水産・和牛 仕入れ代行

サウジアラビアの和牛需要は、認証を持つ業者にしか流れないという現実

「サウジアラビアで和牛が売れている」と聞いて、仕入れ先を探し始めた方もいるかもしれません。

  • ハラール和牛の仕入れが誰にでも開かれているわけではない理由
  • 認証取得でつまずく事業者が繰り返す失敗
  • 輸出初心者が今すぐ取れる現実的な仕入れルート

「サウジアラビアの和牛需要」に飛びつく前に知っておきたいこと

中東で和牛の人気が高まっているというニュースを見て、「うちも仕入れて輸出してみようか」と考える事業者は少なくありません。実際、サウジアラビアやドバイのレストラン・スーパーマーケットでは和牛が並ぶ光景が珍しくなくなってきています。

ただしここで見落とされがちなのが、和牛であれば何でも中東に流せるわけではないという点です。イスラム圏で食肉を流通させるには、豚由来のものを与えていない牛であること、決められた方法でと畜されていることなど、ハラールという基準を満たした証明が必要になります。この証明がない和牛は、どれだけ高品質でも店頭に並ぶ以前の段階で止まってしまいます。

「うちは規模が小さいから関係ない」と考えていた事業者ほど、いざ動き出してから壁にぶつかっているのが現場の実情です。取引先候補に問い合わせて初めて「ハラール証明書がなければ商談以前の話」と言われ、そこから何を用意すればいいのか分からなくなるというのが典型的なつまずき方です。何から手をつければ仕入れが実現するのか、順番に見ていきます。

出典:農林水産省・ジェトロの公開情報をもとに作成

ハラール和牛の仕入れが「誰でもできる」わけではない三つの壁

認証の取得・維持には継続的な負担がかかる

ハラール認証は一度取れば終わりではありません。原材料の調達方法を見直し、他の食肉と混ざらない専用のラインを確保し、従業員へ継続的な教育を行い、定期的な監査を受け続ける必要があります。

サウジアラビアやドバイなどGCC(湾岸協力会議・アラビア半島産油国が加盟する経済協力機構)加盟国向けには「GSO1400」というハラール食肉に関する共通規格への適合も求められ、と畜方法だけでなく施設の衛生管理体制まで細かく確認されます(出典:PR TIMES、2023年5月12日)。

サウジアラビア向けの登録手続きやハラール証明書・衛生証明書の具体的な流れは、こちらの記事で輸出者目線のシナリオとして詳しく解説しています。輸出初心者がゼロから自社で認証取得を目指すと、想像していた以上に手間と資金がかかる継続的な取り組みになりやすい部分です。

国ごとにハラール基準が違い、輸出先ごとに認証が要る

ハラールには世界共通の統一基準がありません。サウジアラビアで通用する認証が、そのままインドネシアやマレーシアで通用するとは限らないのです。認証機関自体も国や地域によって異なり、マレーシアはJAKIM、インドネシアはMUIといった政府系機関が認証を担う一方、今回取り上げる日本の事例では東京のジャパン・イスラミック・トラストが認証を発行しています。

輸出先を広げようとするたびに新しい認証が必要になり、手続きの負担がそのまま積み重なっていきます。「1つ認証を取れば中東全体に売れる」という単純な話ではない点は、最初に押さえておく必要があります。

認証済みの処理施設が国内でも限られている

ハラール認証を持つ食肉処理施設は、熊本県や兵庫県など一部の地域に限られているのが現状です。兵庫県三田市の食肉処理施設は、ジャパン・イスラミック・トラストの認証のもとサウジアラビア食品医薬品庁に登録され、サウジアラビア向け輸出の道を開いています(※2022年11月時点、出典:ハラル・ジャパン協会)。

業界団体からは「インドネシア・マレーシア向けの処理施設は不足気味」との指摘もあり(※2022年時点、出典:ハラル・ジャパン協会)、輸出したい品目や仕向国によっては、そもそも仕入れ先の選択肢自体が少ないという壁に先にぶつかります。国内にハラール屠畜施設が何カ所あり、新規事業者がどうアプローチできるかはこちらの記事で詳しく取り上げています。

加えて、イスラム諸国の中には正規の輸入ルートとそれ以外のルートが混在する国もあると指摘されており(※2022年時点、出典:ハラル・ジャパン協会)、登録済みの施設を通じた正規ルートで仕入れることの重要性はなおさら高くなります。

熊本発の黒樺牛はどうやって中東を掴んだか

三つの壁を実際に越えてきた事例として、熊本県の一銘柄が中東市場をどう開拓してきたかを見てみます。認証取得から現地パートナーとの連携まで、段階を踏んで進めてきた経緯がわかります。

