時点で約60%に達した。10年前は30%以下だったことを考えると、供給量は実質倍増以上の水準だ(出典:日本農業新聞)。
国内需要の鈍化と価格差の縮小
国内消費は伸び悩んでいる。高齢化による食の細さや赤身肉・健康志向の普及が相まって、霜降りの強いA5の需要が鈍化している。A4の選好が広がり、両者の枝肉卸売価格差が縮小しつつある。
東京食肉市場の2026年5月データでは、和牛去勢A5が約2,700円/kg、A4が約2,535円/kgで推移しており(出典:JA全農ミートフーズ)、かつての大きな価格差は急速に縮まっている。日本経済新聞は「A5和牛が11年ぶりの安値」と報じており(2026年1月)、需給のミスマッチは現実のものとなった。また、輸出拡大の期待先だった中国向けについては、輸出再開の見通しが依然として立っておらず、仕向国多様化が急務の状況が続いている。
輸出ビジネスへの影響
仕入れ環境の改善が生む調達チャンス
国内の供給過剰・価格下落は、輸出事業者にとって「仕入れ条件の改善」でもある。良質なA5和牛を以前より有利な条件で調達しやすい環境が整いつつある。問題は、輸出先市場をどれだけ開拓できるかだ。
政府の2030年目標と現状のギャップ
日本政府は農林水産物・食品の輸出総額の2030年目標として5兆円を掲げており、そのうち牛肉単独では3,600億円を目標としている(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」)。
2024年の実績は648億円(前年比12%増・2年連続過去最高)・輸出量10,826トン(前年比122%)だ(出典:日本畜産物輸出促進協会)。目標の3,600億円との差は約5.6倍にのぼり、政府が牛肉輸出を最優先課題の一つとして位置づける背景になっている。
主要仕向国の実績と今後の課題
主な仕向国の2024年実績(出典:日本畜産物輸出促進協会):
- 米国:191億円・5,395トン(輸出額・量ともに最大)
- 台湾:121億円・3,606トン
- 香港:51億円・3,239トン
アジア向けが輸出額全体の約6割を占めるが、中国向け輸出が再開できていない現状では、米国・台湾・東南アジアへの分散が進んでいる。中東や中央アジア等の新興市場も視野に入れた複線的な輸出戦略が今後ますます求められる。
輸出事業者が今すぐ確認すべきこと
仕向国の輸入規制と認定施設の確認
農林水産省が公表する「食肉の輸出について」のページで、国別の輸入条件と認定施設リストを確認する。認定を受けていない処理施設からの輸出はできないため、調達先施設の認定状況を必ず把握しておくこと。
→ 農林水産省:食肉の輸出について
EPA・FTAによる関税優遇の活用
日本はTPP11・日EU-EPA・日米貿易協定等を活用することで、牛肉の輸出関税を大幅に削減できる。特に米国向けは関税削減が段階的に進んでおり、今後も有利な条件が続く。対象国と税率はジェトロのEPA情報で事前確認が必須だ。
→ ジェトロ:農林水産物・食品輸出支援プラットフォーム
衛生証明書・輸出証明書の最新要件確認
仕向国が求める書類様式・記載内容は頻繁に改定される。農林水産省の輸出証明書発行システムの最新情報を確認し、必要書類に漏れがないか点検する。書類不備は通関での足止めに直結するため、事前確認は欠かせない。
→ 農林水産省:輸出証明書について
まとめ
A5和牛の供給過剰は、日本の畜産業にとって構造的な課題だが、輸出事業者にとっては仕入れ条件の改善と市場拡大の両方のチャンスを意味する。2030年の牛肉輸出目標3,600億円は高い目標だが、今から参入・体制強化を進める事業者こそが先行メリットを享受できる局面だ。
まずは仕向国の規制確認と書類準備から着手し、政府の輸出支援スキームや農林水産省コンソーシアムを積極的に活用したい。