2022年、UAEへの初出荷から始まった

熊本県宇城市の杉本本店は、2022年1月にハラール認証を取得した黒毛和牛精肉をアラブ首長国連邦(UAE)へ初出荷しました(※2022年1月時点、出典:熊本日日新聞)。当時から台湾やシンガポールなど複数国の認可取得も視野に入れ、中東・アジアへの輸出拡大を計画していたと報じられています。

2023年、中東11カ国向けに年間300トン体制へ

その後、杉本本店は東京の食肉商社やドバイの現地パートナーと連携し、2023年5月時点でドバイ・カタール・サウジアラビア・クウェートなど中東・アフリカ11カ国向けの輸出準備を整えたと発表しています(出典:PR TIMES、2023年5月12日)。同発表では、FSSC22000認証施設で処理した熊本A5ランクのハラールと畜済和牛「黒樺牛」を扱い、年間300トンの輸出を目標に、ドバイ市内の130件のレストラン・スーパーマーケットへの卸実績があるとされています。

冷凍倉庫には牛50頭分の在庫を確保し、スタッフ21名の体制で年商100億円という目標を掲げている点からも、単発の輸出ではなく現地に根を張った販路づくりを進めている様子がうかがえます。

一つの産地・一つの銘柄が、認証と現地パートナーを組み合わせることで中東という広い市場をつかんだ実例だと言えます。

宮崎など他産地でも中東進出が進む

ハラール和牛に取り組んでいるのは熊本だけではありません。宮崎県西都市の食肉加工会社は、東京のジャパン・イスラミック・トラストの認証を工場で取得し、イスラム教徒のスタッフを雇用したうえで、カタール向けに冷凍牛肉150キログラムを初出荷しました(※2025年1月時点、出典:ARAB NEWS)。

イスラム教徒のスタッフを処理工程に置くのは、と畜から加工までハラールの基準が途切れないようにするためで、認証を「取って終わり」にしない運用体制の一例です。2027年度には94トンの輸出を目標に掲げており、2025年3月にはドーハのレストランで約70人を集めた試食イベントも開かれています(※2025年時点、出典:ARAB NEWS)。

熊本・宮崎など複数の産地が同時並行でハラール認証の取得と現地プロモーションを進めていることは、中東における和牛の受け皿がこの先も広がっていく可能性を示しています。

輸出初心者が現実的に取れる仕入れルート

自社での認証取得を急がない

ここまで見てきた三つの壁を踏まえると、輸出初心者がまず自社でハラール認証の取得を目指すのは、遠回りになりやすい選択です。認証は「取ること自体」が目的ではなく、輸出先と数量の見通しが立ってから検討すべき投資だからです。

見通しの立たない段階で認証取得に踏み込むと、負担だけが先行してしまいます。まずは既存の認証済みルートで実際に売れるかどうかを確かめてから、自社認証を検討しても遅くはありません。

すでに認証を持つ生産者・処理施設と組む

現実的なのは、杉本本店やSEミート宮崎のようにすでにハラール認証を取得している生産者・処理施設から仕入れ、輸出手続きの部分で力を発揮するという役割分担です。

声をかける前に確認しておきたいのは、どの認証機関の証明を持っているか、サウジアラビアなど狙う国の当局への登録が済んでいるか、と畜証明書やハラール証明書を発行できる体制があるか、そして小規模な取引量でも応じてもらえるロットの下限です。

認証済みの施設は熊本・兵庫・宮崎など地域が限られるからこそ、どの施設がどの国向けの認可を持っているかを早い段階で把握しておくことが、仕入れ先選びの近道になります。

最初は小さなロットで実績をつくる

認証済みの生産者・処理施設が見つかっても、初回から大きな数量を求めるとかえって話がまとまりにくくなります。杉本本店やSEミート宮崎のような輸出体制が整った事業者ほど、既存の取引先を優先しがちだからです。

まずは現地の小売店やレストラン数軒に届ける程度の小さなロットから始め、通関書類のやり取りや温度管理といった実務を一通り経験しておくと、量を増やす段階での交渉がしやすくなります。焦って自社認証や大量仕入れに動くより、小さな成功を積み重ねる方が、結果的に中東市場への近道になるケースが多いのが実情です。

まとめ

サウジアラビアをはじめとする中東の和牛需要は今後も伸びる余地がありますが、その入口に立てるのは認証という基準を満たした業者だけです。認証取得の負担、国ごとの基準の違い、国内施設の少なさという三つの壁を知った上で、すでに認証を持つ生産者と組み、まずは小さなロットで実績をつくる。この順番を踏めば、輸出初心者でも現実的にこの市場に近づくことができます。

あさひ通商では、仕入れ先候補となる生産者・処理施設が仕向国向けの登録を実際に持っているかの確認や、ハラール証明書をはじめとする輸出書類の整合性チェックなど、和牛輸出に関するご相談を承っています。

出典・参考資料

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